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4. 他の海洋エネルギー利用の現状と展望
 上記の有力3テーマ以外の海洋エネルギー利用はどのように評価したらよいであろうか?表1のなかから、本文で取り上げなかったいくつかの種類を検討してみよう。
(1)潮汐発電
 まず、潮汐発電であるが、これが成立するには干満差が大きな立地適性に恵まれなければならないのだが、表2に示すようにわが国で最大干満差があるのは有明海の約5mにしか過ぎない。満潮時に入江等に建設したダムに海水を溜め込み、これを河川の水力発電と同様にタービンのある水路をとおして発電するシステムが主で、1966年11月に完成したフランスのランス潮汐発電所が世界的に有名である(図1参照)。
 世界ではこの他に1968年完成の現ロシアのムルマンスク北西80kmに建設されたキスラヤ潮汐発電所がある。最大出力400kWで、ランスの例と異なり、コンクリート製発電ユニットを造船所で建設後、浮かべて現地まで曳航して入り江の海底に沈設するという建設方式を採用したが、コストダウンには有力な方法である。さらに、1980年完成した中国の江履潮汐発電所があるが平均潮位差5mという条件下で双方向発電方式の最高出力5MWの実証実験プラントである。低落差タービンなどの技術上の開発がもっと進めば、わが国でも可能性は出てくるであろう。
(2)海流・潮流発電
 このコンセプトは一般には黒潮やメキシコ湾流などの大きな海流の流れの中にタービンを設置して発電するというもので、アイデアはこれも古くから存在する(図2参照)。アメリカのロッキード社がかつて巨大な海底係留の横置きダクト型海流発電システムの概念を公表したことがあるが、技術的な課題が余りに多く実験も行われてはいない。同様にわが国でもいくつかのアイデアが提案されており、主として内海の急流が発生する海峡という地形条件を想定したものである。1983-88年に来島海峡で、また、1986年に鳴門海峡で、それぞれ異なるシステムの基礎実験が行われた。まだ基礎研究段階にあることは否めない。
 しかし、上記の潮汐発電とともに、将来的に発電所からの大規模広域供給という図式が取り払われ、それ以外のローカルエネルギー利用、すなわち、その地域の電力需要はその地域で発電供給する方式が採用される方向が打ち出されるようになれば、また、技術開発が大幅に進めば、21世紀の100年というタイムスパンのなかでは実現可能性が出てくるかもしれない。
(3)海水揚水発電
 平成11年度から5年間の予定で実証試験運転が世界ではじめて、わが国の沖縄県北部の国頭村、太平洋に面した海岸線沿いで行われている(図3参照)。これは、夜間の電力を用いて海水をポンプで上池に汲み上げ、海面との有効落差136mを利用して水車に放流することによって、最大出力3万kW(一般家庭約1万世帯分)を発電するものである。揚水発電自体は陸上でいくつかの例があるが、海水揚水発電は初めてである。立地条件に適性があれば今後も可能性が考えられるが、他の海洋エネルギー利用方式との競争になってくるであろう。
(4)太陽光発電の海洋立地
 これも風力発電の海洋立地と同様に、自然エネルギー利用の有力システムである太陽光利用の展開の場を海洋に求める方式である(図4参照)。課題としては、太陽光を広く受け止める面積が要求されること、海水の塩分に対する防錆技術が不可欠であること、洋上での立地海域確保が困難であること、などが上げられる。
 将来、何らかの目的用途が明確な海洋構造物の大型のものが実現していけば、その面積の広さを生かして太陽光発電が可能性を有するようになるかもしれない。本調査の別章で「次世代海洋構造物」を鈴木助教授に論じていただいているが、そこでの最終部分に将来の海上都市構造物が示されている。そうした構想の実現段階にあっては、構造物上での消費電力はすべて自前で賄うことが要請され、かつ必要であろうから、風力、OTEC、太陽光のいずれもがそれぞれの特性を生かした組み合わせで活用されることになろう。
(5)海洋バイオマス発電
 これも数十年前からアメリカやわが国でもコンセプトは大いに論議された歴史のあるテーマだが、一般に、大型藻類(ジャイヤントケルプが第一候補)を大量に沿岸海域で育成し、刈り取ってメタンを発酵させてこれを発電に利用しようというものである。カリフォルニア沖での実証実験後は、経済性や技術的課題から積極的に論じられることは少なくなったままである。今日においても、その情勢は変わらず、ビジョンを考える上でも上位に位置付けられることは考えにくいであろう。
 
 ところで、今から約20年前の昭和54,55年の旧海洋開発審議会第一次、第二次答申のなかで、海洋エネルギー利用についてもかなり詳しい叙述が含まれている。当時、2000年を目標に概念整理、設計、試作機製作、実証実験などの詳しい推進方策が示された。現実はそのとおりにはならなかったが、もし取り組むとするならばという仮想のうえでの検討結果としては、今日においても非常に参考になる内容が含まれていることを付記しておきたい。
表2 世界の最大潮位差上位地区
地名 国名 最大潮位差 〔m〕
モンクトン (Moncton) カナダ 16.0
セバーン河口 (Severn) イギリス 15.5
ジョーダン (Jordan) カナダ 15.4
フィツロイ (Fizroy) オーストラリア 14.7
グランビル (Granvill) フランス 14.5
ランス (Rance) フランス 13.5
リオ・ガエゴス (RioGagllegos) アルゼンチン 13.3
インチョン (仁川) 韓国 13.2
バウナガル (Bhaunagar) インド 12.0
アンカレッジ (Anchorage) アメリカ 12.0
アナドリィ (Anadory) ロシア 11.0
住の江 (有明海) 日本 4.9
(出典:近藤叔郎編著、海洋エネルギー利用技術、1996年4月22日、森北出版、P.18)
 
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図1 フランスのランス潮汐発電所の概要
(出典:(社)日本海洋開発建設協会、21世紀に向けて:これからの海洋開発、昭和63年10月26日)
 
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図2 海流発電のイメージの一例
(出典:図1に同じ)
 
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図3 海水揚水発電実証プラントの全景
(出典:電源開発(株)ホームページ)
 
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図4 洋上太陽光発電のイメージ
(出典:図1,2に同じ)








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