X. むすび
本調査は、文字通り、わが国の海洋ビジョンを模索する試みとして取り組んだ。その趣旨は「序章」ほか各所で触れられているとおりだが、当然、海洋にかかわるすべての分野を網羅して取りまとめるには至っていない。あくまで、当委員会での独断と偏見が入り込んでしまっていることも承知の上で、重要と考えられるテーマを絞り込んで、それに焦点を当てて取りまとめたものである。したがって、他にもっと重要なテーマも存在するという意見もありうるであろう。それについては、今後、各方面からの声を参考にしながら順次、取り組んでいくことにしたい。
また、テーマのくくり方にしても、更なる工夫が必要と思われるものもある。たとえば、「環境管理」といったコンセプトでのまとめができないかというのも、その一つである。その点は、事務局や委員会内でも議論になったところであるが、今回は沿岸域管理などのそれぞれのテーマのなかで取り込んで扱うこととした。他方、今回はそれぞれのテーマの一部として扱っているものの、事柄の性質上、単独のテーマとして取り上げるにたるものも含まれている。たとえば、水産資源管理や沿岸域管理のなかで取り扱った漁業権制度にかかわる問題がその好例である。それ自体で、漁業すなわち食糧生産の振興という側面から海域利用の仕組みに至るまで、非常に多面的で重要な内容となるはずのものである。あるいはミチゲーションも同様に、単独テーマとして切り出して論じるのが望ましいかもしれない。
それにつけても、21世紀の方向性を追求する動きは目が離せない。わが国の海洋・沿岸域の開発、利用、保全、そしてそれらに伴う取り組みやビジネスの方向性や将来像を明らかにすることが極めて重要だということは、何度繰り返してもしすぎることはない。したがって、科学技術・学術審議会海洋開発分科会の諮問「長期的展望に立つ海洋開発の基本構想と推進方策について」に対する答申の内容が大いに注目されるところであるが、様々な場面で、わが国の海洋に関する将来ビジョンがもっともっと議論されて良い。
さらに、東南アジア諸国の動向にもしっかり目配りをしていかねばならないことはもちろんであり、アメリカの海洋政策審議会(Commission on Ocean Policy)の報告書も近々、まとめられるであろうから、これまた重要な動きとして注視していきたい。
本海洋ビジョン調査は、当シップアンドオーシャン財団の海洋シンクタンク活動の中でも中心的な柱として位置付けられるものである。そこで、次年度以降、一層の深掘り作業や新しいテーマの検討など、フォローについてもできる限り取り組んでいきたい。その際には、関係方面のご協力とご支援をお願いすることになると思われるので、何分のご配慮を賜れば幸いである。
本報告書が関係方面の多くの方々の目に触れ、読まれ、ビジョン論議を喚起する有用な参考となることができれば幸いである。
今回、取りまとめにあたった来生委員長ほか委員各位ならびに執筆協力をお願いした外部専門家の方々にも、ここに厚くお礼を申し上げて、むすびに代える次第である。
(了)