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VII. 水産資源の総合管理
VII−1. 水産資源の利用と管理
東京水産大学水産学部資源管理学科 馬場 治
[サマリー]
 世界の人口増加と食料需給の不均衡という問題は将来にわたって依然として解決されない大きな問題として存在し続けると予想される。食料供給に関しては、天然海洋生物資源の利用が自然環境への負荷という面から最も有効な手段と考えられるが、その合理的な利用のためには科学的根拠に基づく適切な管理が不可欠である。今日では、国連海洋法条約下で各国内、あるいは国際的な資源管理に対する取り組みが行われるようになっている。しかし、漁業に関する関係者間の利害が輻輳し、さらに漁業以外の利害も絡み、本来目指されるべき資源管理の目的が達成されているとはいえない。本稿では、このような現状認識に立ち、資源利用・管理の理想形態としてはどのようなものが構想され得るのかを検討した。現実問題としてはこの構想の実現には克服しなければならない様々な障害があるが、ここでは敢えてその問題を棚上げにして、あくまでも理念としての構想を検討した。
 
 構成は下記のとおりであり、その構成にしたがって内容の要約を記す。
 
1.はじめに
 
2.世界の水産物需給
2.1 世界の食料需給
 国連の人口予測によれば、世界の人口はそのペースを徐々に緩めながらも依然として増加をし続けており、これに対する食料生産は生産技術の進歩等により増加はするが、人口増加と食料増産の地理的分布様式にはずれがあり、食料供給問題は依然として人類の将来にとって重大な問題である。
2.2 世界の水産物需給
 世界の漁業生産は1950年以降、70年代の200海里体制移行時の混乱期を除いて順調に伸びてきたが90年代に入って停滞傾向を示し始めている。捕獲漁業と養殖業に分けてみると、養殖業は伸びているが捕獲漁業は減少傾向に転じている。しかし、養殖業も今後この成長が維持されるとは考えにくい。また、世界で漁獲される主要魚種を食用と非食用に分けると、生産の中心を占めているのは非食用であり、食用魚種の生産は停滞あるいは減少傾向にある。このような水産物の生産における問題点が、将来の世界の食料問題という観点から資源の利用・管理体制の新たな枠組みが必要とされる所以である。
 
3.世界の資源管理体制
3.1 欧米と日本の漁業管理比較の視点
 欧米と日本の漁業管理のあり方を比較するときの視点として、[1]漁業への参入の自由度、[2]規制の手法、[3]管理の主体の問題、の3点を挙げ、欧米と日本の比較を行った。従来、欧米型の管理手法が高く評価されてきたが、近年では日本型ともいえる自主的管理の有効性も評価されるようになってきた。
3.2 欧米の漁業管理
3.2.1 欧米の漁業管理の流れ
 欧米を中心とする漁業管理のあり方の推移を上記の3つの視点から考察した。
3.2.2 欧米の漁業管理の現状
 欧米各国の漁業管理の現状を、国別にその管理手法を中心として概観した。
3.2.3 欧米型漁業管理における問題点
 欧米型漁業管理の基本となっているTAC制度及びその下で導入が拡大しているIQあるいはITQ制度の問題点を検討した。
3.3 日本の漁業管理
3.3.1 日本型漁業管理の枠組み
 日本型漁業管理の基本であったのは参入規制と努力量の投入規制である。その下で、許可制度、漁業調整規則などによる制度的管理と漁業者の組織による自主的管理が行われてきた。このような枠組みが長く続いてきたが国連海洋法制定を受けて欧米型のTAC制度の導入が図られるようになってきた。
3.3.2 資源管理型漁業展開の背景
 80年代以降の日本の漁業管理の流れを大きく規定することになった資源管理型漁業について、その展開の背景と実態について検討した。
3.4 公海資源の管理体制
 国連海洋法制定以後の公海資源の管理体制のあり方について概観した。国際的な管理機関を設けて管理を行うという方向には進んでいるが、管理の実態は、各国の利害が複雑に絡み管理の実効をあげているとはいえない。このことが、さらなる資源利用・管理体制の構築を必要とする背景でもある。
 
4.新たな資源の利用・管理体制の再構築に向けて
 海洋水産資源を人類の共同財産と位置づけ、その利用による利益が特定の国だけに独占されるのではなく、広く世界人類に与えられるような構造を作ることが、将来の食料問題の解決に貢献する資源の利用体制と考えられる。そのためには、国連海洋法下で制定されている深海底の鉱物資源の利用制度が参考となる。








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