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(5)核廃棄物の季節輸送
 核燃料の海上輸送に関しては各国の輸送規則に加えて、高レベル放射性廃棄物、プトニウム、使用済燃料などの海上輸送に用いる輸送船の構造、設備についてIMOにより、INFコードで安全基準が規定されているが、海上輸送時の環境影響評価手法には異論が少なくない。構造・設備から判断すれば、衝突事故による全損事故発生の可能性は低く、また、火災に対しても、張水装置の作動により貨物倉の温度上昇を防止する措置が採られているから、火災による全損事故の可能性も低い。
 計画的な輸送を行えば、通年輸送を要しない核廃棄物は、季節運航に適した貨物品目と言える。元来、使用済核燃料輸送船は、二重船殻構造であり、スキャントリングにはかなりの相違はあるが、北極海航路船舶の構造仕様を基本的には満たしている。また、キャスクは発熱体であり、搭載貨物に対する保温設備を必要としない。
 従来航路での海賊、海上テロの脅威が増す中で、NSR航行はヘリ搭載のロシア砕氷船に誘導、保護される利点がある。通航には事前承認が必要であり、不審船やグリーンピース船に遭遇、追跡される危険も殆どない。北極海航路運航実績からみれば、船舶が要求仕様を満たして設計・建造され、航行ガイダンスに従って航行する限り、航行の安全性も高い。
 しかし、航行保険や万が一の場合の賠償については、問題が多い。核燃料サイクル施設はオビ川、エニセイ川上流域に存在(図3.14)、河川を介しての海洋汚染の疑いがある。ウラン鉱山・精錬所、貯蔵所は西側に偏り(図3.15)、バレンツ海沿岸には、軍事基地が点在し、核廃棄物の貯蔵や従来から指摘されている放射能海洋汚染がある(図3.16)。
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図3.14 ロシアの核燃料サイクル施設
 輸送船舶の強度、安全性、キャスク強度を勘案すれば、事故の際の放射能物質汚染量は膨大なものとはなりにくく、むしろ想定事故は放射能漏れのスケールである可能性が高い。この時、民事訴訟レベルで論戦できる確度で、当該事故による汚染濃度や汚染域を確定することができるか否かが問題である。
 また、ラプテフ海、東シベリア海の海域は、シベリヤの地中へ注入廃棄された核廃棄物が地中拡散によって海洋へ漏出しない限り、放射能汚染の希薄な海域である。ここでは、この海域で漁労生活を営む先住民の核アレルギー反応が懸念される。
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図3.15 ウラン鉱山・精錬所、貯蔵所分布
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図3.16 バレンツ海沿岸周辺の軍事基地
 欧州諸国における核廃棄物処理については、ここ数年、自国の廃棄物は自国で処理との考え方が強まっている。一例を挙げれば、ロシアから大量の電力を輸入しているフィンランドは、ヘルシンキ郊外にあるオルキルオト原子力発電所近くに高レベル核廃棄物貯蔵施設を建設するため地下500mエリアの貯蔵環境を調査中であり、2020年貯蔵開始の予定である。この他、スウエーデン、スイス、ドイツでも自国内での核廃棄物貯蔵を検討中である。なお、スカンデイナビア3国では原発施設及び廃棄物貯蔵施設に対するテロ対策には特別の関心はなく、既設の施設はテロに対しても十分安全であるとの発言がある。
 各国核廃棄物のシベリア核廃棄物地下貯蔵計画の目論見は、環境保全上の問題に加えて保安上の懸念も払拭できず、頓挫している。








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