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 国内の環境影響評価書などにおいて港湾区域内からの排出量を算定する場合には、NOxの排出係数および燃料消費量の係数はNOxマニュアルに記載の算出方法を用いることが多い。しかし、メーカーの発表するカタログ値等はMARPOL 73/78附属書VIのテクニカルコードに定めるテストサイクル下での排出率を示したものとなっている。これらの排出係数の考え方について表2.1-2にまとめた。
表2.1-2 船舶で用いられるNOx排出係数の考え方の相違
  A B C
排出係数の出典 IMO規制値 環境庁窒素酸化物総量規制マニュアル S&O財団(1992)など
(MARPOL73/78附属書VI)
排出量単位 出力当たりの排出量(g/kWh) 時間当たりの排出量(Nm3/h) 燃料消費当たりの排出量(g/kg-Fuel)
パラメータ 定格回転数(rpm) 発生馬力(PS) マクロな燃料消費量(g/h)
他での使用例 自動車排ガス規制(10.15モードでg/kmなど) 固定発生源からの排出量算定 IPCCにおける排出係数、米国の固定発生源排出規制など
機関単体の排出量推定 ×
(機関の大きさに重点をおいた係数であるため機関単体の排出量推定には適している) (定格1万ps機関の部分負荷時と、定格3000PS機関の定格時の排出量が同じに計算される) (機関の規模ごとには整理されていない)
 
 ここでは、各種調査におけるNOx排出係数算定方法の比較検討を行うとともに、燃料当たりの排出量を算定する際に重要となる燃料消費量の推定式についても比較検討を行う。
 図2.1-4に示すとおり、NOxマニュアルに記載されたNOx排出係数は、測定値と比較してやや低い値となっており、過小評価の可能性がある。
表2.1-3 機関出力をパラメータとするNOx算定式
    NOx算定式
(Nm3/h)
サンプル
数(n)
相関係数
r
備考
1 特殊発生源(船舶等)調査
(昭和52年、環境庁)
1.825×PS1.12×10-3 100 0.96 部分負荷時の測定データを含む実船測定
2 船舶からのばい煙量算定手法調査報告書
(昭和60年、船舶ばい煙問題研究会)
1.49×PS1.14×10-3 218 0.92 測定時の条件等は不明
3 NOxマニュアル(1993年改定、環境庁) 同上 個別データの記載なし
4 船舶に係る大気汚染物質排出実態調査
(平成2年、東京都)
3.092×PS1.086×10-3 29 0.96 部分負荷時の測定データを含む実船測定
PS:機関の出力(単位:仏馬力)部分負荷時には、推定馬力を代入。
図2.1-2 機関出力をパラメータとするNOx算定式の調査年度による比較
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S&O財団(平成10年);船舶排ガスの地球環境への影響と防止技術の調査より
表2.1-4 機関の回転数をパラメータとするNOx排出量算定式
    NOx算出式(g/kWh) サンプル数
(N)
備考
1 舶用機関学会の測定データ
(1994年)
近似式では表現されていない個別のデータ   テストベッドでの値
A重油を対象
部分負荷を含む
2 日本、運輪省案(1993年) 67×n-0.2(max) 不明 一部部分負荷
45×n-0.2(min)の範囲内 A重油のみ
3 IMO規制案(1993年) 9.8 (n>2,000) 不明 ISO8178サイクルでの重み付け後の値
45×n-0.2
(130<n<2,000)
A重油を対象
17 (n<130)
4 Lloyd'sの実測データ(1990年) 中速機関 13.8 中速56基 MDOおよびMFOを含む
低速機関 18.7 低速29基
近似式の形では整理されていない実航海時のデータ
5 EUROMOTの測定データ(1993年) 近似式では表現されていない   MDOを対象
n:機関の定格回転数(rpm)
図2.1-3 機関の回転数をパラメータとするNOx排出量算定式の比較
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定格時の機関回転数(rpm)
S&O財団(平成10年);船舶排ガスの地球環境への影響と防止技術の調査より
図2.1-4 NOxマニュアルとIMO規制値の比較
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定格時の機関回転数(rpm)
図中青線で表示した窒素酸化物総量規制マニュアルカーブの計算例
定格回転数200rpmの場合
定格回転数(RPM)と定格出力(P)の関係式(日本舶用工業会資料)RPM=2.599×P-0.568×104より定格馬力P=5,265kW=7,159PSと算出できる。
25%、50%、75%、100%の各負荷ポイントにおけるNOx排出量(Nm3/h)は、NOxマニュアルの排出算定式N=1.49×(PA)1.14×10-3を用い、下表のとおりに計算できる。ここで、Pは定格出力、Aは負荷率である。
IMO NOx technical codeで定められた算定式に従い、負荷毎に重み付けをした出力は3,620kW、NOx排出量は50,027g/hである。
NOx排出率は50,027g÷3,620kWh=13.8g/kWhと計算される。
 
負荷率 100% 75% 50% 25% 合計
出力(kW)A 5,265 3,949 2,633 1,316
出力(PS) 7,159 5,369 3,580 1,790
NOx排出量(Nm 3/h) 37 27 17 8
NOx排出量(g/h)B 75,898 54,676 24,810 5,108
NOx technical codeの重み係数C 0.2 0.5 0.15 0.15
出力(E3モード値)(kw)A×C 1,053 1,975 395 197 3,620
NOx排出量(E3モード値)B×C 15,180 27,338 5,166 2,344 50,027
 
 IMO規制に対応するために、舶用機器メーカーではIMOで定めた算定式に従い、25%、50%、75%、100%の各負荷点におけるNOx排出濃度および燃料消費量を計測し、これに基づきNOx排出率(E3モード値)を計算している。港湾区域内においては部分負荷での使用時間割合が高くなることが想定されることから、主機、補機ともにE3モードにおける排出係数を用いる事で大きな誤差は出ないと考えられる。
 ただし、IMOの規制値はテストベッドにおけるA重油相当使用時における値であることに注意する必要がある。海上の実機かつC重油相当を燃料とした測定データの蓄積は、メーカーにおいても少なく、過去においてもLloyd'sや(社)日本造船研究協会が調査を行っている程度である。
 (社)日本造船研究協会では、平成6年度から平成8年度の3ヶ年にわたりSR224研究部会が実船の排気ガス測定を実施している。同調査における陸上と海上のNOx排出係数の差異を図2.1-5に示した。SR224のデータは全般に今回収集のデータより高い値が多く、20g/kWh以上とIMO規制値を超えるものも少なくない。また、陸上と海上との比率を見ると、平均的には10%以上海上での排出率が高くなっていることが読み取れる。報文中でもNOx補正後の値でも、E3モード下での陸上と海上の差異は8.6%程度残るとしており、これには、燃料中のN分の影響や負荷率の測定誤差などが考えられる。
 燃料の違いについては、IMOの議論では燃料の違いにより最大15%の誤差を認めることがTechnical Codeに記述されている。そこで、表2.1-5に示すように、それぞれA重油使用時および未規制機関に対して、IMO規制値より大きな係数を設定する。C重油使用時かつ未規制機関においては規制値の25%増となる。さらに、表2.1-6に主機、補機別に総量規制マニュアルに基づいた排出係数に戻した場合の値を示した。
 また、ボイラーについては、NOx総量規制マニュアルには、8g/kf-Fuelという排出係数の例示が記載されているが、本計算ではIPCCのマニュアルに準拠し、9.8g/kg-Fuelの排出係数を燃料種に係らず一律に採用した。
図2.1-5 陸上と海上のNOx排出量データ
(SR224における試験結果)
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○が陸上での測定を□が海上での測定を示す。
日本舶用機関学会(1998):実船排気ガス測定、日本舶用機関学会誌、Vol.33、No.5より作成
表2.1-5 IMO規制値との整合性を取ったNOx排出量
  IMO未規制機関 IMO規制機関
主機(C重油相当使用として) 規制値の25%増 規制値の10%増
主機(A重油相当使用として) 規制値の10%増 規制値
補機(C重油使用として) 規制値の25%増 規制値の10%増
補機(A重油使用として) 規制値の10%増 規制値
表2.1-6 IMO規制値との整合性を取ったNOx排出量
(NOxマニュアルベース)
  IMO未規制機関 IMO規制機関
主機(C重油相当使用として) 1.61×(PA)1.27×t×10-3 1.45×(PA)1.27×t×10-3
主機(A重油相当使用として) 1.45×(PA)1.27×t×10-3 1.32×(PA)1.27×t×10-3
補機(C重油使用として) 1.61×(PA)1.15×t×10-3 1.77×(PA)1.15×t×10-3
補機(A重油使用として) 2.01×(PA)1.15×t×10-3 1.61×(PA)1.15×t×10-3








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