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(2)拡散計算結果
 各計算点での船舶排ガスの寄与率を計算したところ、以下のような結果となった。ここで船舶からの寄与率は以下のように定義した。
 
 寄与割合(%)=A/(A+B)
 A:船舶に起因する環境濃度(ppb)
 B:陸上発生源に起因する環境濃度(ppb)
 
 ここでは、Aを本拡散計算による年平均値の計算値、(A+B)は該当地点における年平均値の実測値を用いた。SOxについては、排ガス中においてそのほとんどがSO2として存在しており、環境基準の対象物質もSO2である。短期的には大気中での化学変化については無視できるため、AおよびA+BともにSO2として計算した。
 一方、通常の大気中においては、NOx=NO+NO2として近似できる5。NOxはディーゼル排ガス中ではその95%以上がNOとして存在しており、船舶より排出されたNOは大気中において光化学反応などにより比較的速やかにNO2へ酸化される。一方、人体に有害な影響があるものとして環境基準の対象物質に指定されているのはNO2である(大気環境測定局では測定の原理上NOとNO2の両濃度が測定される)。したがって、本来AについてもNO2濃度を推定することが望ましい。陸上における拡散シミュレーションにおいては、酸化速度をバックグラウンドオゾン濃度をパラメータとした経験式で近似したり、過去のデータよりNO2/N0x比を統計的な経験式により近似するなどの手法が用いられる。しかし、海上におけるNOからNO2への酸化速度については、オゾン濃度や紫外線量など陸上における挙動とパラメータが異なることが考えられる。このため、本計算ではAおよび(A+B)ともに、NOx=NO+NO2として計算処理を行い、寄与濃度を算定した。
 寄与率は表2.1-23に示すとおりであり、最も寄与率の高い地点は、神奈川県庁のSO2で47.5%、中区加曽台のNOxで8.8%となっている。
 1999年度の測定結果によると、SO2については東京都・千葉県・神奈川県の全ての測定地点で環境基準を満たしているが、NO2については環境基準未達成局が20%程度残っている。ここで挙げている12地点のうち、神奈川県庁、中区加曽台は環境基準を上回っており、環境基準未達成局である。
 船舶排ガスのSO2への寄与率が非常に高いが、環境基準の未達成状況などを考慮に入れると現状で、港湾域周辺の大気環境に影響を及ぼしている可能性は、NOx排出の方が高いと考えられる。
5 NOxとしては他に地球温暖化物質として一酸化二窒素N20が有名であるが、不活性であるため大気汚染としては問題にされない。
 
表2.1-23 各地点における船舶排ガスの年平均値(ppb)と寄与率(%)
  SO2 NOx(NO+NO2)
地点名 観測値 計算値 寄与率 観測値 計算値 寄与率
木更津 6.2 0.6 10.2% 36.0 0.8 2.5%
習志野鷺沼 2.5 0.6 24.9% 34.8 0.8 2.0%
市原岩崎西 8.3 0.9 11.3% 32.9 1.2 3.6%
浦安猫実 5.8 1.4 23.7% 42.8 1.8 3.3%
袖ヶ浦代宿 5.1 0.6 12.2% 29.5 0.8 3.5%
中央区晴海 7.3 1.5 20.4% 37.9 2.0 3.0%
神奈川県庁 6.1 2.9 47.5% 37.2 3.6 5.2%
中区加曽台 8.7 3.5 40.7% 30.2 4.7 8.8%
金沢区長浜 5.3 2.3 42.7% 24.7 2.9 8.3%
横須賀市役所 6.0 1.2 20.3% 30.9 1.6 3.6%
追浜行政C 3.6 1.6 43.5% 30.0 2.0 5.2%
久里浜行政C 5.3 0.7 13.1% 27.7 0.9 2.3%
 
図2.1-11 東京湾における船舶排ガスシミュレーション結果
(1999年)
(拡大画面: 87 KB)
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*NOxは(NO+NO2)である。








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