3 輸送分野
3.1 輸送モード別市場占有率
タイでは、長大な海岸線を有する国としては、道路輸送が貨物輸送を多く分担している。表3.1-1は、運輸通信省(MOTC)のデータによるものであるが、総貨物の約90%(トンベース)は現在道路輸送されていることがわかる13。沿岸輸送は5%、内水路は4%であるのに対し、鉄道の占める割合は2%と極めて低い。
13同データは積載メートルトンで表されている。貨物輸送の手段効率を測定するためによく使用されるトン・キロメートルの代替基準では、道路輸送の平均運搬距離は通常他の手段よりも短いため、道路運送の比率が低くなる。
表3.1-1: 貨物輸送機関分担率 (1992〜1997)
  |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
道 路 |
88.44% |
87.01% |
88.79% |
90.32% |
88.94% |
89.49% |
鉄 道 |
2.35% |
2.02% |
2.00% |
1.80% |
1.89% |
1.83% |
内水路 |
3.75% |
3.64% |
3.51% |
3.17% |
4.07% |
3.82% |
沿岸輸送 |
5.45% |
7.32% |
5.69% |
4.70% |
5.10% |
4.85% |
航 空 |
0.01% |
0.01% |
0.01% |
0.02% |
0.01% |
0.01% |
合 計 |
100.00% |
100.00% |
100.00% |
100.00% |
100.00% |
100.00% |
道路輸送が主に輸送活動を分担しているため、海運への助成及び船員の人材育成等が図られれば、貨物輸送の陸路から海路への移行は、沿岸輸送産業の将来的成長への大きなチャンスを有している。従って、本章の次節では道路輸送に焦点を当て、沿岸輸送産業の将来的成長の機会がどこにあるかにつき、より明確な考察を行う。
3.2 道路輸送分野
3.2.1 道路輸送
タイの国内貨物輸送における道路輸送の優位状態は、車両登録に関する統計に反映されている。1989年から1998年間のタイにおけるトラック登録数は、1989年の30万台未満から1997年の60万台超へと100%以上の割合で増加している。アジア経済危機により急速な成長は止まったが(図3.2.1-1参照)、これは一時的な現象にすぎないようである。
図3.2.1-1: 総トラック登録数(1989〜1998)
登録車両数の増加と共にトラックの平均サイズもわずかに大きくなっていることが見られる。図3.2.1-2は1994年に登録されたトラックと1998年に登録されたトラックのサイズの分布を比較している。1998年の分布線は常に1994年の分布線の右側を通っていることから、中間及び平均の車両サイズの増加が見て取れる。同変化は大きくはないが、トラックサイズの中間は、同期間中に5.3トンから約5.7トンへと増加している。
図3.2.1-2:登録トラックサイズの累積相対度数
この比較的小さな変化よりも重要な事は、指定車両積載限度の厳守の問題である。公式には、5車軸セミトレーラーは21トンまで運搬できるのに対し、10車輪トラックの積載荷重は13トンに限られている。しかし、本調査の過程で、調査員は幾度も組織的な積載超過が行われているとの主張を聞いており、これらの主張は偶然の目撃によるものと思われる。しかしながら、規則違反の積載超過の広まりは経済及び社会的影響が危惧されている(トラック自体及び他の道路利用者に対する安全への影響以外にも、道路保全予算の増加への影響は大きい。)。車軸当たりの積載量が道路設計上の基準を超過した場合、一軸積載量の4倍程度に道路の損傷は増加する。従って、トラックの積載超過は運送料に反映されない非常に重大な外的費用を伴っている。これは輸送モード比率を大きくゆがめる可能性がある。
3.2.2 道路の供給量及び利用状況
表3.2.2-1: DOH管轄下の道路網の種類別長さ(1989〜1998)
会計年度 |
有料及び国内幹線道路 (単位:km) |
その他 |
舗装道路 |
未舗装道路 |
合 計 |
1989 |
38,752 |
5,657 |
44,409 |
4,873 |
1990 |
39,932 |
5,513 |
45,445 |
4,360 |
1991 |
39,581 |
5,047 |
44,628 |
5,333 |
1992 |
43,170 |
3,542 |
46,712 |
3,745 |
1993 |
42,636 |
4,127 |
46,763 |
3,714 |
1994 |
45,675 |
4,186 |
49,861 |
2,359 |
1995 |
46,331 |
2,574 |
48,905 |
4,806 |
1996 |
46,600 |
2,206 |
48,806 |
4,962 |
1997 |
50,233 |
1,933 |
52,166 |
3,155 |
1998 |
51,374 |
1,710 |
53,084 |
3,110 |
幹線道路局(DOH)の管轄下にある有料及び国内幹線道路網は、長距離道路輸送に使用される道路輸送システムの中心となっている。1989年から1998年に渡り、同道路網内の道路の長さは約19%も増加し、44,400kmから53,100kmになった(表3.2.2-1参照)。
同期間中の、同道路網における車両利用は4,160万から1億580万車両kmに増加した。後者の数字はアジア経済危機による自動車利用低下の影響を反映した数字である。その前年(1997年)の総移動距離は1億1千万kmを超過していた。
図3.2.2-1: 1997年車両種類別交通需要(車両キロメートル)
図3.2.2-1は種類別車両需要の内訳である。1998年は経済の減速によりトラックの比率は減少したが、1998年のデータよりも通常の状況を表していることから同内訳には1997年の数字を利用した。中型、大型トラックを合わせると、総交通量の約20%と非常に大きな割合を占めている。同割合を、それぞれのトラックによる道路スペースの専有面積は、乗用車による需要と比較してはるかに大きいという事実を考慮に入れて乗用車に合わせて調整すると、結果は30%に近づくことになる。つまり、大型貨物車両はタイ全土の有料及び国内幹線道路総需要の約30%を占めているということである。
道路スペースに対する需要の増加を、供給の増加と比較することは有益である。図3.2.2-2は、有料及び国内幹線道路網の総交通量の増加を、道路の長さと関係して示している。需要は、1989年の1km当たり94万車両kmから、経済危機により減少する以前の1996年には222万車両kmに増加した。
図3.2.2-2:有料及び国内幹線道路のキロメートル当りの交通需用
(百万車両キロメートル/キロメートル)
需要規模を1989年のレベルに維持するためには、現行の国内高速道路と同じものをもう一つ造る必要がある。しかしこれは明らかに行われておらず、従って、道路空間に対する需要増加が交通渋滞の増加につながることは明白である。
3.2.3 道路貨物輸送に対する需要の構造
〈貨物品目〉
特定の貨物が沿岸輸送への移行候補となり得るかにつき検討するかどうかを予備的に見極めるために、道路で輸送されている主要貨物について上記二要件を考慮に入れながら簡易な「適正指数」を見積もった。それぞれの商品に、表3.2.3-1の規則に基づき点数を付けた。
表3.2.3-1: 沿岸輸送への移行適正度
  |
平均運搬距離 (キロメートル) |
年間量 (単位:千トン) |
< 150 |
151-300 |
301-450 |
> 450 |
< 5,000 |
0 |
1 |
2 |
3 |
5,001 − 10,000 |
1 |
2 |
3 |
4 |
> 10,000 |
2 |
3 |
4 |
5 |
得点方式による結果は表3.2.3-2に記されている。同表から、最大得点の5点を付けた商品はなく、以下の6品目の商品が4点を付けたことがわかる。
・木材及び建材
・その他の農業製品
・雑貨、コンテナー
・米
・金属製品
・石油製品
表3.2.3-2は1998年に道路輸送された主要貨物の重量を示している。表のデータはトン及びトン・キロメートルの両方の基準で示されているため、それぞれの商品の平均輸送距離を計算することが可能である。沿岸輸送が、以下の特定の状況下において最も競争力があると考えられるため、本調査ではこのことを重要視して検討する。
・輸送量が多量である場合
・道路による平均輸送距離が長距離の場合
商品グループ |
トン (千) |
トン・キロメートル (百万) |
輸送距離 (キロメートル) |
適正指数 (最大5点) |
家畜等の動物 |
2878 |
1896 |
658.8 |
3 |
ゴム |
2192 |
1388 |
633.2 |
3 |
木材、建材 |
6260 |
3916 |
625.6 |
4 |
家畜飼料 |
3496 |
1808 |
517.2 |
3 |
化学薬品 |
1697 |
809 |
476.7 |
3 |
その他の農業製品 |
8399 |
3944 |
469.6 |
4 |
肥料 |
4072 |
1774 |
435.7 |
2 |
トウモロコシ |
3500 |
1513 |
432.3 |
2 |
雑貨、容器 |
21973 |
9008 |
410.0 |
4 |
米 |
24774 |
9823 |
396.5 |
4 |
金属製品 |
12943 |
5081 |
392.6 |
4 |
その他食料 |
9275 |
3077 |
331.8 |
3 |
石油製品 |
29985 |
9731 |
324.5 |
4 |
カッサバ |
15642 |
4686 |
299.6 |
3 |
砂糖 |
6327 |
1892 |
299.0 |
2 |
その他の鉱物及び建築材 |
14869 |
4220 |
283.8 |
3 |
備品、その他製造品 |
12679 |
3588 |
283.0 |
3 |
セメント |
50555 |
11480 |
227.1 |
3 |
鉱石及び金属廃物 |
23950 |
2388 |
99.7 |
2 |
固形無機質燃料(石炭等) |
21473 |
1985 |
92.4 |
2 |
砂、砂利、土、鉱さい |
88839 |
5672 |
63.8 |
2 |
サトウキビ |
50948 |
787 |
15.4 |
2 |
出典: Information Centre, Transport and Communication Policy and Planning Bureau, Ministry of Transport and Communications.
これらの6品目の内、石油製品は既に大部分が海上輸送されている。その他の農業製品は、実際には特定できない非常に雑多な商品流通を分類したものである。従って、金属製品、米、木材及び建材、コンテナーの4品目について更に調査することが有効であるとした。
〈地域別分類〉
表3.2.3-3は、1998年の道路貨物輸送の発送地及び到着地についてまとめている。明らかに、沿岸輸送が競争不可能な内陸部の移動区間がいくつかある。例えばバンコク〜北部県、北東部県間などである。これらの区間は表3.2.3-3で濃色で示しており、道路貨物全体の約66%を占めている。
他に沿岸輸送が可能ではあるが、一般的に輸送距離を大幅に節約することがないか、あるいは長距離道路輸送の併用が必要な区間がある。従って、これらの路線では沿岸輸送が一般貨物輸送において大きな比率を占めることは難しいと考えられる。しかし、沿岸輸送は特定の大量貨物、特に大量の液体(石油等)の移動では重要な役割を果たす。表中で淡色で表されたこれらの流通は、道路貨物全体の約21パーセントを占めている。
最後に、海上輸送の距離が道路輸送距離よりかなり短い区間があり、このような区間では沿岸輸送を選択することが妥当であると思われる。これらは主に西部及び南部県からバンコク及び東部沿岸地域区間である。双方を合わせると道路貨物全体の約13パーセントとなる。この中で、西部県〜バンコク及びその周辺地域区間が特に重要である。
表3.2.3-3: 道路貨物輸送のOD表,1998年(単位:千トン)
  |
到 着 地 |
発 送 地 |
バンコク及びその近郊 |
北部 |
北東部 |
中部 |
東部 |
西部 |
南部 |
合計 |
バンコク及びその近郊 |
15,393 |
13,395 |
8,379 |
3,980 |
6,838 |
7,914 |
8,620 |
64,519 |
北部 |
14,360 |
36,194 |
348 |
14,747 |
1,141 |
2,997 |
355 |
70,142 |
北東部 |
11,802 |
404 |
26,692 |
5,483 |
7,097 |
2,118 |
333 |
53,929 |
中部 |
28,588 |
7,997 |
348 |
29,421 |
5,256 |
2,645 |
1,545 |
75,800 |
東部 |
27,185 |
1,321 |
19,108 |
677 |
31,052 |
1,124 |
417 |
80,884 |
西部 |
30,172 |
1,605 |
823 |
983 |
436 |
16,247 |
411 |
50,677 |
南部 |
3,209 |
302 |
259 |
207 |
693 |
210 |
15,901 |
20,781 |
合 計 |
130,709 |
61,218 |
55,957 |
55,498 |
52,513 |
33,255 |
27,582 |
416,728 |
出典: Information Centre, Transport and Communication Policy and Planning Bureau, Ministry of Transport and Communications