2.機械的殺傷法の有用性検証
2001年では、バラスト水管理方策に関する次の2つの国際会議が開催された。バラスト水処理技術に関する最新情報は、これら国際会議で発表報告されていると考えることができ、他国で開発中の処理技術内容は、会議の講演要旨集、論文集等の資料を基に整理した。
表II.2-1には、各処理技術の特徴を後述する本調査研究による機械的殺滅法の特徴と共に示した。なお、表中の記載内容は、原資料中の表現を和訳したものである。
<2001年に開催されたバラスト水管理方策に関する国際会議>
[1] 1st International Ballast Water Treatment R&D Symposium, and 1st International Ballast Water Treatment Standards Workshop
主催:GEF,UNDP,IMOの共同プロジェクトであるGloBallast
日時:2001年3月26〜30日
場所:英国,ロンドン,IMO
参加国状況:26カ国,173名(Workshopは、内68名)
[2] First International Conference on Ballast Water Management
主催:Environmental Technology Institute(ETI,シンガポール)
日時:2001年11月1・2日
場所:シンガポール
参加国状況:20カ国,123人
開発中の処理技術は、ろ過法、熱処理法、紫外線法、オゾン法、無酸素処理法、ガス飽和法、電気化学法、化学処理法の単独処理技術と、ろ過法あるいは遠心分離法と紫外線法を組み合わせた複合処理技術、それに本調査対象の機械的殺滅法の10技術にまとめられる。
以下には、各技術の効果および実用性等について述べる。
[1] ろ過法
フィルターの目合い以上の水生生物を除去する。フィルターの自動洗浄能力が処理能力や装置の大きさおよびコスト等の実用性を大きく左右すると考えられるが、処理能力に関しては、シンガポールの提案では10,000トン/hrが可能であるとされている。なお、原理から考えて、フィルター目合いより小さな水生生物に対する効果は期待できない。
[2] 熱処理法
エンジンの廃熱やボイラーを使ってバラスト水を加熱する方法である。殺滅効果が得られる処理温度については様々であるが、多くの水生生物を殺滅するには、かなり高温にする必要があると思われる。処理量やコストおよび装置の大きさに関しては、漲水するバラスト水の水温と航路海域の水温に大きく左右されると考えられ、低温の場合には、処理量が低下すると共に、大きな装置と多大なるコストが必要になると考えられる。
[3] 紫外線法
紫外線で水生生物を殺滅および不活性化する方法である。ただし、紫外線単独の方法では、大型の水生生物に対して効果を発揮するのが難しく、ろ過法等との組み合わせが必要なようである。また、処理量やコスト面等の実用性に関する課題も多いと思われる。
[4] オゾン法
オゾンの水生生物殺滅能力を活用する方法であるが、現在、初期研究段階のようである。
[5] 無酸素処理法
効果は、動物性の水生生物に限られる。また、処理量が72トン/hrと少ないのもバラスト水処理技術としては実用性の面で難しいと考えられる。
[6] ガス飽和法
動物性の水生生物に対する効果が確認されているが、現在、初期研究段階のようである。
[7] 電気化学法
海水に通電することで、酸化物質等を生成して水生生物を殺滅不活性化する方法である。ただし、ろ過法等の前処理を実施しないと効果および処理量の低下を招くと考えられ、現時点での処理量も約150トン/hrと少ない。
[8] 化学処理法
2種類の化学薬品が提案されている。効果は高くほとんどの水生生物をほぼ100%殺滅あるいは不活性化することが可能であり、薬品の購入コストも比較的安価である。ただし、提案者は環境に対して安全であるとしているが、二次汚染への不安は拭えない。
[9] ろ過法あるいは遠心分離法と紫外線法を組み合わせた複合処理法
ろ過あるいは遠心分離法で大型の水生生物を除去し、紫外線法で小型の水生生物を殺滅・不活性化する方法である。米国、カナダ、ノルウェーが開発中の技術で、一部実船での実験も行われている。処理量は、300・400トン/hrから最大3000トン/hrが可能とされているが、コストはかなりのレベルにあるようである。
[10] 機械的殺滅法
本事業で開発中の方法である。現時点での効果は、浮遊性甲殻類の90%を破壊・殺滅するところまで確認している。植物プランクトンや他の動物性水生生物に対しては、同様のメカニズムであるミキサーパイプ法で同等の効果が得られていることから、本処理法においても同等の効果が期待できる。また、改良することによって、さらに効果を向上することも可能である。
本処理法の最大の特徴は、単純な構造であることから、実船での運用や船舶の搭載が簡単なことである。既存船に適用する場合にはポンプを増設する必要があるものの、装置も安価で運用コストがほとんど必要無い。また、構造と原理から考えて、現存船舶の最大クラスである数千トン/hrの処理量が可能な点も大きな特徴である。なお、実施による環境影響も起こさない。
なお、Peilin Zhou et. al(2001)は、リバラスト、遠心分離と化学処理、ろ過法と紫外線、熱処理に関する経済性の比較を行っている。表II.2-2には、その結果を示した。
それによると、リバラスト以外の処理技術は、装置設置に係わるコストだけでUS$375,292〜US$869,429とかなり高額である。これに対して、機械的殺滅法の装置設置コストは、表II.2-2と同じ条件で計算すると、多く見積もってもUS$100,000〜US$50,000程度であり、また、基本的にはメンテナンスコストが必要ないことから、経済性の面で優れている方法であると評価できる。
以上、本事業で開発中の機械的殺滅法をはじめ、他国で開発中のバラスト水処理技術に関する最新情報を基に、それらの特徴をとりまとめた。その結果、限られた情報ではあるものの、機械的殺滅法は、実用性に関連する運用性、船舶搭載性、処理量、経済性、環境影響の面で他の処理技術の最高水準にあると考えられる。また、効果面では、改良要素が明らかになっていることから、さらに向上させることが充分に可能である。よって、機械的殺滅法は、バラスト水処理技術として実用性が高いと考えられる。
表II.2-2 バラスト水処理技術の経済性分析結果
|
System 1 |
System 2 |
System 3 |
System 4 |
Exchange |
Cyclonic & Chemical |
Filtration & UV |
Thermal |
Installation Cost |
0 |
656,089 |
375,292 |
869,429 |
PV of Life Cycle Cost |
191,178 |
4,193,193 |
410,616 |
1,737,632 |
Ballast per ship life (m3) |
27,500,000 |
27,500,000 |
260,000 |
29,500,000 |
Average Annual Cost |
12,850 |
427,086 |
41,822 |
176,982 |
Ballast per year |
1,375,000 |
1,375,000 |
13,000 |
1,475,000 |
$/m3 of Ballast Treated |
.01 |
0.31 |
3.22 |
0.12 |
引用:Dr.Peilin Zhou(2001):A Comparison of Life cycle Costs for Alternative Ballast Water Treatment Systems, Proceedings of the First International Conference on Ballast Water Management
表II.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(1)
(拡大画面: 137 KB)
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
表II.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(2)
(拡大画面: 173 KB)
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
表II.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(3)
(拡大画面: 136 KB)
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
表II.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(4)
(拡大画面: 302 KB)
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
表II.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(5)
(拡大画面: 91 KB)
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。