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VII−2. 水産資源の総合管理 ―法制度と計画制度の側面から―
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科 来生 新
[サマリー]
 本稿は、国民の食生活全般ならびにわが国の生活文化そのものに大きな影響を有する水産資源の総合管理の現状分析を行い、そこから現行制度の問題点を抽出し、将来の改善方向を展望することを試みるものである。
 本稿では、まず水産資源の総合管理のために用いられる主要な手段となる法制度に焦点を当てて、現行法制度の概要と、それらの法制度と一体になってさまざまな主体の活動に影響を与える現行計画制度の概要を全体的に紹介する。このような作業によって、現在のわが国水産資源の総合管理に関する諸手段の相互関係が体系的に明らかになり、政策の現状分析の一助となると考えるからである。本年度の作業は主としてこの現状分析に留まらざるをえないが、そこから政策手段の体系的整合性のチェックや、手段の限界、効率等に関する将来の検討課題を抽出することが、とりあえずの本稿の目的となる。
 本稿の構成は以下のとおり。
 
1. 水産資源の総合管理と漁業制度の関係
2. 水産資源の総合管理に関する法制度の展開
2.1 明治漁業法制定以前の制度の変遷
2.2 明治旧漁業法の制定(明治34年)とその全面改正(明治43年)によるいわゆる明治漁業法の制定
2.3 大正・昭和における漁業の変遷と法制度
2.4 GHQ主導による新漁業法の制定
2.5 漁船法、漁港法、水産資源枯渇防止法、水産資源保護法等の制定――戦後の漁業基盤復興と漁獲努力量の削減手段の導入――
2.6 高度成長と漁業制度の変遷
2.7 高度成長期以降、海洋法条約体制確立までの状況
3. 水産資源の総合管理の現状
3.1 水産基本法
3.1.1 法律の概要
3.1.2 水産基本計画
3.2 漁業法
3.2.1 漁業法の概要
 1) 漁業権
 2) 許可漁業
 3) 漁業調整
3.2.2 漁場計画
3.3 海洋生物資源の保存および管理に関する法律(TAC法)の概要
3.3.1 法律の概要
 1) 立法の趣旨と法目的
 2) 基本計画
 3) 都道府県計画
 4) 基本計画等の達成のための措置
 5) 報告および立ち入り検査
3.3.2 基本計画の現状
3.4. 水産資源保護法
3.4.1 法律の概要
 1) 採捕制限等
 2) 科学的調査
3.4.2 保護水面およびさく河魚類の保護培養
 1) 保護水面制度
 2) さく河魚類の保護培養
3.5 漁船法
3.6 漁港漁場整備法
3.6.1 法律の概要
3.6.2 漁港漁場整備基本計画
3.7 遊漁
4. その問題点と改善の基本的方向性
 
 現行法の概要の検討から明らかになったように、わが国における資源管理の手法は多様である。これらの手段は、強制の観点から見て、[1]TAC法による漁獲量の割当を頂点とする国家による直接的資源管理、[2]漁業法や水産資源保護法による権利付与、行為規制を通じた国家による間接的資源管理、[3]漁業法に基づく海区委員会指示のような、漁業者の自主的行為と国家的な規制の中間形態、[4]TAC協定、漁場利用協定、資源管理協定、水産業協同組合法の資源管理規定のように漁業者の自主的協定に法律が国家的な承認を与えるもの、[5]純粋に漁業者が私的に行う資源管理の5類型に分類しうる。
 一般的に、権利として保障された利益があるときに、特定の者へ不利益の甘受を国家が強制する度合いが強くなれば、特別の犠牲に対する補償が必要となる。漁業権の消滅補償も含めて、TACの体系と従来の各種の措置に対する補償の整合性が検討されなければならない。TACによる割当の強制は補償対象とならないことと、他の補償対象となる規制との整合性が保たれているのだろうか。補償が時として最初から補償を得ることのみを目的とする行為を誘発しがちなことを考えると、新たな資源管理型漁業の下で何がどのような理由によって補償対象となるべきかの再検討が必要となると考えるのである。
 さらに、漁業者の協定による資源管理は、それが私的なものになればなるほど、生産制限カルテルの性質を強くする。独占禁止法は漁業協同組合を一定の範囲で適用除外とするが、漁業に対する適用除外規定は存在しない。第一次産業である漁業に対しても、原則として独占禁止法は適用されるが、漁業に他の産業の独占禁止法による規制の論理がそのまま当てはまるかどうか、これも十分には検討されておらず、今後の検討課題と考える。
 他に、検討すべき課題も多いが、とりあえず、以上を今後の検討課題として指摘しておく。








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