2.1.2 港湾内における船舶運航に伴う船舶排ガス拡散シミュレーション
・ 東京湾内の海岸線付近の大気環境に与える船舶排ガスの寄与影響を解析するため、沿岸域における排ガス拡散モデルを構築し、1999年を対象に計算を行った。
・ 地点によっては、最大でSO2で47.5%、NOxで8.8%の寄与割合が推測された。ただし、SO2は環境基準を充分に達成している。
(1)拡散計算方法の概略
・ 計算の流れ
拡散計算における処理フローは図2.1-7、図2.1-8の通りである。
気象データに関しての計算フローは図2.1-7に示すとおりであり、対象年の気象条件から湾内を同一気象条件と見なせる幾つかの気象ブロックに分割する。各気象ブロックごとに、風速、放射収支量などから、大気安定度を算定する。年間8760時間の1時間ごとの風速、風向、大気安定度により、その時間の大気の拡散条件が決定される。
なお、海上と陸上では風向などの気象の諸条件が大きく異なる事が予測されることから、海上の気象ブロックは独立して設定した上で、海上の大気安定度については陸上算定方法とは別途に、算定方法そのものを設定した。
拡散計算の基本フローは、図2.1-8に示すとおりであり、年間8760時間について1時間ごとに当該時の排出強度により拡散計算を行う事で、各時間の大気汚染濃度の1時間平均値が計算される。これを風向別の実測値と比較することで、拡散計算結果の妥当性について評価を行った後に、最終的な拡散計算を行った。
図2.1-7 拡散シミュレーションの流れ (その1 気象条件の解析と気象ブロック化) |
図2.1-8 拡散シミュレーションの流れ (その2 拡散計算) |
・ 拡散基本式
拡散計算のプルーム式は風向を16方位に区分して、水平方向拡散パラメータσyに無関係なプルームとして計算を行った。また、気象条件ごとに拡散計算を行ない、気象条件ごとの出現頻度で重み付けて重ね合わせを行った。
数式2.1-1 本計算に用いた基本プルーム式
C(R,z) |
:計算点(R,z)における濃度 |
R |
:点煙源と計算点の水平距離(m) |
z |
:計算点のz座標(m) |
Qp |
:点煙源強度(Nm3/s) |
u |
:風速(m/s) |
He |
:有効煙突高(m) |
σz |
:鉛直拡散パラメータ(鉛直方向の正規分布の標準偏差) |
・ 海上の大気安定度区分
大気安定度の導出は、安達(1997)に従って、Monin-Obukhovの大気安定度長を求めた後にGolderの値を用いて大気安定度に読み替える方法を用いた。
数式2.1-2 Monin-Obukhovの大気安定度長(Lv)
κ |
:カルマン定数0.4を用いる |
g |
:重力加速度9.8(m/s2) |
θvs |
:海面仮温位(K) |
θv |
:大気仮温位(K) |
CuN |
:中立時の運動量抵抗係数(0.75+0.067・u(10m))×10-3 |
CTN |
:中立時の熱量抵抗係数(1.3×10-3) |
表2.1-20 大気安定度と大気安定度長
大気安定度 |
大気安定度長 |
B |
-10m≦Lv<0m |
C |
-25m≦Lv<-10m |
D |
25m<|Lv| |
E |
10m<Lv≦25m |
F |
0m<Lv≦10m |
図2.1-9 風速、気温・海水温差と大気安定度区分
・ 実煙突高
船舶の実煙突高については、環境庁H54の手法を用い、船舶の総トン数に応じて求めた。
4 平成5年度環境庁委託調査「船舶排出大気汚染物質削減手法検討調査報告書」(社)日本舶用機関学会 平成6年3月
数式2.1-3 船舶の総トン数と実煙突高の関係式
H0=2.59・X0.23 X:総トン数(t)
・ 有効煙突高
窒素酸化物総量規制マニュアル所載の電力中央研究所により修正されたCONCAWE式を用いる。ただし、煙突頂部における風速として船速の影響を考慮する。
数式2.1-4 船舶の有効煙突高
He=H0+ΔH
ΔH=0.226・QH1/2・u-3/4
ΔH:排ガス上昇高(m)
QH:排出熱量(cal/s)
u:煙突頂部における風速(m/s)
・ 拡散パラメータ
Pasquill-Gifford線図を安達(1997)の方法により2段階安定側の値を読み取った上で、船舶の飾り煙突あるいは航行時の乱れを考慮し、初期拡散幅を10mに設定した。
図2.1-10 海上の大気安定度に対応する拡散係数σz
・フュミゲーション
東京湾周辺では、海側から吹く風によってSO2の高濃度が発生しており、各観測点でSO2濃度が最大になる風向とその両側の風向をフュミゲーションが発生すると見なし、海上の大気安定度が安定である時は拡散計算の結果を1.26倍、海上の大気安定度が中立である場合には1.16倍することにより、フュミゲーションを表現した。
・停泊中の船舶の時間帯別排出強度
排出源は、コンテナ、タンカー、PCC、その他の貨物船の4船種カテゴリーに分けて考えた。
それぞれの船種カテゴリーについて18の船型区分ごとに、埠頭ごとの排出量を計算した。
ただし、稼動時刻については港湾統計の原票も含めて実態が把握できない事から、それぞれの時間帯で、表2.1-21に示す割合で割り振った。
・航行中の船舶の時間帯別排出強度
各埠頭を利用する船舶数から、航路帯ごとの排出量を算出した。
横浜港におけるレーダー観測に基づき、横浜航路を通過する船舶数の割合で、表2.1-22に示す時間帯ごとの航行船舶数を割り振った。
表2.1-21 停泊中における排出ガスの時間帯別内訳
  |
午前 |
午後 |
夜間 |
荷揚時 |
0.50 |
0.50 |
0 |
荷積時 |
0.60 |
0.40 |
0 |
非荷役時 |
0.33 |
0.33 |
0.33 |
表2.1-22 航行中における排出ガスの時間帯別内訳
時間帯 |
0-2時 |
3-5時 |
6-8時 |
9-11時 |
12-14時 |
15-17時 |
18-20時 |
21-23時 |
隻数 |
3 |
5 |
107 |
210 |
225 |
163 |
41 |
14 |
※ 横浜市港湾局調べ
※ 各時間帯ごとの通過隻数