(6)モーダルシフトが輸送エネルギー効率に与える影響
・船舶の輸送エネルギー効率の推移について
次に、上記の推定結果を利用して輸送エネルギー効率(輸送トンキロ当たりの燃料消費量(kcal))の推移について検討した。表1.1-8および表1.1-9において、モーダルシフト船を含む内航海運(フェリーを除く)の輸送エネルギー効率をK欄に示した。過去10年間の内航海運(フェリーを除く)の輸送エネルギー効率は、1990年比で8%程度悪化していることが認められる。
モーダルシフト貨物の場合、シャーシ部分の輸送エネルギーが余計にかかることや、一般貨物船に比較して高速で運航されるRORO船やコンテナ船で輸送されること、また特に近年は海上輸送のデメリットを解消しモーダルシフトを促進するために長距離フェリーやRORO船に従来よりも高速の航路が設定されていることなどから、上記の輸送エネルギー効率の悪化にはこれらの要因が反映されていると推定される。
そこで、モーダルシフト船とそれ以外の船舶の輸送エネルギー効率を別々に算定した(表1.1-8および表1.1-9のL欄およびM欄を参照)。算定においては、両者の輸送エネルギー効率の比率が13:10であると仮定した6。
その結果によると、モーダルシフト船を除いた船舶(L欄)においても輸送エネルギー効率が4〜6%程度悪化していることが認められる。
6 RORO船やコンテナ船のCO2排出原単位はフェリーと同程度と仮定し、図1.1-1に示した船舶:フェリーのCO2排出原単位の比10:13が、一般貨物船:モーダルシフト船にも適用されるものと仮定した。
内航船舶の隻数は過去10年間で大きく減少し、1隻あたりの総トン数は増加してきている(図1.1-6)。また、図1.1-7に示したように、過去10年間では400総トン未満の船舶から700総トン以上の船舶への移行が明らかである。その点からすれば輸送エネルギー効率は改善されているはずであるが、それにも関わらず内航海運全体の輸送エネルギー効率平均が悪化した原因として、[1]平均的な航海速度が上昇している可能性があること、[2]大型化に対応した船型の最適化が必ずしも進んでいない可能性があること、の二つが考えられる。
[1]の航行速度について実際の海上での統計データは存在しないが、表1.1-7に示すように全船ともに船齢が低い船舶ほど明らかに設計速力の上昇がみられることから、大型化による効率改善と速度上昇による効率悪化が相殺されているものと考えられる。また図1.1-8に示すように、1航海当たりの総所要時間数128時間のうちで実際の航海所要時間は40〜50%にすぎず、沖待ちなど待機その他の時間が同様に50%弱を占めている。このように待機時間が長いことは、船員の休養時間確保などのため、本来経済速度で運航されるべきところをより速い速度で航海されていることを示すものであるかもしれない。
一方、内航船の船型については、最大バース長やトン数計測法の制約等により、大型化による総トン数の増加に見合うだけのカーゴスペースの確保ができていない可能性がある。また、専用船化や荷物のパッケージ化(パレタイズカーゴなど)も実質的な消席率の悪化に影響している可能性も考えられる。さらに、499総トン以下の小型船とそれ以上の大型船とでは、外洋航海における対波性能の観点から船型設計が大きく異なるため、推進効率の点でも差が出ているものと考えられる。
・モーダルシフトによる燃料削減効果について
海運へのモーダルシフトの効果を評価する目安として、海運へのモーダルシフトによって削減された燃料消費量を算定し、その削減量をモーダルシフト船以外の船舶の燃料消費量に加えたもの(即ちモーダルシフトが行われていなかった場合の燃料消費量)で除した数値を燃料の削減効果を示す目安とし、その値を表1.1-8及び表1.1-9のO欄(最下欄)に示した。
表1.1-8(貨物地域流動調査ベース)によると、1990年において9%近い燃料削減効果があり、1999年では14%近い効果があることになる。また、表1.1-9(内航船舶輸送統計年報べース)では、経年的な削減効果増大は見られないものの、燃料削減効果としては17%程度もあることが認められる。
上記の値にフェリーによる削減分も含めると、貨物地域流動調査ベースおよび内航船舶輸送統計年報べースともに25%程度の効果があると推測された。
一方、輸送エネルギー効率の比較で考えると、1999年時点でトラックとモーダルシフト船の輸送エネルギー効率は2.7:1の開きがある。この輸送エネルギー効率の差異からすれば、10%のモーダルシフトは6%強の燃料消費量の削減をもたらすことになる7。
モーダルシフトによるCO2の排出削減効果は、内航海運における輸送エネルギー効率のさらなる向上を図ることにより、さらにその効果を広げることができる。国土交通省や日本内航海運組合総連合会はエネルギー消費原単位として3%の削減を目標としているが、モーダルシフトの進展と併せて、スーパーエコシップの開発・実用化等を含めた輸送エネルギー効率の改善努力が今後も求められるところである。
7 (2.7×0.1-1×0.1)/2.7×1≒6%
出典:内航海運ビジョン、日本内航海運組合総連合会(2001)
図1.1-6 内航海運における平均船型及び1隻当たりの輸送トンキロの推移
(注)各年3月31日現在
(資料)内航海運ハンドブック、日本海運の現況
図1.1-7 内航海運における船型別総トン数合計の推移
表1.1-7 内航海運における船齢別航海速力(設計速力)の推移表
  |
  |
7年未満 |
7年以上
14年未満 |
14年以上 |
一般貨物 |
199総トン |
10.63 |
10.01 |
9.63 |
499総トン |
11.27 |
10.99 |
10.51 |
699総トン |
12.41 |
11.46 |
10.20 |
タンカー |
199総トン |
10.12 |
9.82 |
9.60 |
499総トン |
11.00 |
10.91 |
10.50 |
699総トン |
11.77 |
11.38 |
10.99 |
1,599総トン |
12.98 |
12.02 |
11.15 |
2,999総トン |
13.36 |
12.89 |
12.50 |
内航船の機器・装置の現状と仕様に関する調査報告書、平成13年日本内航海運組合総連合会より作成
(注)1998年10月実績による航海所要時間の内訳である。全体の行程は、[1]前港出港準備→[2]空船回航→[3]積地待機→[4]積荷役→[5]積地出港準備→[6]積荷航海→[7]揚地待機→[8]揚荷役であり、他に荒天避難等の時間も加わる。グラフの航海は[2][6]、荷役は[4][8]、待機は[3][7]の計である。
(資料)財団法人海事産業研究所「内航海運コスト分析研究会報告書」2000年3月
図1.1-8 内航船の運航時間に占める非運航時間の割合
表1.1-8 内航海運へのモーダルシフトに伴うCO2発生量および輸送エネルギー効率の推移 (その1貨物地域流動調査ベース) |
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*1:モーダルシフトによる燃料削減量(上記N欄)/モーダルシフトが実施されていなかった場合の燃料消費量(燃料削減量+船舶の燃料消費量)
表1.1-9 内航海運へのモーダルシフトに伴うCO2発生量および輸送エネルギー効率の推移 (その2内航船舶輸送統計年報ベース) |
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