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VI. 海洋エネルギー利用のビジョン(概括)
(社)海洋産業研究会 中原裕幸
1. 海洋エネルギー利用の基本的視点
 今後10年間を見通す答申案を策定中の科学技術・学術審議会海洋開発分科会(旧海洋開発審議会)の海洋利用委員会の報告では、海洋エネルギーに関する叙述は「4.2循環型社会を目指した海洋エネルギー利用」という一節で次のように取り上げられている。
 「21世紀において、循環型社会の実現に適応するエネルギー及び再生可能エネルギーの利用に重点的に取り組むことが重要である。海洋には、風力・波力・潮力・温度差・太陽光等のエネルギーが広く分布するため、これら海洋エネルギー等の利用を促進することが重要である。」
 そのうえで、5つのテーマのうちで次の二つが関係するものとして掲げられている。
●洋上における風力発電の推進
●循環型社会に対応した港湾・洋上・離島におけるエネルギー活用技術
 前者については本調査でも外部協力者の専門家に執筆いただいており、今日、海洋ビジョンを語る場合には重要な柱の一つとして位置付けられるものである。他方、後者については、上記報告書では、「自然エネルギー(波力ポンプ、洋上風力発電、太陽光発電等)を利用した水質改善技術等の開発が重要である。自然エネルギーは広い範囲に分布するエネルギー密度の低い分散型エネルギーであるが、ここの海域の特性に応じた・・・活用や、・・・複合的に活用することにより、自然エネルギーの実用化を図るべきである。」としている。利用方策がいささか限定的にしか述べられていないきらいがあるが、これは得られるエネルギーがほとんどの場合「電力」であり、したがって既存発電所から得られる電力との競合関係で経済性に難点が伴い、なかなか需要が見出しにくいことを反映したものである。また、エネルギー密度が低いことは海洋エネルギー固有の特徴であり、効率的な電力変換の制約要因となっているため、複合化等の方策等を講じないと実用化が難しいことを示唆している。
 こうした叙述から、他の資源・エネルギーに比べて、海洋エネルギー利用は残念ながら必ずしもプライオリティの高い分野とは位置付けられていないといってよい。また、海洋の開発・利用・保全全般の中でもプライオリティは高くないと言わざるを得ない。
 にもかかわらず、21世紀の海洋ビジョンを検討する上では、海洋エネルギー利用の分野はもっと重要性の高い分野として取り上げるべきものと考える。なぜなら、それはCO2の排出規制や地球温暖化対策を真剣に考えねばならない時代にあって、自然エネルギー、再生可能エネルギーへの転換は、大きな潮流として形成されつつあることに疑問の余地はなく、しかも、自然エネルギー利用のなかで、海洋エネルギーそれ自体の利用、もしくは風力、太陽光等のエネルギー利用の海洋での展開は、きわめて大きなウェイトを占めてくるはずのものだからである。
 もちろん、経済性に難点があるなどの課題が依然として存在するが、太陽光も燃料電池も旧来では否定的だったコスト高の障害を乗り越えつつ実用化が現実になってきつつあるのであり、海洋エネルギー利用についても同様に、現状の制約に目を奪われることなく、中長期的視点が不可欠である。したがって、海洋ビジョン策定の上では、欠くべからざるものとして位置付けられる。これが本ビジョン調査で取り上げることにした理由でもある。








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