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3−3 平成12年度研究開発成果報告
3−3−1 高温高圧容器を用いた燃焼試験
1)メチルエステルの燃焼観察
 廃食用油は軽油に比べて粘度が10倍以上大きく、噴射される燃料噴霧の発達、その後の燃焼に大きな影響を及ぼす。そこで、廃食用油から精製され、従来のエンジンにも使用でき、軽油と同程度の粘度をもつメチルエステルの燃料噴霧、燃焼経過の観察を行い、燃料の粘度の違いによる影響を調査した。試験ではエンジンの燃料噴射、燃焼時の空気温度、圧力を模擬できる高温高圧容器を使用して、燃料の自由噴霧、燃焼の高速度写真撮影を行った。
 
2)高温高圧容器の概要
 高温高圧容器の構造を図3・1に示す。図に示すように、高温高圧容器は、円筒形で、圧力は外部からの高圧空気の充填により、温度は容器内部に取付けられた電気ヒーターによってそれぞれ昇圧、昇温され、エンジンの圧縮上死点付近の温度圧力を任意に設定できる。特に、空気温度に関しては遮熱エンジンに相当する1123K以上に設定可能である。さらに、照明に銅蒸気レーザーを使用したシャドウグラフ法の光学系および燃料噴射ノズル、噴射ポンプがそれぞれ付加されている。燃料は、モーターで駆動される燃料噴射ポンプから高温容器の中心に向かって噴射される。
 
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図3・1 高温高圧容器の構造
3)試験条件
メチルエステルの燃焼撮影における試験条件を表3・1に示す。
表3・1 試験条件
燃料噴射量 15mm3/st(4/4負荷相当の噴霧1本分)
空気温度 773K(水冷エンジン相当)
1073K(遮熱エンジン相当)
空気圧力 5MPa
撮影速度 10, 000 fps
フィルム 500ftカラー
撮影方法 シャドウグラフ
光源 銅蒸気レーザー
 

4)試験結果
(1)空気温度の影響
 空気温度773K、1073Kにおける燃焼経過を図3・2に示す。着火は、空気温度773Kの場合では噴射開始後1.2ms後、1073Kの場合では0.4ms後で、噴霧の横側で不輝炎として認められる。なお、着火開始の不輝炎は小さく、図では明瞭に確認できないので、図3・2では着火時期は0.1ms後の図を載せている。したがって、着火遅れは773Kでは1.2ms、1073Kでは0.4msとなり、通常の軽油の場合とほぼ同じである。
 着火後、773Kの場合,1073Kの場合ともに、着火点から噴霧先端に向かって噴霧は火炎に包まれる。773Kの場合では、着火後、0.3ms〜0.4msで着火遅れ期間中に形成されたものと考えられる予混合気による不輝炎で噴霧が包まれ、噴霧が横方向に膨張する。その後、噴射の継続にともなって噴霧内に燃料が供給される結果、噴霧全体に輝炎が広がる。しかし、輝炎が噴霧全体に広がった場合でも側方には不輝炎が残っている。メチルエステルはこの火炎内にすすが存在しない不輝炎が観察されるのは、メチルエステルには約12w%程度の酸素が含有していることが影響していると考えられる。時間の経過とともに輝炎は噴霧先端に移動し、噴霧後方では不輝炎となる。輝炎は噴霧先端に長時間残り、この部分への空気導入が不足していることを示している。輝炎の中心部、先端に褐色の部分が認められ、この領域にすすが多く生成していると考えられる。
 1073Kの場合では、着火遅れが非常に短く、混合気の形成が遅れるので、着火時の不輝炎は単時間で消滅し、噴射終了後0.8ms〜0.9msまで噴霧は輝炎で包まれる。着火後輝炎は噴霧先端に向かって進む。この期間の噴霧先端は黒い影となっているが、非常に高い過濃混合気となっているものと考えられ、これは着火遅れが非常に短いので、噴射された燃料の大部分は火炎の中を通過して先端に向かっているためと考えられる。燃焼噴霧の形状は二等辺三角形をなし、773Kの場合に観察された噴霧の横方向への膨張は認められない。噴霧のペネトレーションは速く、未燃の噴霧とほとんど変わらない。これは噴射期間中の大部分が燃焼であること、着火が噴霧根元付近で行われ、先端に向かって火炎が進むための相乗効果の結果と考えられる。噴射終了後、輝炎は根元の方から不輝炎に変わり、輝炎は噴霧先端に進むのは773Kの場合と同様である。しかし、輝炎の消滅は1073Kの場合の方が速くなっている。これは773Kの場合に見られる着火後の噴霧の膨張がないため、噴射による噴霧の側方からの空気導入が多く、空気温度も高いので燃焼が促進されているものと考えられる。このために、773Kの場合に見られた噴霧中のすすが多く生成されている領域の褐色の部分はやや薄くなっている。
 
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図3・2 メチルエステルの燃焼経過
(2)軽油および廃食用油との比較
 今回撮影したメチルエステルと平成11年度に撮影した軽油および廃食用油の燃焼を図3・3、図3・4にそれぞれ示す。ともに燃料噴射後1.7ms後で、燃料噴射終了直後である。なお、この場合の着火遅れは軽油、廃食用油ともに空気温度773Kで0.5ms、1073Kで1.3msでメチルエステルの場合とほとんど同じである。
 軽油の燃焼の場合、773Kでは噴霧周囲に不輝炎が観察されること、噴霧中心部にすすの褐色の濃い領域が観察されること、1073Kの場合では噴霧形状が二等辺三角形であること、すすの褐色の濃い部分が773Kの場合に比べて薄くなっていることなど、メチルエステルの燃焼は軽油の燃焼経過と同様の特徴を持っている。メチルエステルの燃料性状が、引火点、初留点を除いて、むしろ軽油に近いためと考えられる。以上のようにメチルエステルの燃焼は軽油の場合とほぼ同様となっており、このためエンジンにおいてもメチルエステルでの性能は軽油と遜色ないものと考えられる。
 一方、廃食用油の燃焼では、773Kにおいて不輝炎が観察されないことが大きな特徴である。しかし、空気温度を1073Kに上昇させると燃焼の特徴は軽油、メチルエステル、廃食用油ともに燃焼上の大きな差異は認められなくなる。
773Kにおけるメチルエステルと軽油の燃焼の相似性と実機での性能、および1073Kにおける3種の燃料の燃焼経過から、高温燃焼となる遮熱エンジンに廃食用油を軽油と同様の燃焼方式で適用可能であると予測できる。
 

5)まとめ
(1)廃食用油から製造されるメチルエステルは空気温度773K,1073Kの場合ともに、軽油とほぼ同様の燃焼経過となっており、燃焼の初期に不輝炎が観察される。
(2)空気温度1073Kでは、軽油、メチルエステル、廃食用油は同様の燃焼経過である。
(3)軽油で得られた遮熱エンジンの燃焼方式で、廃食用油を遮熱エンジンに適用できる。
 
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図3・3 軽油の燃焼経過
 
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図3・4 廃食用油の燃焼経過
 








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