B. UNCEDプロセスから現われる機構面の枠組み
UNCEDプロセスがUNCLOSプロセスに与えたインパクトは深甚で、多くの異なる側面を持っている。
まず第1に、それは海の憲法の範囲を、大多数の人類が住む陸地、沿岸区域に広げる。これが避けられないのは、オーシャン・ガバナンスを受ける活動のほとんどが陸に端を発しているからである。最も明白なことであるが、これは、海洋環境の保護と保全に関する条約第XII部にあてはまる。なぜならば、汚染のほぼ90パーセントは陸上由来である。
第2に、海洋空間と資源の利用方法をめぐる紛争、利用者間の紛争、環境への脅威、生物資源の維持への脅威、人の健康への脅威など、密集する沿岸地帯の問題を扱うと、統一的な沿岸管理という概念をあらためて強調し、発展させることが必要となった。海洋空間は相互に関連性を持ち、全体として検討される必要がある、というPardoの画期的な着想の最初の具現化である。持続可能な開発と、不確実なものに直面したときの予防型アプローチという考え方もプロセスのなかで成熟するか、もしくは少なくとも、あらためて強調されることになった。すべての利害関係者が参加するということは、統一的沿岸管理のもう1つの不可欠の側面である。
第3に、統一的沿岸管理は真空の中では適応不可能である。沿岸すなわち国内問題は、沿岸国の管轄権の及ばないところでの展開に影響を受け、またしばしば台無しにされる。したがって沿岸共同体、国、地域および世界の機構との間に適切な連携を作り上げることが不可欠である。発展させた成果は、オーシャン・ガバナンスのあらゆるレベルで連動させる必要がある。これはUNCEDプロセスの全文書が伝える明確なメッセージである。有効に機能するためには、システム全体が包括的で、首尾一貫しており、参加型で、トップダウンよりむしろボトムアップ型である必要がある。これはブルントラント報告書のメッセージであり、UNCEDプロセスから出てくるどの文書にも詳細に書き綴られている。包括的の意味するところは統治システムが上述の4つのレベルからなっているということである。首尾一貫とは意思決定のプロセスが相互に一致していることをいう。統一的沿岸管理は、明らかに完璧ではなくても、それが統治のすべてのレベルで発達することができてこそ機能できる。参加型とは、市民社会または主要なグループすなわち社会経済上の行為者、地方共同体、非政府組織を意思決定に入れること、そしてボトムアップ型の意味するところは、規則は、もしそれを機能させようとすれば、中央の権威が上から下へ押し付けてはならず、影響を受ける人々または機構が規則作りの最初から参加する必要があり、そうすることでかれらは規則を理解し、同意し、したがって守り、一定の自主的強制を生み出すことができる。
第4に、UNCEDプロセスの全文書が、地域の協力、組織化および発展の決定的な重要性について一致している。国家の海洋空間は政治上の概念である。しかしながら政治上の空間と生態的な空間は、もはや一致しない。地域海域となると、いま大エコシステム(生態系)と呼ばれるものにはるかに近くなり、統一的な管理のためにはより適切な基盤と考えられる。環境、生物資源、科学技術協力、監視、査察、遵守強制、海上犯罪の制圧の管理の大概の問題は、地域海域レベルで扱えば最良である。このレベルであればスケール・メリットが出ること、地域海域と接する諸国間の利益と文化特性の共有性を示すことになる。地域海域の重要性は全海洋法条約を通じてすでに強調されているが、UNCEPプロセスはオーシャン・ガバナンスのこの部分を著しく高めている。
オーシャン・ガバナンスの最初の2つの部分すなわち法制面の枠組みと機構面の枠組みを比較してみると面白いことに気付く。それは、法制面の枠組みは真に海底からスタートして海洋から陸に向かって動いた。機構面の枠組みは沿岸共同体からスタートして国と地域を経由して世界の統治へ向けて動いている、ということである。