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2−4−3 高温高圧容器を用いた廃食用油の燃焼試験
 廃食用油は軽油燃料に比べて極めて粘度が高いのでディ−ゼル燃料として用いる場合、燃料噴霧の粒径が大きくなるので、燃焼室内での噴霧の気化性が悪化し空気との分子レベルでの混合が悪くなり
[1] すすの生成増加や浮遊微粒子(PM)の増加
[2] 燃料の燃焼反応が空気との混合速度に律束され燃焼速度が遅延することおよび燃焼割合の低下に起因する燃費の悪化、
[3] 燃料噴霧内の等量比分布が大きくなり局所的な低等量比領域においてNOxの発生増加が生じると予測される。
 燃焼室周りを遮熱したエンジンでは燃焼室内壁面温度が高くなるので燃焼室内で圧縮される吸入空気は高温の壁面より受熱し、圧縮終わりでの空気温度が通常の冷却系を持つエンジンに比べ250k以上高くなる。この高温雰囲気を利用して廃食用油の噴霧粒子の気化を進め、空気との混合を促進することが重要な技術となる。
 燃焼室内空気の圧縮終わりと同じ高圧条件で空気の温度を変えた雰囲気中に、選定した噴射系を用いて廃食用油を噴射し、噴霧の拡散、空気との混合、着火の時期、燃焼のプロセスを観察することで、廃食用油の気化混合が促進し、確実に圧縮着火して燃えきる条件を調査し、試作するエンジンの遮熱構造を設計するための情報を得た。
 
1)試験装置と試験条件
 図2・2の試験に用いた燃焼観察装置の概要を、図2・3に高温高圧容器の構造を示す。表2・5に試験条件を示す。
 使用した高温高圧容器は内径420mm、長さ640mmで燃料噴霧に対して十分大きい。従って噴射ポンプを用いて容器内部に噴射された燃料の燃焼は一定圧力下の燃焼とみなせる。容器内の空気は電気ヒ−タ−により加熱されている。加熱された空気は自然対流により容器内で温度差を生じる。その温度差は容器内の上下位置でほぼ100Kである。噴射ノズルの近傍に設置された熱電対の温度で内部の空気温度値を代表させた。容器の観察窓は直径190mmの石英ガラス製で自由噴霧の観察範囲としては充分な視野を確保している。シャド−グラフの光源には平均出力10Wで連続パルスが可能なNEC製の銅蒸気レ−ザ−を用いた。パルス幅は約25nsecである。レ−ザ−光は焦点距離2m、直径200mmの凹面鏡を用いて200mmの平行なビ−ムとした。銅蒸気レ−ザ−の発光は高速カメラに同期している。使用した高速カメラはNAC製E−10であり、撮影速度は10,000コマ/秒である。
 燃料噴射量の調整は、噴射ノズルを高温高圧容器に取り付ける前に規定のポンプ回転速度(750rpm)で大気中に燃料を噴射させ、13.5mm3/stの噴射量を得た時の噴射ポンプのレバ−の位置を固定する方法で行った。容器内が試験条件の温度に達するまでに噴射ノズルとノズル内の燃料が過熱されることを防ぐため、噴射ノズルは外部より水で冷却している。高速カメラを始動しフィルムスピ−ドが10,000コマ/秒に安定した後、5〜6回の燃料噴射を行い、観察には最後の映像を用いた。
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2・2 燃焼観察装置概要
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2・3 試験に用いた高温高圧容器構造図
表2・5 試験条件
噴射ポンプ 回転速度 750rpm
プランジャ−径 10mm
噴射量 13.5mm3/st
噴射ノズル 噴孔径 0.28mm
噴孔数 8
開弁圧 18MPa
燃料   廃食用油、JIS2号軽油、A重油
高温高圧容器 使用ガス 空気
ガス圧 5MPa
ガス温度 773K,1073K
観察範囲 観察窓直径190mm
観察窓 石英ガラス
撮影系 レ−ザ− 銅蒸気レ−ザ−
レ−ザ−ビ−ム径 200mm
高速カメラ NAC製E−10
撮影速度 10,000コマ/秒
撮影法 シャド−グラフ
 

2)試験結果
 高温高圧容器の内部空気を5MPaで773K、1073Kとした条件下で容器内に噴射して、それぞれの燃料の着火遅れ期間を計測した結果を表2・6に示す。各燃料の着火遅れ期間はまったく同じであり、廃食用油のセタン価は軽油、重油と同じであることがわかった。
 容器内の空気温度773Kでの軽油の自由噴霧は着火遅れ期間中に噴霧外周部に薄い領域が増加し、噴霧内への空気導入が活発に行われていることがわかった。初期火炎は噴霧長手方向のほぼ中央部に観察された。その後、火炎は噴霧先端に向けて成長し全体に広がるが、火炎の外周には常に不輝炎が観察される。噴霧の根元から消炎し、最後に噴霧先端が消炎した。A重油の場合は着火遅れ期間、燃焼プロセスともに軽油と同じとなり、両者に差異は認められなかった。廃食用油の着火遅れ期間は軽油と同じであった。着火遅れ期間中に噴霧外周に希薄な部分は観察されなかった。初期化炎は軽油の場合と同様で噴霧長手方向のほぼ中央部に生じ、噴霧外周を覆いながら火炎先端に向けて発達した。火炎外周に不輝炎は観察されず、火炎の随所に暗い部分が存在し煤、または未燃部分が多く存在していることが観察された。このことより廃食用油の自由噴霧火炎では噴霧や火炎への空気導入が悪化していることがわかった。
 容器内部の空気温度が1073Kでの軽油の自由噴霧は、着火遅れ期間が極めて短くなり、初期化炎は噴霧の根元で観察された。その後、火炎は噴霧先端に向かって噴霧全体を覆うように発達する。この間、噴霧外周、火炎外周ともに不輝炎は観察されなかった。火炎内に明確な輝度の分布や黒い部分の生成は認められなかった。着火後の燃焼期間は773kでの燃焼とほぼ同じ期間であった。噴霧の根元より消炎し、噴霧先端へ消炎部は移行した。A重油の場合、軽油との間に差異は見られなかった。廃食用油の場合、着火遅れ期間は軽油、重油の場合と同じであり3種の燃料のセタン価は同一であることがわかった。初期化炎は軽油の場合と同じ噴霧根元であり、火炎は噴霧先端へと移行する。噴霧外周、火炎外周に不輝炎の生成は認められなかった。同一条件での軽油、重油の場合と同じ燃焼プロセスをたどり3種の燃料の間に明確な燃焼形態の差異は無かった。773Kでの廃食用油の燃焼で見られたような暗黄色の部分の生成も見られなかった。
図2・4 各燃料の燃焼比較
各燃料の燃焼比較
(噴射開始後2msecの燃焼)
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表2・6 燃料違いでの着火遅れ期間の比較
雰囲気温度 K 着火遅れ期間(msec)
軽油 A重油 廃食用油
773 1.3 1.3 1.3
1073 0.5 0.5 0.5
 








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