IX. わが国海洋・環境教育の現状把握と今後のあり方
日本大学理工学部海洋建築工学科 近藤 健雄
[サマリー]
1.海洋・環境教育の意義
産業革命以降に化石燃料の消費が急増するとともに、科学技術の発展に伴い化学合成物質の生産が急速に伸びたことに加え、20世紀後半には特に発展途上国で自然環境の破壊(熱帯雨林やマングローブ林の伐採等)が進んだことにより、海洋・沿岸域を取り巻く環境問題は深刻化しており、21世紀において持続可能な社会形成を実現するためには、海や沿岸域の果たすべき役割は大きいと考えられる。
そのため、地球環境の保全に海洋が果たす役割を解明する海洋科学研究をより一層推進する必要があるとともに、身近な海(沿岸域)の環境に対する国民の関心を高め、21世紀において持続的な地域社会の発展を図るための、特に沿岸環境を対象とした環境教育の一層の推進が求められる。
そこで、本稿ではこれらを達成することを目的とした教育を「海洋・環境教育」と位置付け、21世紀のわが国社会を支える最重要の事項として捉える。
2.海洋・環境教育の現状
本稿では、海洋・環境教育に対する、[1]教育機関における取り組みと、[2]教育機関以外の海洋・環境教育を担う関係機関における取り組みについて、それぞれその現状を整理した。
まず、教育機関については、特に海洋科学研究の推進に中心的な役割を果たしている大学教育の現状と、「身近な海の環境に対する国民の関心を高める」環境教育を推進するために重要な役割を担うと考えられる「総合的な学習の時間」(平成14年度から小中学校で実施)について、その概要を紹介した。
一方、教育機関以外で海洋・環境教育を担う関係機関については、大学とともに海洋科学研究を担う機関として大きな役割を果たしている全国の試験研究機関の現状と、総合的な学習の時間においてサポーターとして大きな期待が寄せられる水族館、マリーナ等の臨海施設や、地先の海を熟知している漁業協同組合、近年活発に環境保全活動を展開しているNPO・NGOの現状を紹介した。
3.海洋・環境教育の今後のあり方
21世紀におけるわが国の海洋・環境教育の展望として、「学校教育」と「社会教育・生涯教育」に大別し、下記の項目について提案した。
(1)学校教育における海洋・環境教育のあり方
[1]共働体制の確立
[2]海洋・環境問題に対応した教材の開発
[3]小中高校の教職員の基礎知識向上
[4]地域社会との連携
[5]海洋環境教育ビジネスモデルの構築
[6]大学・大学院における海洋・沿岸域管理専門コースの設立
(2)社会教育・生涯教育としての海洋・環境教育のあり方
[1]沿岸域管理における海洋・環境教育の位置付け
[2]地域特性を活かした海洋・環境市民講座の開催
[3]エコツーリズム・ブルーツーリズムの推進
[4]まちづくり・地域振興としての海洋・環境教育
[5]海洋・環境教育関連情報データベースと教材・資源マップの作成
[6]地域に根ざした海洋・環境