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4−4 急速圧縮膨張装置を使用した廃食用油の燃焼観察
 廃食用油の燃焼改善とエンジンにおける燃焼経過および性能の変化に対する影響を明らかにするために急速圧縮膨張装置を使用して廃食用油の燃焼観察を行った。試験条件および撮影条件を表4・8に示す。
表4・8 試験条件および撮影条件
  燃料 廃食用油
  燃料噴射量 実機4/4負荷相当
  燃料噴射時期 6degBTDC(実機10degBTDC相当)
  圧縮比 実機16相当
  容積比 39%
  連絡口面積比 1.5%
  連絡口数 6,8
  連絡口角度 α 100,138,152°
  燃料噴射ノズル φ0.4×4−60°
    φ0.4×6−60°
    φ0.55×1+φ0.16×2−100°
    φ0.55×1+φ0.16×4−100°
  駆動圧力 約1MPa(実機1200rpm相当)
  圧縮始め空気温度 523K(遮熱エンジン相当)
  圧縮始め空気圧力 173kPa
  撮影速度 9,000fps
  照明 主室  キセノンランプ
    副室  銅蒸気レーザー
  フィルム 400ftカラー
4−4−1 連絡口数の影響
 燃料噴射ノズルφ0.4×4‐60°、連絡口数が6噴口、8噴口の場合における燃焼写真を図4・24、図4・25にそれぞれ示す。図から明らかなように、6噴口の場合では主室における噴流の間には火炎が満たされていないが、8噴口に増加させると火炎は主室全体に満たされるものの、逆に噴流同士の干渉が大きくなり、噴流としての継続が不充分になっている。このため、燃焼室中心部で火炎が燃焼後期まで存在して燃焼期間が長くなっており、単気筒エンジンでの結果を説明している。以上のことから、連絡口数は主室における火炎の分布に大きな影響をおよぼすことが明らかである。
4−4−2 連絡口角度の影響
 燃料噴射ノズルφ0.4×4‐60°、連絡口数が6噴口の場合において、連絡口角度が100°、152°における燃焼写真を図4・26、図4・27にそれぞれ示す。
 連絡口角度が100degの場合には噴流が燃焼室壁面に衝突することにより、噴流の幅が広がり、隣り合う噴流同士が干渉するようになる。また、火炎が壁面に衝突することによるスモークの生成が顕著である。これは連絡口数を増加した場合と同様の効果となり、燃焼が悪化し、単気筒エンジンにおける結果を説明している。
 一方、連絡口角度を152degにした場合では、ピストン頂面での衝突の角度が大幅に減少するため、衝突による噴流速度の影響はほとんどなく、噴流も放射状にシリンダ外周まで届いている。また、衝突によるスモークの生成も極めて少なくなっている。しかし、単気筒エンジンではその構造上、吸排気バルブが燃焼室壁面に突出しており、6噴流の内3つは常に火炎がその吸排気バルブに衝突している。このため、実機では連絡口角度を大きくすることによる効果を十分に得られなかったものと考えられる。したがって、この効果を大きくするためには、連絡口の方向を吸排気バルブを避けるような方向に再配置すること、吸排気バルブに向かう方向にある連絡口のみの角度を小さくすることなどの方法が考えられる。
4−4−3 燃料噴射方向の影響
1)噴口径、噴口数の影響
 燃料噴射ノズルがφ0.16×4‐60°およびφ0.16×6‐60°の場合における燃焼写真をそれぞれ図4・28図4・29に示す。燃焼写真から明らかなように、両ノズルともノズル噴口付近で着火し、その時の噴霧先端は副室中央付近となっている。この場合も未燃の燃料噴霧が連絡口に達し、主室に未燃の燃料が流出することはない。副室の燃焼は4噴口、6噴口いずれの場合でも、大きな差異はなく、ほぼ同様の燃焼経過となっている。主室においても同様で、主室に噴出する火炎の輝炎は少ない。この気炎の少ないことは図3・22に示す燃料噴射ノズルφ0.16×4‐40°の場合と同様である。同様に、図3・24に示す燃料噴射ノズルφ0.4×4‐60°の場合と比較すると、φ0.16×4‐60°の場合における燃焼は燃料噴射方向よりも噴口径の影響を大きく受けていることがわかる。実機ではφ0.16×4‐40°、φ0.16×4‐60°の場合にスモークが少ないが、噴口数を増加させたφ0.16×6‐60°ではスモークが若干増加している。この場合の燃焼写真を観察すると、燃焼後期に副室からスモークが噴出しており、スモークの増加は副室からとなっていることがわかる。これは噴口数の増加に伴い、隣り合う噴霧同士が干渉し、燃料噴霧の副室内の空気との混合が阻害されているためと考えられる。燃焼写真ではこの干渉が明確には観察できないが、6噴口の場合では副室下部に観察できるスモークの生成と考えられる褐色の濃い部分が多くなっている。以上のことから、燃料噴射方向が同じでも噴口径を変えた場合の方が燃焼が大きく変わり, 噴口径の方が燃焼に及ぼす影響が著しく大きい。なお、この場合でも火炎が副室に噴出した後の主室での再燃焼による燃焼ガスの逆流は少なく、また、噴流は燃焼の後期まで継続している。
 
2)燃料分布の影響
 燃料噴射ノズルφ0.55×1+φ0.16×2‐100°およびφ0.55×1+φ0.16×4‐100°における燃焼写真をそれぞれ図4・30図4・31に示す。
 これらのノズルは、単噴口ノズルφ0.55×1に副室上部に燃料を分布させ、単噴口ノズルにおける副室上部の未利用の空気を活用させることを意図している。燃焼写真に示すように、副室では火炎が副室全体に満たされるようになり、さらに主室では燃焼の後期まで噴流が継続し、意図したことが達成されていることが明らかである。特に燃焼の後期では輝炎が急激に現象し、噴流の効果が現れている。なお、火炎の主室への噴出初期は図3・21に示す単噴口ノズルφ0.55×1の場合に酷似している。しかし、単噴口ノズルではこの最初に主室に噴出した火炎の再燃焼による燃焼ガスの逆流が観察され、燃焼が2段となっていたが、燃料の分布を副室上部へ追加することにより、この逆流は阻止され、その後の燃焼ガスの噴出が噴流となって継続するようになった。すなわち、副室上部に供給された燃料はその燃焼によりφ0.55×1の噴口から噴射された燃料を押し出すように作用し、これが燃焼初期に噴出した火炎の副室への逆流を阻止し、さらに主室での燃焼量を増加させたものと考えられる。実機では燃焼初期の熱発生率の増加が著しく、この期間での燃焼ガスの挙動が単噴口ノズルとの大きな違いとなっている。なお、燃焼経過の概略はむしろ燃料噴射ノズルφ0.4×4‐60°の場合に近くなっている。
 
4−4−4 まとめ
 単気筒遮熱エンジンならびに急速圧縮装置を使用して、燃焼に大きく影響を及ぼす設計要素として連絡口の数および角度、連絡口面積比、副室内における燃料分布を取り上げ、これらの要素が燃焼におよぼす影響を明らかにした。その結果をまとめると以下のようになる。
 
(1)主室における連絡口数、副室における燃料噴射ノズルの噴口数ともに、隣り合う噴流、燃料噴霧の干渉を避ける。
(2)性能向上を達成するためには燃焼後期まで、噴流を継続させる。
(3)上記を満足する連絡口面積比、燃料噴射ノズルの組み合わせは数種類ある。
(4)これらの中で、連絡口面積比1.5%、連絡口角度138°、燃料噴射ノズルφ0.4×4‐60°が高い性能を維持し、低い排ガスをバランスする組み合わせとなった。
(5)この組み合わせでは、噴射時期遅延時に性能の低下が少ないことが大きな特徴である。
(6)この組み合わせを試作する4気筒エンジンの燃焼・噴射系の第一候補とする。
 
 なお、今回取り上げた設計要素以外に燃焼に大きく影響を及ぼすものとして、副室内におけるスワールあるいは縦渦、主室内におけるスワール、タンブルなどの空気流動、主室副室の燃焼室形状が挙げられる。これらのエンジン性能・燃焼経過におよぼす影響についてはまだ未検討であるが、これらの影響について詳細に調査し、今回明らかにされた設計要素との最適化によりさらにエンジンの性能向上、排ガス低減が図ることができるものと考えられる。
 
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図4・24 燃焼写真(A/R=1.5%−6,φ0.4×4‐60°)
 
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図4・25 燃焼写真(A/R=1.5%−8,φ0.4×4‐60°)
 
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図4・26 燃焼写真(A/R=1.5%−6‐100°,φ0.4×4‐60°)
 
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図4・27 燃焼写真(A/R=1.5%−6‐152°,φ0.4×4‐60°)
 








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