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6 沿岸輸送政策
6.1 沿岸輸送の利点
 これまで見てきたように、タイの沿岸輸送は非常に限られた役割しか果たしていない。現在は極論すれば、沿岸輸送はタンカーによる石油製品の輸送及び短距離バージ輸送に限られている。
 
 しかしながら、沿岸輸送の役割の減少はタイに限定されたものではない。貨物の道路輸送比率の増加は、過去数十年に渡りほぼ万国共通の特徴であり、その結果として鉄道及び沿岸輸送は苦戦している。しかしながら現在、地球温暖化防止対策の一つの手段として、エネルギー多消費型の道路輸送から沿岸輸送及び鉄道輸送にモーダルシフトする動きがあり、日本及びヨーロッパは、このモーダルシフト政策を重視している。
 
 沿岸輸送へのモーダルシフトに関心が持たれている要因は少なくとも5要素あり、その全ての要因がタイの環境にもある程度適用できる。
6.1.1 エネルギー
 全ての形態で船舶輸送は、陸上輸送と比較して、長距離輸送になればなるほど沿岸輸送は、エネルギー効率面において非常に優位となる。
 
 1970年代の石油危機以降の石油価格の長期的な低落傾向は、このことを考慮する重要性を覆い隠してきた傾向があった。しかし、近年の価格の上昇は、長期的にはエネルギー価格は上昇の一途にあるということを思い出させた。化石燃料の供給が逼迫し、価格が上昇するにつれ、エネルギー多消費型の輸送がコスト面から競争力がなくなる。
6.1.2 環境汚染
 
 全ての国は、地球温暖化を押さえなければならないという強まりつつある圧力の下にある。輸送活動分野による温室ガスの排出を削減する一つの手段として、可能な限り自動車輸送から温室ガスの排出の少ない海上輸送へとモーダルシフトを推進すべきであると言われている。
 
 一般的には、海上輸送は騒音及び空気汚染などの環境問題の全てにおいて、自動車輸送と比較すると好評価が得られるであろう。汚染物質の量が少ないだけでなく、居住地域から離れたところで排出されるため汚染物資の集中が人間に与える影響が低くなる。
6.1.3 渋滞
 
 タイの国内幹線道路網の渋滞は深刻な問題となってきており、今後もそれが続く見込みである。これまでに見てきたように(3.2.2項参照)、タイにおける道路空間に対する需要は過去10年間にわたり供給を超過してきた。既存の容量を補う費用は増加し続ける見込みで、新道路開発に対する環境団体からの反対も増え続けることが予想される。
 
 鉄道輸送については、特にバンコク行き及びその周辺の鉄道路は不足する一方であり、タイ国鉄は、バンコク市内の鉄道線の高架及び主要幹線の複線化を計画しているが、巨額な資金が必要なため、計画の実施が困難な状況である。
 
 一方、沿岸輸送は、基礎インフラストラクチャーへのごく少額の投資だけで国内輸送システムの容量を拡大する唯一の機会を提供する。
6.1.4 安全
 
 貨物輸送の安全性を比較できる正確なデータはタイでは入手困難である。しかし、トン・キロメートル当たりの必要労働時間数が少ないことから、トン・キロメートル当たりの死傷については海上輸送が非常に優れていることにほぼ疑いの余地はない。経済発展の特徴的な結果の一つは、経済活動において安全性が徐々に軽視されてくることである。これが将来、安全をより重要視する方向へと変わるとは思われない。
6.1.5 路線整備費用
 
 海運業界に共通の不満は、タイ政府は道路及び鉄道の路線設備を大幅に補助するが、海事産業分野には、現在、インフラ整備及び船舶調達のための補助制度がないということである。
 
 道路及び鉄道業界における経済改革は、路線設備投資を陸上輸送手段から確実に全額回収することに焦点が当てられているようである。しかし、現在大型車両からは道路の設備費及び維持費の全額を回収できていない。結果は、道路網の過剰利用と政府による道路システム整備費用の増加となっている。さらに、道路輸送車両に蔓延する積載超過により、非常に道路会計は悪化している。
 
 沿岸輸送利用の増加は、同不均衡の是正に大いに貢献できる。
6.2 タイの沿岸輸送政策
6.2.1 政策構想
 
 タイの沿岸輸送政策は、閣議によって承認された海事産業振興基本計画(1999〜2006)に記されている。
 
政策構想−海事産業振興基本計画
 
政策の骨子
1. 海運産業を、タイにおける将来の海上輸送の需要を担うだけの有効かつ充分なレベルまで発展させる。
2. 貿易を促進し支援するために、輸入・輸出に際し適正価格で信頼できる輸送を提供する。
3. 国際的競争力を持ち、国内及び地域経済成長の発展及び国家安全保障のために、国内商船隊の効率性を高めるとともに船腹量の増大を進展させる。
4. より良い海上輸送を行うために効率的かつ充分な内陸部のコンテナデポサービス及び複合輸送システムを促進する。
5. タイの港湾に寄港する船舶の港湾荷役を効率化するため、適切な港湾設備を確保する。
6. 海運業を支援するために船舶修理及び造船産業を発展させる。
7. 国内海運産業の促進及び支援タイ人の外交船舶への就職機会の提供、海上安全に関する基準の引き上げ、海上及び海洋汚染の防止を目的とした国内海運産業に充分な船員及びその他海事従事者向けの国際基準の教育及び訓練を確保する。
8. 沿岸輸送の海外輸送の補助及び国内輸送における海運比率の増加を促進する。
9. 海運産業に関係する公的機関の効率性及び構造を改善する。
 
6.2.2 目標
 
 海事産業振興基本計画では沿岸輸送の目標を、貨物輸送における沿岸輸送比率を、第8次国家経済社会開発計画(1996〜2001年)の間では国内貨物の5%超に維持し、第9次国家経済社会開発計画の終了時までに5.7%に増加させることとしている15。(表3.1-1によると、1997年の沿岸輸送比率は4.85%と推定される。)
6.2.3 沿岸輸送振興戦略
 
 海事産業振興基本計画に基づく沿岸輸送振興戦略では、沿岸港湾の開発及び沿岸輸送フリートの開発という2つの領域に焦点を当てている。
 
沿岸港湾の開発
 
 沿岸港湾の開発戦略は以下の通りである。;
 
・既存港湾のインフラストラクチャーの最適能力への発展
・観光業を促進し、レムチャバン港への貨物サービスを提供する新港の開発
・石油産業基地のための採掘権者によるソンクラ−港の新施設開発促進
 
沿岸輸送フリートの開発
 
 沿岸輸送フリートの開発戦略は以下の通りである。;
 
・国内貨物輸送の沿岸輸送比率を増加させるための、バンコク〜南部南方地域間及びレムチャバン〜南部北方地域間の定期船サービスの発展の促進
・レムチャバン港からのコンテナ貨物の輸出促進のための、レムチャバン〜南部北方地域間のRo-Ro船への民間分野からの投資促進
・クルーズ旅客船ビジネスへの民間分野からの投資促進
・供給基地から沖合施設間の供給品、原材料、備品の運搬によるタイ湾での沖合石油・ガス採掘及び生産権者へのタイ沿岸輸送業者によるサービス提供の促進
15 輸送マスタープラン(1999-2006)内の数字である、2001年には沿岸輸送2.56%、国内水路3.80%、そして2006年までには沿岸輸送2.85%、国内水路4.00%という数字と同目標を一致させることはできなかった。
6.2.4 振興手段
 振興基本計画は、沿岸輸送開発目標を達成することを確保するための多数の振興手段を用意している。これは、規則改正、財務上及び税務上の奨励政策、インフラストラクチャー及び補助設備開発の3分野に分類することができる。
 
法規、規則、税関手続の近代化
 
 振興基本計画は以下の改善を提言している。;
 
・タイ船の外国所有比率限度の引き上げ
 同政策は、特に2千GTを越える船舶、又は高度技術や高額投資を必要とする船舶に対してより大きな枠を取るよう要求している。また、裸用船契約又はタイ領海内での一時的利用のための定期用船にかかわらず、タイの業者が沿岸輸送業務のために外国から船舶を用船することを許可すること。
 
・貨物取扱慣行の変更
 取扱手数料を減らすために主要港湾での沿岸船、国際航海船舶間の横付け荷積みを許可するよう規則変更すること。(船舶から船舶への荷積みは現在禁止されている。)
 
・バージ及び沿岸輸送船のサービス費用及び手数料の減額
 沿岸輸送船にかけられる港湾手数料の減額を要求している。それにより、沿岸船に対する手数料は国際航海船舶に対する手数料よりも低くなる。例えば、沿岸船はパイロットサービスなしで航路及び港湾内を航行することが可能になり、航路通行手数料の免除も可能になる。
 
財務上及び税務上の奨励政策
 
同項目における主な政策は以下の2種である。;
 
・国際航海船舶事業者に対するのと同様の方式による沿岸船舶乗組員への所得税の減額
・国際航海船舶事業者及び沿岸船舶事業者の低金利融資制度
 
 振興基本計画の中で、タイが船舶に対する低金利融資制度を運用するモデルの一つは、日本の船舶整備公団(現在の運輸施設整備事業団)の共有船舶方式であるとしている。
 
インフラストラクチャー及び補助的設備
 
 政策の枠組に含まれるインフラストラクチャー関連の手段には以下のものが含まれる。;
 
・港湾構造の港湾構造の品質及び安定性、貨物取扱設備の効率性、港湾活動用の土地の適性を重視した既存の公共港の改良
・既存の沿岸港湾への航路の維持及び年間を通じた安全航海を可能にする航海標識の改善
・内陸輸送インフラストラクチャー及び電気、水道の供給、電話接続を含めた公的設備開発の促進
・バンコクへのコンテナフィーダー輸送を行うバンサファン港のような既存民間港湾におけるRo-Ro船設備の開発
・ソンクラー港管轄区域内の石油供給基地の物流支援発展に対する投資及び主要な役割の負担
・レムチャバンの果物缶詰輸出支援のためのタイ南部北方地区と東部地区間の定期航路を可能にする新港建設のフィージビリティースタディー
・トラート、スラータニー、プーケットなどの観光振興可能地域での新港建設又は既存港改良促進
・レムチャバン開発計画におけるクルーズ船のターミナル建設促進 








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