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(3)損傷リスク
 CNIIMFの研究、検討による北極海航路損傷リスク分析結果を図3.11〜3.13に示す。図3.11は、世界全体での船舶損失数と損失率の推移を調べたものである。一方、NSRでは1950〜90年の40年間で約250隻の船舶の航行があり、損失隻数は4隻である。従ってNSRの年間船舶損失率は、0.04%となって、一般海域の0.15%を遥かに下回る。これらを根拠としてNSRは安全な航路であると結論を導いている。
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図3.11 世界全体での船舶損失率推移
 図3.12は、船首を1.0として船が損傷を受ける船長方向の確率分布を示したものである。確率関数の定義については異論もあり、ここでは触れないが、直進時での、船首から船尾に至る損傷確率パターンは、細部を除けばほぼ妥当なものと考えられる。
 図3.13は、船体喫水方向での損傷確率分布を示したものである。氷丘脈や乱氷帯を航行する機会が少なければ、船底部の損傷確率は低く、図の損傷確率パターンはほぼ妥当なものであろう。これらの資料は、氷海船舶の設計には有用ではある。しかし、このような資料は、保険査定の根拠とはなり得ない。保険業界は、具体的な損傷例についての詳細なデータの集積を要求し、それらのデータから独自に安全性を評価し、保険率を算定する。この点については、INSROP以降の進展は殆どない。
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図3.12 船長方向の損傷率分布
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図3.13 船体喫水方向の損傷率分布
(4)季節運航による貨物輸送
 貨物品目の中には、ほぼ航路全域に亘って無氷状態に近い夏季だけの輸送に適したものがある。夏季には北極海航路は南方航路とは比較にならない短期日で物資の輸送が可能であり、期待貨物品目としては季節産物の生鮮輸送がその一例として挙げられる。容積の嵩張る重量物輸送を得意とする船舶は、生きたままでの魚介類輸送に適した輸送手段と言えるが、新鮮度を保つためには自ずから輸送時間に制約がある。夏季の北極海航路は、現行の商業航路にはない特異な長所を持っている。日本および極東アジア諸国での市場価値の高い、生きのよい魚介類を北欧および北ヨーロッパ市場からNSRを介して輸送する時代が来る可能性はある。








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