(7)モーダルシフトによるCO2排出削減量の推定
内航海運の分担率が増加した場合のCO2排出量の変化について、輸送物資や船種を区別せず分担率だけでみた場合の予測を表1.1-10および表1.1-11に示した。表1.1-10は内航海運ビジョン(2001)に示されたもので、内航海運の分担率が50%になると、2010年において運輸部門全体のCO2排出量は約15%減少すると予測している。
また、表1.1-11では1999年度における輸送エネルギー効率を用いて、分担率を変化させた場合の削減量について簡易な試算を行った。ここでは、個々の輸送機関における輸送エネルギー効率は将来に渡って変化しないこと、総輸送量はモーダルシフトによる分担率の変化により影響を受けないこと、鉄道の分担率は変化しないことなど、幾つかの仮定をおいている8。
内航海運の分担率が44%9になれば(総輸送量は変化しないものとして)運輸部門全体のCO2発生量は約4%、同分担率が50%になれば同CO2発生量は約13%削減できるものと推測された。
8 実際には貨物自動車の輸送エネルギー効率は、大型トラック走行速度の抑制などにより将来的に変化する事が予想される。モーダルシフト貨物が高速輸送を必要とされる場合、既に述べたように内航海運の平均輸送エネルギー効率を悪化させる要因にもなる。さらにモーダルシフトを行った場合には、総輸送距離は一般には増加する傾向にある。
9 前記の「地球温暖化対策推進大綱(2002年3月)」では分担率を現在の41%から44%に引き上げることが目標になっている(時期は明記されていないが、本大綱が2010年を目標にしているので、2010年までと理解される)。
図1.1-6は、表1.1-11で行った試算を2010年の排出推定値にあてはめた結果である。基準ケース(2010年までに対策を行わない場合)の排出量29,600万t-CO2及び対策ケースB(内航海運の分担率を44%とした場合(モーダルシフト以外の方策による削減効果を含む))の削減効果4,600万t-CO2は「国土交通省運輸部門環境年次報告書200-2002」に示された値を用いた。内航海運の分担率が44%である場合、前記の試算からCO2排出量は4%削減されることから、分担率の変化を含まない対策ケースA「モーダルシフト以外の削減効果による」を3500万t-CO2とした上で、対策ケースCにおける排出削減量7000万t-CO2を得た。
このように、モーダルシフトの推進は温室効果ガスの削減に大きく寄与するものであり、今後もその積極的な推進が必要であるものと考えられる。
表1.1-10 内航海運ビジョンによる内航海運分担率向上のための試算
内航海運の分担率50%の想定ケース
上段:輸送量(百万トンキロ)、下段( ):距離別の分担率(%)
  |
海運 |
鉄道 |
自動車 |
計 |
自動車からの振替率 |
現在
(1998年度) |
-100km未満 |
5,666
(6) |
676
(1) |
88,360
(93) |
94,702
(100) |
  |
100km以上-500km未満 |
55,302
(30) |
4,030
(2) |
125,253
(68) |
184,584
(100) |
  |
500km以上 |
166,013
(61) |
18,213
(7) |
81,058
(32) |
271,284
(100) |
  |
距離帯計 |
227,016
(41) |
22,923
(4) |
300,831
(55) |
550,770
(100) |
  |
将来
(2010年度) |
-100km未満 |
5,666
(6) |
676
(1) |
88,360
(93) |
94,702
(100) |
  |
100km以上-500km未満 |
64,531
(35) |
4,030
(2) |
116,023
(63) |
184,584
(100) |
5%ポイント |
500km以上 |
206,705
(76) |
18,213
(7) |
46,365
(17) |
271,284
(100) |
15%ポイント |
距離帯計 |
276,943
(50) |
22,923
(4) |
250,904
(46) |
550,770
(100) |
  |
仮定
1.全体、及び距離帯別の輸送量は不変。
2.100〜500kmの5%、500km以上の15%をトラックから内航海運へ振り変える。
結果
1.約500億トンキロの貨物が自動車から内航海運へシフト。内航海運の輸送トンキロの増加率は22%。
2.この結果、内航海運の分担率は41%から50%へと上昇する。
3.なお、この分担率の上昇は、運輸部門全体の消費エネルギーを約13%、排出CO2を約15%、さらに労働投入量を16%削減する結果となることが予想される。
出典:内航海運ビジョン、日本内航海運組合総連合会(2001)
表1.1-11 内航海運の分担率の変化に伴う運輸部門からのCO2排出量の変化の推定 |
輸送機関 |
現状(1999年) |
将来-A |
将来-B |
輸送量分担率(%) |
CO2排出量の割合(%) |
CO2排出原単位(g-CO2/トンキロ) |
輸送量分担率(%) |
CO2排出量の割合(%) |
輸送量分担率(%) |
CO2排出量の割合(%) |
自動車 |
55 |
87 |
344 |
52 |
82 |
46 |
73 |
海運 |
41 |
12 |
63 |
44 |
13 |
50 |
15 |
鉄道 |
4 |
1 |
- |
4 |
1 |
4 |
1 |
合計 |
100 |
100 |
- |
100 |
96 |
100 |
88 |
・CO2の排出量は燃料消費量に比例するものと、輸送機関ごとの燃料消費量よりCO2排出量を計算した。各輸送機関ごとの貨物輸送量から、CO2排出原単位(トンキロ当たりのCO2発生量)を求めた。
・燃料消費量、各種エネルギーの発熱量、輸送機関分担率は国土交通省総合政策局情報管理部編 運輸関係エネルギー要覧平成12年度版によった。
・陸上貨物輸送の輸送機関分担率は、営業自動車と営業用自家用自動車の分担率の合計値とした。その燃料消費量は、トラック消費のガソリンおよび軽油の合計値とし、自家用自動車の燃料消費量は全て旅客輸送に消費されたと仮定した。
・将来に対しても、全体の輸送量は変化しないものとし、海運と自動車の分担率のみを変更することにより、CO2排出量の変化を算出した。ここでは、鉄道の分担率は変化しないものとした。
図1.1-9 分担率向上による運輸部門からのCO2排出量の削減効果
・2010年の対策をとらない基準ケースの排出量を296×106t-CO2とした。
・内航海運の分担率を44%とした場合のその他の削減効果を含めた削減見込み量は、「国土交通省運輸部門環境年次報告書2001-2002」から、4,600万t-CO2と仮定した。
・運輸部門からのCO2排出量の削減見込み量として、表1.1-11に示した将来-A、将来-Bの削減割合を用いた。
・対策ケースBは地球温暖化対策推進大綱における運輸部門の対策(4,600万t-CO2)に相当する。
・対策ケースAは対策ケースBからモーダルシフト(内航海運の分担率44%)による効果を取り除いて計算した。
・対策ケースCは対策ケースAにモーダルシフト(内航海運の分担率50%)による効果を加えたものである。
(8)モーダルシフトによるCO2以外の環境影響について
最後に、モーダルシフトによるCO2以外の環境影響について検討した。 図1.1-1に示すように、船舶のCO2排出原単位が鉄道を除く他の輸送機関に比べて優位であるのは間違いがない。ただし、実際の船舶輸送においては、戸口〜港湾間のトラック輸送や積替えに伴うCO2の排出やコストも考慮する必要がある。例えば、東京-福岡の貨物輸送については表1.1-12のような評価事例があり、所要時間は1.4倍程度になるものの、CO2排出量は半減、輸送コストも2/3程度に削減できるものとされている。
このように、陸上トラックから内航海運へのモーダルシフトは、港湾から戸口までのトラック輸送や積替えに要するエネルギーなどを考慮しても、CO2排出量を大幅に削減するとともに、輸送コストの節減にも貢献することから、その一層の促進が期待される。
なお、内航海運へのモーダルシフトはCO2排出量を大幅に削減する効果があるものの、NOx、SO2については逆に増加するデメリットもある。軽油を燃料とするトラック用ディーゼル機関と異なり、船舶用ディーゼル機関は石油精製の下流のプロダクトである重油を燃料として使用している以上、NOxやSO2が増加するのは避けられない問題である。また、輸送行程のほとんどが沿岸域から数マイル離れており、その排出密度と陸域からの距離を考慮すると陸上の生活域への影響は限られている。しかしながら、モーダルシフトを促進するにあたっては、船舶からのNOx、SO2の低減のための対策を十分に講じ、環境への影響を総合的に低減する必要があることは言うまでもない。
表1.1-12 内航海運へのモーダルシフトの評価事例
注:対比において+は増加、−は減少を示す
項目 |
CO2排出量 |
SO2排出量 |
NOx排出量 |
労働力 |
輸送コスト |
所要時間 |
トラック輸送との対比 |
-53% |
+282 |
+133% |
-22% |
-38% |
+36% |
・東京ターミナル〜福岡ターミナルの貨物輸送の場合。
・トラック輸送は東京IC〜大宰府ICを高速道路でトレーラー輸送し、海上輸送は東京港〜北九州港を5,000総トンクラスのRORO船(積載シャーシ率100%)で輸送したと想定。
・各IC〜各ターミナル(それぞれ50km)および各港〜各ターミナル(それぞれ100km)は、小口のトラック輸送を想定。この結果、総トンキロに占める海運の割合は、72%。
・トレーラー輸送およびRORO船上のトレーラーの積載率は長距離輸送トラックの実績(11トン)で変化しないものと仮定。
・CO2排出係数はトラック輸送時に48g-C/トンkm、フェリー輸送時には19g-C/トンキロ。
・NOx、SO2は独自試算。NOxについては、トレーラーおよびトラック輸送が、平成15年排出規制値(3.38g/kWh)、RORO船がIMO規制対応機関(13g/kWh)を仮定。燃料中硫黄分は、軽油が0.05%、フェリーがA重油相当0.25%とした。
内航海運ビジョン、日本内航海運組合総連合会2001年などの数値より作成