(4) SPMなどの排出係数
舶用ディーゼル機関から排出される粒子状物質(DPE)などの排出係数については、測定そのものが困難であることから、NOx、SOxに比較して排出係数を決定する情報量が不足している。特にDPEについては、JIS Z8808に代表される従来の測定法(Hot Filter法)では、微小粒子の抜けや水の凝縮などの現象が捉えられないことから、過小評価になる可能性が高い。しかし、自動車などで測定が行われ始めた希釈法による測定は、世界的にみても数少ないのが現状である。本調査では、独立行政法人海上技術安全研究所 高杉研究室が、航海訓練所所属 銀河丸の発電用補機ディーゼル機関を対象に測定した希釈法によるデータ2などを参考に暫定的な排出係数(A重油においては33mg/Nm3(0.25g/kWh)、C重油では70mg/Nm3(0.51g/kWh)の排出係数)を用いて計算した。そのため、拡散計算結果などについては参考資料で紹介する。
2 β線吸収法PM計測システムを用いた実船発電機での測定(平成14年):大橋など、マリンエンジニアリング学術講演会講演論文集
3 仮に平成12年度SO財団調査で用いた手法を用いて、東京湾内における原油の荷動きによる総VOC(メタンを含む)を算定すると、およそ6,000トン/年と計算される。
なお、燃料未燃分などから発生するNMVOC(非メタン系揮発性有機化合物)についても、港湾域における悪臭等が問題となっている。船舶の場合、機関の排出ガス中に含まれる未燃分については、大きな排出源とならない。むしろ液体タンカーの荷室から、荷役時などに放出・漏洩する液体貨物の蒸散ガスが問題となる場合が多い。特に原油備蓄基地付近においては、既にメルカプタンなどの原油ガスに含まれる物質によって悪臭問題が顕在化している場合もある。本調査では、東京湾内のNMVOCについては情報が不足している事からその計算を行わなかった3。
(5)排出モデル
(ア)停泊船舶からの排出量の算出方法
港湾域など、ローカルな排出量を算出する場合には、各埠頭もしくは錨地における機関類の負荷もしくは燃料使用量を推定することが必要となる。
表2.1-14では一般的な貨物の荷役形態を示した。
タンカーでは、荷揚げ時には船側のカーゴポンプにより荷室内の液貨物が陸上へ搬送される。一方、荷積み時には陸側の動力が主として使われる。カーゴポンプの稼動の有無は、燃料消費量に対して大きな影響をもつ。
PCC、RORO船、フェリーでは、荷揚げ、荷積み時ともにその燃料消費量は大きく違わないことが予想されるが、PCC及びRORO船については船倉内のフアンを高負荷で駆動すること、一部のRORO船やフェリーでは、冷凍冷蔵車に対して比較的大きな電力供給が行われることから、停泊中の燃料消費量は比較的多い。
コンテナ船についても積み込まれるリーファーの割合が多くなると船側の電力消費量(=燃料消費量)が増加することが予想される。
石炭運搬船や砂利運搬船のような専用船ではセルフアンローダーのような船舶側施設を用いた場合、燃料消費量が多くなる。
そこで、港湾統計等より、各埠頭ごとに利用隻数、総トン数、船種、停泊時間、荷役量を把握した上で、民間ふ頭、公共ふ頭及び錨地での停泊に分けて、船舶の燃料消費量を推定した。また、ふ頭利用時には、船種別に荷役時、非荷役時に分け排出量の算出を行った。
(i)民間ふ頭
民間ふ頭における停泊船舶からの排出量については、川崎市ハーモニーシステムにより、船舶の燃料消費量などが把握できている。
これにより、停泊船舶からの船種別、総トン数階級別のディーゼル機関とボイラの燃料使用量を算定した。川崎港以外での燃料消費量については、上記の燃料消費量モデルがそのまま適用できるものとした。
(ii)公共ふ頭
公共ふ頭はコンテナふ頭と在来ふ頭に区分され、コンテナふ頭ではコンテナのみが取扱われ、在来ふ頭では民間の一般貨物ふ頭とほぼ同様の荷役が行われているので、コンテナふ頭と在来ふ頭に分けてNOx排出量を算出した。公共ふ頭では、各ふ頭ごとの船舶総利用時間が公表されている。コンテナふ頭については、総利用時間のすべてが荷役時間であると仮定した。
(iii)錨地
大型タンカーや定期コンテナ船を除く船舶は、各ふ頭に着岸する前に港湾区域の錨地で停泊する場合がある。錨地における停泊時については、ふ頭における非荷役時と同様の扱いとして、NOx排出量を算出した。
表2.1-14 貨物船の一般的な荷役形態
船種区分 |
船種 |
荷揚げ時の形態 |
荷積み時の形態 |
備考 |
船舶側 |
陸側の施設(動力源) |
船舶側 |
陸側の施設(動力源) |
タンカー |
大型タンカー(原油、LNGタンカーなど) |
補機ディーゼルまたはボイラーによって駆動されるカーゴポンプにより、連続荷揚げを行う |
・タンクヘの移送
ポンプ(電力) |
− |
・タンクからふ頭までの移送ポンプ(電力) |
  |
・カーゴポンプ(電力) |
中小型タンカー(プロダクトタンカーなど) |
補機ディーゼルまたはボイラーによって駆動されるカーゴポンプにより、連続荷揚げを行う |
・タンクヘの移送
ポンプ(電力) |
− |
・タンクからふ頭までの移送ポンプ(電力) |
小型タンカーでは、主機による駆動が行われる |
・カーゴポンプ(電力) |
コンテナ |
フルコンテナ
セミコンテナ |
− |
・ガントリークレーン(電力) |
− |
・ガントリークレーン(電力) |
リーファーへの電力供給は行われる。特に荷積み時には、消費電力が多い |
・ストラドルキャリア(ディーゼル) |
・ストラドルキャリア(ディーゼル) |
・トランスファークレーン(ディーゼル) |
・トランスファークレーン(ディーゼル) |
RORO(Roll-On Roll-Off) |
自動車専用船(PCC ; Pure Car Carrier) |
・荷室内換気用の大型ファン |
− |
・荷室内換気用の大型ファン |
− |
荷揚げ、荷積み用の車輌が自走する |
RORO船 |
・荷室内換気用の大型ファン |
− |
・荷室内換気用の大型ファン |
− |
貨物が搭載されたトレーラーが自走する |
専用船 |
石炭専用船
穀物船
砂利専用船
石灰石専用船
鉱石船 |
・一部の専用ふ頭ではセルフアンローダー |
・陸側の専用
アンローダー
(電力)
・バケットクレーン等
(電力) |
・一部の専用ふ頭ではセルフローダー |
・陸側の専用
ローダー
(電力)
・バケットクレーン等
(電力) |
  |
鋼材運搬船 |
大型外航船は船上クレーンも稼働 |
・ガントリークレーン(電力) |
大型外航船は船上クレーンも稼働 |
・ガントリークレーン(電力) |
  |
(小型船舶は陸側の機器のみ) |
・フォークリフト(ディーゼル) |
(小型船舶は陸側の機器のみ) |
・フォークリフト(ディーゼル) |
・クレーン車(ディーゼル) |
・クレーン車(ディーゼル) |
セメント船 |
小型のセルフアンローダーを持つ場合もある |
・専用のアンローダー(電力) |
小型の移送ローダーを持つ場合もある |
・専用のローダー(電力) |
  |
フェリー |
カーフェリー |
・車室内換気用の大型ファン |
− |
・車室内換気用の大型ファン |
− |
車輌が自走する |
・荷室の電源 |
・荷室の電源 |
運航業者などへの聞き取りにより作成
表2.1-15 川崎市ハーモニィーシステムを本調査に適用する場合の船舶排ガス量算定方式の要約 |
  |
入力が必要なパラメータ |
備考 |
船舶の諸元 |
船種と総トン数 |
本来事業所ごとの計算のため、原則は船舶明細書などにより把握。本計算では港湾統計によりクラス毎に把握可能。
左記パラメータより、主機の馬力数、補機の馬力数を推定式により計算。 |
運航関連の諸数値 |
隻数 |
事業所ごとの計算のため、原則は利用状況で把握。
本計算では港湾統計によりクラス毎に把握。 |
港湾区域内の運航時間 |
船型クラス(3つ)ごとに航行モデルを設定し、燃料消費量を提示。 |
停泊時間 |
事業所ごとの計算のため、原則は利用状況で把握。本計算では港湾統計などの資料により把握。 |
荷役時間 |
荷役作業(荷積み、荷揚げ)・船型・船種ごとにモデル(全停泊時間に占める割合)が設定されている。 |
平均負荷 |
荷役作業(荷積み、荷揚げ)・船型・船種ごとにモデル(時間あたりの燃料消費量)が設定されている。 |
(イ)航行船舶からの排出量算定方法
港湾内など部分負荷で航行している際のNOx排出量については以下の方法で算出した。
[1] 船舶機関における主機の負荷設定については「負荷率が船速の3乗に比例する」ことが一般的であることから、各総トン数階級ごとに関係式を求める。
船速と主機の負荷率のデータについては東京都の「船舶に係る大気汚染物質排出実態調査」結果を用いた(図2.1-6参照)。
[2] 実際の航行速度と[1]で求めた主機負荷についての関係式から航路ごとの負荷パターンを推定し、船種・総トン数階級別のNOx排出量を求める。
[3] 航路ごとの利用隻数を乗じ、地区別の航行時のNOx排出量を算出する。
図2.1-6 総トン数階級別の速度と主機の負荷の関係
船舶に係る大気汚染物質排出実態調査 東京都(1992)より作成
各総トン数階級別の回帰曲線は以下に示すとおりである。
500総トン数未満 |
PR=7.11×10-4×V3+0.175 |
|
500〜6,000総トン数未満 |
PR=1.58×10-4×V3+0.171 |
|
6,000〜10,000総トン数未満 |
PR=1.23×10-4×V3+0.085 |
|
10,000総トン数以上 |
PR=8.71×10-5×V3+0.076 |
|
ここで
PR:主機の負荷率
V:対地速度(ノット)
NOxマニュアルでは船舶の主機ディーゼルの負荷からNOx排出量を次の式により算定することができる。また、IMO対応機関では各排出ポイントでの出力当たりの排出量から算出できる。
N=1.49×(P×A)1.14×t×10-3
ここで
N:窒素酸化物排出量(Nm3)
P:定格出力(PS)
A:負荷率
t:時間(時)