日本財団 図書館


4.4 フュミゲーションの拡散計算への適用
4.4.1 拡散計算への適用
 年平均値の計算は、風向・風速階級・大気安定度ごとに拡散計算を行ない、その結果を条件の出現頻度で重ね合わせている。一方、フュミゲーション現象を正確に反映するためには、陸上の大気安定度が必要である。しかし、陸上の大気安定度を求めるのに必要な放射収支量の観測データは、横浜市金沢区長浜(本牧)と千葉県市原市岩崎西でのみしか得られず、東京湾周辺の各地点に適用可能な大気安定度を求めることができない。
 
 そこで、年平均値にフュミゲーションを取り込むにあたっては、陸上の大気安定度を用いず、海上の安定度、風向ごとの平均的なフュミゲーション強度を用いて計算を行った。平均的なフュミゲーション強度の導出は、海上の大気が安定(E,F)または中立(D)であり、かつ陸上の大気が不安定である出現率とそれらの条件の年平均値への寄与率、また、年平均値と比べた場合の増率により計算した。結果を表4.4-1に示す。
表4.4-1 海上・陸上の大気安定度とフュミゲーションによる増率
    ENE E ESE 平均
出現率 海上が安定である時に
陸上が不安定である割合
61% 70% 67% 67%
海上が中立である時に
陸上が不安定である割合
18% 45% 39% 31%
寄与率 海上の安定に対して
陸上の不安定が濃度増加に寄与する割合
75% 97% 86% 87%
海上の中立に対して
陸上の不安定が濃度増加に寄与する割合
17% 59% 73% 42%
増加率 海上の安定に対して
陸上の不安定による濃度増加の割合
17% 38% 24% 26%
海上の中立に対して
陸上の不安定による濃度増加の割合
0% 19% 62% 16%
 平均的なフュミゲーション強度は表4.4-1に基づき、安定な海上から不安定な陸上に対して拡散が起こった場合はフュミゲーションが発生しない場合の26%増(1.26倍)、中立な海上から不安定な陸上に拡散が起こった場合はフュミゲーションが発生しない場合の16%増(1.16倍)であると考えられる。
 
 風向別平均SO2濃度(図7.2-1)より、東京湾周辺では海側からの風向でSO2濃度が最大になることが分かる。また、金沢区長浜におけるケーススタディ(4.2.1)によって、海側3方向程度からの風向に対してフュミゲーションが起こっていると考えられる。そこで、フュミゲーションは各地点でSO2濃度が最大になる風向とその両側の風向に対して起こると仮定し、これらの倍率を各地点での最大濃度の風向とその両側の方角に対して適用した。
数式4.4-1 年平均値へのフュミゲーションの取り込み
z1136_01.jpg
4.4.2 年平均値でのフュミゲーション計算の例
 横浜港周辺において、各地点でSO2観測濃度が最大となる風向とその両側風向で、前節で求めた平均的なフュミゲーション強度を用いて計算した。その結果、観測値の風向別平均値の極大への類似性はわずかながら高まり、年平均値に対する寄与度が上昇した。
表4.4-2 フュミゲーション計算の有無による年平均値の違い
地点 観測値
(ppb)
計算値(ppb)
フュミゲーションなし フュミゲーションあり
神奈川県庁 6.1 2.3 3.1
中区加曽台 8.7 3.2 2.6
中区本牧 7.5 3.1 3.4
磯子区総合庁舎 7.5 2.4 2.7
金沢区長浜 5.3 1.8 1.9
図4.4-1 フュミゲーション計算の有無による結果の違い
(SO2、神奈川県庁)
z1136_03.jpg
図4.4-2 フュミゲーション計算の有無による結果の違い
(SO2、中区加曽台)
z1136_04.jpg
図4.4-3 フュミゲーション計算の有無による結果の違い
(SO2、中区本牧)
z1137_01.jpg
図4.4-4 フュミゲーション計算の有無による結果の違い
(SO2、金沢区長浜)
z1137_02.jpg
図4.4-5 フュミゲーション計算の有無による結果の違い
(SO2、磯子区総合庁舎)
z1137_03.jpg








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION