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4.6 流速変化実験
(1) 実験方法
 噴流を発生させるノズル(試験片)は、図II.4.6-1のように、厚さ6mm、直径49.5mmのステンレス製の板に、幅0.5mmのスリット状の隙間を均一に11本開け(総面積227.4mm2)たものを用いた。

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図II.4.6-1 流速変化実験で用いた試験片

 実験した流速は、ノズル部(スリット)の噴流流速(以下、スリット部流速)で、約5m/sec、約12m/sec、約19m/sec、約26m/secの4ケースである。なお、流速は、計測値ではなく、一定量のバケツ満水時間の計測に基づく流量から次の式で求めた計算値である。
 
 スリット部流速計算式
   スリット部流速=計測流量/スリット状隙間の総面積(227.4mm2)
 
 実験は、次の手順で行った。
[1]貯水タンクに自然海水約1m3を採水
[2]プランジャーポンプを起動し、スリット部流速が実験流速で一定になるまで流量を調節
[3]切替弁を開きコントロールサンプル(20L)を採水
[4]切替弁と閉め処理後サンプル(20L)を採水
[5]「[3]と[4]」の操作を計3回行い、コントロールと処理後それぞれの3サンプルを採水
[6]採水した各サンプルを開口径20μmのステンレス製メッシュを用いてろ過し、サンプルを濃縮
[7]メッシュ上に残ったプランクトン等をビーカーに移行
[8]ビーカー内の海水容量を定容して、自然海水1L分をシャーレに移し、実体顕微鏡で浮遊性甲殻類の種類と状況(正常、損傷等)別の個体数を計数
 
 各実験時には、試験片前後で歪みゲージ圧力計を用いて管内壁の静圧を計測し、水中カメラを用いてキャビテーション発生状況を観察した。また、水中マクロフォンで音を計測し、キャビテーション発生状況の参考とした。
 なお、本報告書における圧力の表示は、水頭表示を用いている。Paと水頭表示(mAq)との関係は、次の通りである。
 
 Paと水頭表示(mAq)との関係
   10mAq=0.98*105Pa=1kg/cm2
 
 圧損(mAq)は、圧損(mAq)=試験片上流圧力(mAq)―試験片下流圧力(mAq)で算出した。
 図II.4.6-2には、圧力等の観測システムを示した。
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図II.4.6-2 圧力等の観測システム
 
(2) 実験結果
 写真II.4.6-1には、各流速時の試験片下流側の状況を示す。スリット部流速約26m/secでは、下流側は白色化し、キャビテーションが発生していると考えられた。この白色化現象は、流速が低下すると共に小さくなり、約12m/secではごく僅かになる。
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流速:約12m/sec
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流速:約19m/sec
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流速:約26m/sec
写真II.4.6-1 各流速時の試験片下流側の状況

 図II.4.6-3には、音圧スペクトル計測結果を示した。各流速ケース共に、数kHz〜20kHzの周波数帯において音圧スペクトルの強さ(Pa)が増しており、また、流速が速いほど増加は顕著になっている。この音圧スペクトルの状況は、白色化現象の程度と共に、流速12m/secからキャビテーションが発生し、流速が速いほど発生量が多いことを示していると考えられる。
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図II.4.6-3 流速変化実験における音圧スペクトル計測結果

 図II.4.6-4には、スリット部流速と圧損の関係を示した。圧損は、流速5m/secでは微少であったが、その後流速増加と共に上昇した。両者の関係は、スリット部流速の2乗とほぼ比例関係にあり、配管などの一般的な関係と同じであった。
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図II.4.6-4 流速変化実験におけるスリット部流速と圧損の関係

 図II.4.6-5には、各スリット部流速における浮遊性甲殻類の変化、図II.4.6-6には、スリット部流速と浮遊性甲殻類損傷率との関係、図II.4.6-7には、圧損と損傷率との関係を示した。なお、圧損がほとんど生じなかったスリット部流速5m/secでは、浮遊性甲殻類の損傷は認められなかった。
 スリット部流速12.3m/sec以上の処理では、個体数全体が減少している。これは、処理することによって粉砕される個体があることを表している。また、正常個体が減少し、運動停止及び体の一部が破損する個体が増えている。これら処理による効果は、個体が大きいほど顕著に表れ、流速が18.7m/sec、25.7m/secと速くなるなるほど大きくなっている。
 浮遊性甲殻類全体(甲殻類合計)に対する効果を3回の実験の平均損傷率でみると、スリット部流速12.3m/secでは約20%、18.7m/secでは約60%、25.7m/secでは約90%となっている。
 圧損と平均損傷率との関係は、約15mAqで約60%、約30mAqで約90%であり、圧損が大きいほど効果は高くなるが、圧損が2倍になっても損傷率は1.5倍の増加にとどまっており、損傷率÷圧損の数値は15mAq(流速12.3m/sec)の方が大きい。 
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図II.4.6-5 流速変化実験の各スリット部流速における浮遊性甲殻類の変化








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