5. わが国の海運、造船、解撤界への提言
日本は長い間世界一の造船国として君臨し、世界有数の海運国であり、高い解撤技術をもっている。今後とも世界第一級の造船国、海運国および高い解撤技術を持つ国として、この解撤問題の高まりにイニシアティブを持って臨んでほしいとの期待を込めて、以下に私なりの提言をしてみたい。
1)造船設計の改善
造船界はリサイクルやリュースを考えた船舶の開発を目標に、「壊れ難くて、壊し易い」船の構造研究に大至急取り組むべきである。例えば、解体の際に切断したい箇所は、切断し易い単純な構造にしておくことである。ここで、「壊し易い」とは機械力を導入し易いことも意味する。
2)危険物リストの様式統一化
国際海運会議所(ICS)[1]シップリサイクリング作業部会では解体業者に渡すべき有害物質のリストを作成したが、今後関係者の意見をとり入れ改定していくことも考えているという。建造、修繕、改装などの時点では有害物質とされるものは普通使わないが、化学物質等は時代が変わると再評価されて有害物質になることもあるので、船を建造した側として造船界は正確なリストの作成に向けて積極的に協力するべきであろう。
3)解体技術の改善
日本の解撤業者は施設を整え、各種の装置や機械を持ち込み、能率の向上を図ってきたが、依然として伝統的な技術に頼っている部分も多く、まだ改善の余地がある。例えば、船を浮かべた状態で行う作業を減らして、陸上作業を増やすことである。陸上ならば高能率な機械力を導入し易いし、安全性も高まる。船舶の組み立てで長い間培ってきたロボット技術を解体ロボットの開発に向けるのは有望ではないか。
4)回収材の流通経路開発
回収される鋼材やエンジンなどの機器のリサイクルとリュースの市場の形成を、メーカーなどと協力して、世界規模で検討することも必要ではないか。屑鉄から鋼材を生産すれば鉱石から生産する場合と比べてエネルギーが1/3で済むので環境に優しい
(15)。屑鉄から普通鋼を生産する炉やシステムがもっと普及するよう技術開発を急いでしてほしい。日本舶用工業会は解体時に舶用機器から出る環境汚染について調査を開始したが
(16)、機器のリユース・マーケットについても一考を願いたい。
5)解撤資金預託制度
解撤の環境保全コストくらいは船主が負担する時代が間もなく来るであろう。船は随時国際間で売買されるが、老朽船の所有者となると経営基盤が弱いものも多く、この環境保全コストを支払えないこともありうる。然からば、建造段階で契約船価とは引き離して、当該船舶が将来どのような船主の手に渡っても、この者が解撤を希望した時点できちんとした解撤ヤードで処理できることを担保できる制度作りはできないものであろうか。海運界で運賃に対して課金するようなシステムなどを検討してはどうであろうか。さらに、そのシステムで解撤船価が安定し、秩序のある解撤が行えれば、船主と解撤業の双方に有益ではなかろうか。
6)解撤技術向上と技術認定制度
日本の有力な解撤業者は自主的にISO14001の取得を目指している。中国では政府が認可したヤードに解撤船の輸入を許可するほか、定期的にヤードを検査している。国際海運会議所の解撤作業部会で、ノルウェーは解撤ヤードに船級協会の認証を出す制度やヤードの設備の審査制度を提案した。地球に優しく安全な解撤を進めるためには、ヤードの設備と技術に対してスタンダードを設けて、何らかの認定制度を設ける必要があるだろう。その場面で日本は高い技術を背景に大いに指導力を発揮できるのではないだろうか。ほとんど解撤していない国からは非常に理想的な提案があることがままある。その場合には現実的な対応が必要になるが、技術力を背景に説得力のあるリーダーシップを発揮できるのは日本だけではあるまいか。