5. 将来展望
波浪エネルギーの経済性は時間の経過とともに漸次改善されつつあると言われている。この改善は技術に対する理解が進むことにより資本コストの低下につながった太陽光や風力など他の再生可能エネルギーの場合に類似している。ノルウェー工科大学のファルネス教授によれば、波浪エネルギー変換装置を経済レベルにまで引き上げるには特定の金額の研究開発資金が必要になることを明らかにしている。また、このレベルが実現した場合は波浪エネルギー変換装置に巨大市場が開ける可能性があることにも言及している。欧州諸国連合(EU)においては、他の再生エネルギーに比べ、最近はほとんどめぼしい資金援助を受けずに商業装置に進む段階に近づいており、そのコストは適切な波浪条件により3.5〜8セント/kWhと言われている。さらに最近では、従来の発電方式を含めた環境に係わる「外部コスト」、即ち人間の健康、自然の生態系及び環境への損害をコストに数量化して評価するアプローチが試みられている。本評価方法は地球環境保全と人類の持続可能な発展を続けるために必要不可欠であるとともに、再生可能エネルギーのコスト低減を促進させるものと考えられる。
前述したように2000年末よりスコットランドのアイラ島で世界最初の商業用沿岸固定式波浪発電装置の運転が電力会社と15年の供給契約を締結し開始され、大型波浪発電装置として実用化を果たせるか期待されている。最近の情報によれば、英国工業エネルギー省は本装置の良好な運転実績により、1.67百万ポンド(約3億1900万円)の新規装置研究開発費を認めており
6)、EUにおける波浪エネルギー利用技術の研究開発が再び活発化している。波浪エネルギーはIEAの予測にあるように、将来的にかなりのエネルギー量を供給できる可能性を持っている。第一次石油危機以降、波浪エネルギー利用技術の研究開発が進められ約30年が経過した。この間、国内外の研究者及び研究機関により地道で継続的な研究が行われ、多くの知見や研究成果が報告されている。比較的環境にも安全且つ膨大に存在する波エネルギーを見過ごす手はなく、また、人類の持続可能な発展やこれまでの研究成果を無駄にしないためにもその実用化は期待されている。