第3章 モデル排ガスによるシステムの機能評価
3.1 目的
本調査研究では、従来型の脱硝触媒の問題点である出港時の問題を解決する方法として、「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい脱硝触媒システムの調査研究を行い、小型内航船用ディーゼルエンジンの脱硝システムの性能改善を図ることを目的としている。
また、これまでの調査結果から、従来型のアンモニアあるいは尿素法SCRシステムは、いくつかの課題は残るものの、排気ガスの温度が充分に高くなったときには有効に作動し、90%近いNOxの除去が可能であることがわかっている。したがって、当面問題となるのは、出港時の触媒温度が低い領域で排出されるNOxである。低温時に排出されるNOxを一時的に吸着しうる吸着剤が開発されれば、高温時には従来型の脱硝触媒で対応が可能である。本調査研究は従来型の脱硝触媒と組み合わせての使用を前提として、表3.1-1に示す平成9、10年度の結果から吸着剤として優れるMn2O3・2ZrO2を用いて評価を行った。
表3.1-1 吸着材の性能比較(100℃からの昇温吸着試験結果)
吸着剤 |
NO |
O2 |
H2O |
吸着量 |
H2O存在下での吸着能力 |
(ppm) |
(%) |
(%) |
(cm3/ cm3-cat.) |
Ba-Cu-O |
1,000 |
10 |
0 |
4.63 |
・ |
1,000 |
10 |
10 |
2.67 |
58% |
マンガン・ジルコニアMn2O3・2ZrO2(450℃焼成) |
1,000 |
10 |
0 |
3.31 |
・ |
1,000 |
10 |
10 |
3 |
91% |
ゼオライト
(Cu(224)-ZSM5(80)) |
1,000 |
10 |
0 |
2.15 |
・ |
1,000 |
10 |
10 |
0.413 |
19% |
3.2 モデル排ガス試験用評価装置の作製
(1)装置概要
反応には常圧固定床流通式反応装置を用いた。コンパクトフロー(大倉理研製)をベースとし、水蒸気供給ライン、SO2供給ライン、還元剤(アンモニア)供給ラインをそれぞれ追加して用いた。この反応装置の概要を図3.2-1, 3.2-2に示した。反応管には外径10mm、内径8mmの石英管または同サイズのステンレス管(「吸着剤−触媒」2層反応)を用いた。吸着剤または触媒を反応管内にシリカウールを用いて固定し、反応時に触媒層内の温度差が±1℃以内になるように装着した。反応温度の制御は触媒層の中心に挿入した熱電対により行った。吸着剤および触媒は特に付記しないかぎり、N2気流中10℃/minで昇温し、500℃で60分間前処理を行ったあとで反応に用いた。
反応ガスは、それぞれ流量をサーマルマスフローコントローラで制御し、N2、O2、NOの順で混合した。反応用混合ガスに含まれるNOxのNO2濃度は5%程度である。また、本反応では、供給ガス中のそれぞれの反応基質濃度がいずれも極めて低いことが特徴である。そこで、より正確な流量制御を行うため、ガスの供給にはO2以外、N2による希釈ボンベを使用した。(1%のNOまたはNO2、バランスガスN2)
図3.2-1 実験装置全体図
図3.2-2 反応装置図
(2)「吸着剤−脱硝触媒」2層式反応器
実排ガス試験に先立ち、本検討課題である「吸着剤−脱硝触媒」システムの有効性を検証する目的で、粉体での「吸着剤−脱硝触媒」2層触媒反応器を作成し、実際にアンモニアによる選択還元触媒と組み合わせた脱硝システムの有効性を確認した。反応装置概要を以下に示す。
吸着剤層を上段(上流側)に、脱硝触媒を下段(下流側)にそれぞれ充填し、それぞれをシリカウールで固定している、また還元剤であるアンモニアの導入ラインを[1]吸着剤の前方、および[2]吸着剤と脱硝触媒の中間にそれぞれ設置し、還元剤の導入位置による脱硝性能の違いも検討した。アンモニア導入ラインは反応層の温度の低下を避けるため、リボンヒーターにて加熱保持を行っている。
図3.2-3 2層反応用装置
図3.2-4 2層式反応器外観
試験方法は前述の昇温吸着脱離試験と同様の手順で行い、NOの脱離量に相当する還元剤を供給して行った。その他の実験条件を以下の表3.2-1にまとめて示した。
表3.2-1 「吸着剤-脱硝触媒」2層反応の実験条件
  |
条件 |
全ガス流量 |
100cc/min |
吸着剤重量 |
0.5g(SV=6,000h-1) |
脱硝触媒重量 |
0.43g(SV=10,000h-1) |
0.7g(SV=6,000h-1) |
還元剤 |
アンモニア(N2希釈ガス) |
0〜3,500ppm |
H2O濃度 |
10% |
バランスガス |
N2 |
(3)ハニカム反応器
ハニカム成型した吸着剤の性能評価を行うことを目的として、装置作製を行った。ハニカム成型品を充填するための反応管を作製し(図3.2-5)、ハニカム中心部分と下端部分の温度計測を行っている。
図3.2-5 ハニカム試験用反応器
図3.2-6 ハニカム反応器外観(吸着剤セッティング時)
試験方法は粉体の昇温吸着脱離試験と同様の手順で行った。その他の実験条件を以下の表3.2-2にまとめて示した。
表3.2-2 吸着剤ハニカム試験の実験条件
  |
条件 |
全ガス流量 |
690cc/min |
ハニカムサイズ |
2.2cmφ×長さ4cm |
ハニカム担体 |
コージェライト押し出し成型体 |
セラミックファイバー巻き成型体 |
SV値 |
3,000h-1 |
H2O濃度 |
5% |
バランスガス |
N2 |