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付論 排他的経済水域における情報活動と軍事演習
 最近に排他的経済水域の設定が伝統的軍事活動に及ぼす影響という第一の問題が具体的に争われたのが、中国海南島に事故後緊急着陸した、アメリカの所謂スパイ機事件がある。この事件で科学調査か否かが特に問題にされた訳ではないが、排他的経済水域における上空飛行権の問題に関わり、興味深い事件であるからこれを概観する。
 
1.排他的経済水域における上空飛行権と情報活動−中国沿岸での航空機事件−
 昨年4月1日米国のEP-3EAries第二号が中国沿岸近くで定期的情報収集活動をしている間に中国製F-8戦闘機によって迎撃され(intercepted)、尾行していた片方と衝突した。損傷を被った米機は、遭難警報を出して、海南島Linshuiに緊急着陸をした。損傷を受けた中国機は、海に突っ込み飛行士の王は死亡したと、後に、確認された。
 
 中国は、事件の責任が米国にあると直ちに非難し、米機が突然方向転換して中国機に突っ込んだと主張し、許可なくLinshuiに着陸した点も非難した。中国は、米国の謝罪と中国沿岸近くでの情報収集活動を止める事とを要求した。米国は、米機が中国領海外を飛行していた事、EP−3E機が大型で、中国戦闘機より速度が遅く、中国機が米国機に近付き尾行している間に攻撃的態度を激化した事、米国機は緊急着陸した点を指摘して、対応した。従って米国によれば、謝罪は不適切で、中国が直ちに米国機の乗員を釈放すべきであるとした。これに対して中国当局は、中国の排他的経済水域上を飛行する航空機を排除する権利を有する事と、中国に着陸する前に許可を得ていない事と事件の調査を行なう中国の権利を有する事とを主張した。米国当局は、他国の排他的経済水域上を飛行する権利を国際法上有し、排他的経済水域沿岸国の領土保全を侵すものではない事と、中国に対する緊急着陸が必要になったのは、米国の過失の為ではない事を明らかにした。
 
 両国の冷戦は11日続き、4月11日に中国駐在米国大使が、中国外務委員へ次の事を述べた書簡を送った:
 
 ブッシュ大統領とパウエル国務長官は貴国が航空機と飛行士を失った事に対して心からの遺憾の意(sincere regret)を表する。中国国民と王飛行士の家族に対して、これらを失った事に対して我々が残念に思っている事を願わくば伝えて貰いたい(Please convey) ……
 何が起こったかの全体像は未だ不明であるが、我々の情報では、我らの故障機は、緊急国際手続に従って緊急着陸をした。中国空域に入った事と口頭でも書面でも認可を得ないで(not have verbal clearence)着陸した事は、遺憾であるが、乗員が無事着陸した事を諒とするものである。乗員の安全(well-being)を配慮する中国の努力を多とするものである。……
 
 悲劇的事件に鑑み、貴国代表との議論に基づき、我々は次の行動に同意する:……
 
 事件を論じる会合を両国が開く事、我が国の航空機が可及的早急に中国を出る許可が得られるものと了解し期待している。
 
 更に、会合は、4月18日に始まる事、事件の原因を論じ(discuss)、将来この様な衝突を防止する為に考え得る勧告を論じ、航空機の米国への返還と関連問題を論じると、同書簡は、述べている。
 
 中国は4月12日に米国の24人の乗員が中国から出国する事を許可し、翌日詰り、13日にラムズフェルド国防長官が、乗員との話し合いを基に、次の様に事件の状況と論点を明らかにし、先例を挙げた。
 
 一つの論点は、EP-3機が方向転換して中国戦闘機に突っ込んだか否かであるが、答えは否である。EP-3機は真直ぐ水平に自動操縦で飛んでいた。真直ぐで水平のコースから離れたのは、中国の戦闘機に衝突されてからである。この時点で自動操縦は止まり、左に急転開して、乗員が制御を取り戻そうとするまで高度が5,000から8,000フィート降下した。
 
 第二に、空域であるが、中国の空域に入りつつあった。航空機が遭難した場合、国際的に認可された周波数帯で発信する事は、国際協定で了解されている。
 
 飛行士は、海南島に向う決定をして、遭難信号を25回から30回発信を試み、海南島に着陸を余儀なくされている事を、世界中と海南島に警報を発した。
 
 もう一機の中国機が、米国海軍のEP-3機の真近に居たので、基地と交信していたものと思われる。 ……
 
 航空機の飛行士も乗員も良く聞こえなかったが、衝突の為に金属破片が機体を貫通し、騒音が酷くなっていたからである。従って、乗員は、遭難信号が受信されているか(acknowledge)分からなかった。
 
 3月末から4月始めにかけての衝突では、米国機は、国際空域に居た。F-8戦闘機は2回EP-3機に攻撃的に向ってきた(made two agressive passes at)。1回目は、機体から3〜5フィートに迫った。3回目の航過(pass)では、余りに早く、近付き過ぎたので、EP-3機のプロペラに引っ掛かった(flew into)。これは海南島から70マイル強の所で起った。F-8戦闘機は、二つに折れて、海に突っ込んだ。衝突の為に、EP-3機の円錐形先頭部分が吹き飛び第二エンジンと機体右側のプロペラに損傷を起し、金属破片に機体を貫通させた。
 
 我々は我々が飛行していた所を飛行する完全な権利があり、彼らが我々に近寄り、監視した(observe)事にも権利が認められる。けれども、権利として認められないのは、他航空機に突っ込む事である。尤もこれは誰の意図でもなかったと思われる。
 
 F-8戦闘機は、24名のアメリカ人の生命を危険に曝した。 ……
 
 幾つかの他の情報収集飛行…で何らかの緊急事態で、他国の許可無しで飛行場に着陸した例を挙げたい。
 
 1974年2月27日ソ連のAN-24スパイ機は燃料不足(low on fuel)(或いは燃料不良か?)でアラスカのキャンベル飛行場に緊急着陸した。乗員は一夜を機内で過ごしたが、その間携帯用室内暖房と食料を貰い、翌朝燃料の補給を受けて、出発したが、乗員と機体の何れも抑留される事はなかった。
 
 1993年4月6日に中国の民間航空機が、飛行中の緊急事態の為に着陸すると宣言し、アラスカのシェミャ(Shemya)に着陸した。極めて激しい乱気流の所為で、2名が死亡、何十名も負傷していた。アメリカは、費用を徴収せずに航空機を修繕し、燃料を補給して出発させた。
 
 1994年3月26日にNATO軍の対潜演習を監視していたロシア軍用偵察機が、燃料不足の為にグリーンランドのトゥーレ(Thule)空軍基地に緊急着陸し、地上に6時間滞在して、食事と燃料を貰って出発した。
 
 情報収集の為の飛行は、何十年も実行されてきた事で、珍しい事ではない。同じ様な状況で乗員と航空機を抑留した国は無い(Washington Post, Apr.13, 2001, at A1; N.Y. Times, Apr.16, 2001, at A11)。
 
 米国はEP−3機を修繕して中国から出国したかったが、米中の長い交渉の末に、同機を解体して7月3日に米国に帰還した。その後米国は緊急着陸に関連して34,567ドルの支払いを提示したが、中国は、100万ドルを請求して、受け取りを拒否した(Washington Post, Aug.10, 2001, at A18; N.Y. Times, Aug.13, 2001, at A10)。
 








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