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4.3 NSRの課題解決
(1)NSRのインフラ整備計画
 ロシア中央海洋・船舶設計研究所(CNIIMF)は、ロシア政府の承認の下、北極海航路の具体的なインフラ整備計画を策定している。
 
・NSR トランジット及びローカル運航の発展
・石油・天然ガス輸送量の増加に対応した海上輸送システムの高効率化
・輸送コストを下げ、船主・荷主のNSR利用を促す輸送サービス市場の形成
・経済的に魅力ある投資、科料、税制、通関、保険制度の創生
・ロシア政府・国内企業・海外企業からなる非営利協力組織によるNSR開発促進シナリオの策定
 
これらは、いずれも予算あってのことであるが、2章で述べたような政府予算歳出枠の中では、國際海運市場の要請に見合った支援砕氷船の更新一つを採っても、かなりの難事であると言える。
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図3.7 國際輸送コリダー・システム
 図3.7は、CNIIMFが作成した國際輸送回廊システム「東・西・東」である。回廊(corridor)は、この十年程、日本においても大阪湾コリダー計画、東京湾コリダー計画など、物流システムの構築研究計画の名称として、様々な機関で多用されているコンセプトである。物流なり輸送を総合的に捉えた高効率かつ環境に優しいシステムを構築するのが目的である。鉄路・海路の輸送料金の調和を図ることが、プーチン大統領により指示されたが、未だに縦割り行政組織の強いロシアにおいて陸海空の総合的かつ実効性のある輸送システムの策定ができるのか疑問視する向きも少なくない。
 INSROPで指摘された問題点の多くは、ロシア政府の政策如何で解決できるものが多く、ロシア政府自体が、然るべき国家投資や外資導入(借款を含め)を考慮に入れて、国策の中でNSRをどう位置付けるかの問題でもある。ロシア管轄海域を國際市場に開放すると言うことは、当該海域が國際海運市場の要求に見合った条件を整えなければならないことでもある。海上輸送総量におけるトランパーの役割は大きく、コンテナー輸送のみを対象とした航路啓開には無理がある。トランパーの行き先変更は日常茶飯事でるから、現行NSR運航規定は、トランパー市場のNSRへの関心を失わせている。
(2)予測貨物量
 CNIIMFの調査による北極海航路現状主要貨物品目を図3.8に示す。また、輸送貨物量の予測推移を図3.9に、2015年における推定貨物品目を図3.10に示す。
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図3.8 北極海航路の貨物品目(現在)
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図3.9 北極海航路輸送量予測
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図3.10 2015年における北極海航路貨物品目予測
 将来の主要貨物品目については、然したる異論はないが、関係地域の開発状況から評価すれば、貨物品目、輸送貨物量、いずれもが主として北極海航路西半分の物流であり、これをもって北極海航路全般の将来輸送量と見ることには難色がある。CNIIMFの予測でも、2015年までの貨物量予測でトランジット貨物の増加を殆ど見込まず、予測結果に誤りがある訳ではなく、國際航路としての北極海航路の定義に彼我の差があると言える。何より、根本的な課題である、北ヨーロッパ・極東アジアの物流予測と北極海航路への貨物誘致シナリオが見えないのが問題である。
 もとより、ロシア政府が十分なインフラ整備を早々に実施し、手続きや通航科料を國際海運慣習に見合ったものとすれば、予想以上の物流増の可能性はある。








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