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周知資料No.4
船舶バラスト水による生物拡散防除対策として機械的手法によるプランクトン殺滅装置の開発
 
【背景および目的】
 有毒および赤潮原因プランクトン等の有害水生生物の地球規模での広域化が国際的な問題となっている。この広域化は、増養殖種苗の移植時における移動、船舶バラスト水に混入しての移動によって起こると考えられている。
 これら広域化要因のうち、船舶バラスト水に関しては、国際海事機構(IMO)で水生生物の移動防止に関する条約化作業が2003年を目標に進められている。しかし、移動防止効果に加え、環境への影響,船舶への適用および経済性等にも優れた実施可能な対策技術は、現在のところ見いだせていない。
 本研究は、実施可能なバラスト水処理技術、すなわち、船体の構造や艤装および運航スケジュールの大幅な改変をせずに実施でき、しかも、環境への影響がなく、低コストで運用できる技術の開発を目的として開始したものである。
 研究は、化学的処理,電気化学処理,熱処理などの様々な技術を対象に行った。現在は、バラストパイプに簡単な装置を設置するだけの機械的処理法が、目的の達成に最適な技術であると判断して開発を進めており、実用化の目途がつきつつある。
 今回は、これまでの研究で明らかになった機械的処理法の原理,プランクトンに対する効果について報告する。
 
【試験装置】
 機械的処理法の試験装置は、直径約50mmのパイプに、幅0.5mmのスリット型噴流ノズル13本を均一に配置した、厚さ6mmのステンレス鋼を直角に設置して作成した。
 
【実験方法】
 各種評価は、カイアシ類等の浮遊性甲殻類の損傷率を用いて行った。
 機械的処理法のプランクトン損傷原理は、噴流ノズル部で生じる剪断力とキャビテーションあるいは両方であると想定して行った。そして、剪断力だけが生じる条件(加圧)、キャビテーションが増幅する条件(減圧)、両者が共に生じる条件で実験し、損傷原理を特定した。また、噴流ノズル部の流速を約5m/sec〜約25m/secの範囲で変化させて損傷効果を求めた。
 実験は、自然海水を1m3の貯水槽に汲み上げ、充分に攪拌した後に、プランジャーポンプで送水して試験装置を通水(1pass)する方法で行った。浮遊性甲殻類の損傷率は、通水中におけるバルブの操作で、試験装置通過前にコントロールサンプル、通過後に処理後サンプルを採水し、両サンプルに含まれる正常な形態の浮遊性甲殻類数を基に次の式で算出した。
 (コントロール中の正常形態個体数―処理後の正常形態個体数)/(コントロール中の正常形態個体数)×100=損傷率(%)また、実験は基本的に3回繰り返し、同時に、試験装置上下流の管内圧力,下流側のビデオ映像,音圧スペクトル等についても観測した。
 
【結果及び考察】
 機械的処理法の原理に関しては、試験装置下流部のバルブの操作で管内を加圧してキャビテーションの発生を抑え剪断力だけが作用する条件下において損傷率が最も高く、次いで剪断力とキャビテーションが共に作用する条件下で高く、試験装置をつり上げて減圧しキャビテーションを増幅させた条件下においては、剪断力とキャビテーションが共に作用する条件下と同等あるいはやや下回る損傷率となった(図1)。この結果、当試験装置における機械的処理法の損傷原理は、剪断力によるものであることが明らかになり、キャビテーションの発生そのものは、損傷効果に影響を与えないと考えられた。
 また、噴流ノズル部流速が約25m/secで、約90%の損傷率が得られた。僅か1回の通水でこの高い損傷率が得られたこと、およびこの時の装置前後の圧力損失が約30mAqとそれ程大きくないことから、多くの船舶に適用できる可能性が広がったと考えられる。
 以上、プランクトンの機械的処理法は、船舶バラスト水の処理技術として実用化が充分に期待できると考える。なお、この技術の簡易性や経済性および環境への安全性は、赤潮対策等にも応用できる可能性を秘めていると考えられる。
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図1 機械的処理法の原理要素および噴流ノズル部流速と浮遊性甲殻類損傷率との関係
 
【謝辞】
 実験方法および効果の評価に関して、愛国大学徳田拡士教授、東洋大学加藤洋冶教授、東京大学福代康夫助教授に多大なるご指導を頂いた。また、本研究は、日本財団の補助を受けて実施した。ここに謝意を表します。








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