日本財団 図書館


第2章 調査研究の内容
 
第1節 第74回 海上安全委員会(MSC)の審議概要
 
1. 日程
(1)対処方針会議  5月29日(火)(在連合王国日本国大使館会議室)
(2)MSC74  5月30日(水)09:30 〜 6月8日(金)17:30
 
2. 開催場所
 国際海事機関 本部
 
3. 参加国等
(1) 議長: Mr. T. Allan(英国)
(2) 参加国: 96カ国(香港中国及び澳門中国を含む)及び42機関
(3) 日本側参加者: 25名
 ◎:本委員会所属者の出席者 ○:英国からの出席者
在連合王国日本国大使館参事官 奈良平 博史(運輸担当)
在連合王国日本国大使館一等書記官 石原 彰  (運輸担当)
  国土交通省海事局安全基準課長 矢萩 強志
  国土交通省海事局外航課長 瀧口 敬二
  国土交通省海事局船員部船舶職員課  
  海技資格制度対策室長           塩川 正房
  国土交通省海事局安全基準課専門官 山田 浩之
  水産庁海洋技術室漁船国際専門官 溝部 隆一
  国土交通省総合政策局国際企画課専門官 米山 茂
海上保安庁警備救難部航行安全課補佐官 内山 正人
  海上保安庁警備救難部国際刑事課捜査第二係長 中村 信久
  海上技術安全研究所装備部荷役輸送研究室長 太田 進
(社)日本造船研究協会 篠村 義夫
  (社)日本造船研究協会 岡村 敏
  (社)日本造船研究協会 高尾 陽介
  (社)日本造船研究協会 板倉 輝幸
  (社)日本船舶品質管理協会
 
          船舶艤装品研究所主任研究員 吉田 公一
  (財)日本海事協会開発部主管 馬飼野 淳
  (財)日本海事協会研究センター
 
          技術研究所研究員 有馬 俊朗
  (社)日本造船工業会 林  和男
  (社)日本海技協会専務理事 佐野 修
  (社)日本海技協会国際業務室長 生駒 新一
(社)日本船主協会常務理事欧州地区事務局長 赤塚 宏一
  (社)日本海難防止協会
 
          シンガポール連絡事務所所長代理 中村 博通
(社)日本海難防止協会ロンドン連絡事務所長 徳永 重典
(社)日本海難防止協会企画国際部主任研究員 池嵜 哲朗
 
4. 議題
(1) 議題の採択
(2) 他のIMO機関の決定
(3) 強制要件の改正に係る検討及び採択
(4) 巨大旅客船の安全性
(5) ばら積み貨物船の安全性
(6) 改正STCW条約の実施
(7) 訓練及び当直
(8) SLF43からの報告
(9) COMSAR5からの報告
(10) FP44からの報告
(11) BLG6からの報告
(12) FS19からの報告
(13) DE44からの報告
(14) 海事安全における技術援助プログラム
(15) 人的要因
(16) 総合安全評価(FSA)
(17) 海賊及び船舶に対する武装強奪
(18) 条約の解釈及び関連事項
(19) 他の機関の決定
(20) 委員会のガイドラインの決定
(21) 作業計画
(22) 2002年の議長及び副議長の選出
(23) その他の議題
 
5. 審議内容
 
(1) 議題の採択(議題1関連)
 会議に先立ち、IMO事務局長オニール氏より開会の挨拶が述べられ、続いて、今次会合において審議される各議題の説明が行われた。
 デンマーク沖で起きた2件の海難事故についてデンマークから報告があった。2件ともタンカーの衝突/座礁事故であったが、ダブルハル構造であったことが幸いし、油汚染がなかったことからダブルハルの有用性が述べられた。また、この水域を航行する場合はパイロットを乗せることを強く推奨する旨発言があった。この発言に対し、この水域の沿岸国であるドイツ、スウェーデンから同意が表明された。
 
(2) 他のIMO機関の決定(議題2関連)− 避難海域
[1] MSC74/2/2(事務局)の関連部分、MSC742/3/Add.1(事務局)、MSC74/2/4及びAdd.1(スペイン)、MSC74/2/5(ICS)、MSC74/2/6(INTERTANKO)並びにMSC74/2/7(独)の説明が行われた後、次の代表的意見を含め、本件検討の取扱いにつき合計38カ国が一般意見を述べた。
(イ) ブラジルは、総論として本件検討を支持するが、港(Port)については沿岸国の主権問題と絡む問題であり、強制的義務を沿岸国に課すことはできない、危険な状態における対応の優先順位は乗員の安全と環境の保全であり、船体そのものの保全は次の段階のことであると主張し、南ア及びアルゼンチンがこれを支持した。この他、フィリピン及びトルコは、沿岸国主権との関係上慎重な検討を必要とすると指摘した。
(ロ) ギリシャは、どのような場所が必要か、どのような施設・設備が必要か等の一般的ガイドラインを策定することが望ましく、その意味で独提案を支持できると指摘した。また、ガイドライン策定については、米、リベリア、キプロス、韓国、スウェーデン、香港、マルタ、カナダ等多数の国が支持した。
(ハ) 中国は、本件の議論の第1歩としてICS提案を支持した。
(ニ) ガイドラインに関し、米国はケースバイケースで種々の対応策を講じる必要があるところ、避難海域を設定しておらず、対応は意思決定手続きに従って行うとの自国対応を紹介しつつ、IMOの場においても種々の要素(海域特性、気象・海象特性、環境危険評価等)を考慮した意思決定に資するガイドラインを策定することが妥当との見解を示し、リベリアがこれを支持した。また、キプロスは、本件に内在する法的問題について法律セクションの見解を求めるとともに、推奨的性格(recommendable)のガイドラインとして、(i)避難海域を指定するためのガイドライン、(ii)損害評価のためのガイドラインを策定することが妥当と主張し、香港、パナマ、マルタがこれを支持した。
(ホ) かかるガイドラインについての検討は、人命救助の他、通航を含め広い意味で航行の安全に関する事項であるところ、本年7月開催の航行安全小委員会(NAV)にて行うことが妥当との見解が大勢を占めた。
(へ) 避難海域の用語については、Port of refuge、Places of refuge、Places of heaven、Shelter waters、Safe heavenの候補が上ったが、Places of refugeを支持する国が大勢を占めた。
 
[2] 以上の議論を踏まえ、議長は次のとおり取りまとめを行った。
(イ) 本件のタイトルを一応支持の多かった“Places of refuge”とする。
(ロ) 国連海洋法条約及び適切な措置を講じるための沿岸国権限に関する法的問題点が認識され、また、人命救助の他海洋環境への配慮の重要性が認識されているが、何れにしても本件検討の優先度の高さについては合意が得られた。
(ハ) 特定の状況下においては、地域協力を考慮するとともに、対応に際する近隣国への影響を考慮する必要がある。
(ニ) 手続き上変則的ではあるがと前置きしつつ、調整小委員会(Coordinator)としてのNAV47に次の検討を指示する。
(a) 例えばCOMSAR、海洋環境保護委員会(MEPC)のOPRC-WG、及びSPI(Ship and Port Interface)WG等、本件検討の協力主体を明確にし、当該主体での検討事項を策定する。
(b) MEPC46における議論を考慮しつつ、次回MSC75及びMEPC47での検討事項を策定する。
(c) NAV47の検討結果は直接協力小委員会に報告する。
(d) MSC75での検討を踏まえ承認される(ii)につき、NAV48における検討を指示するとともに、その結果をMSC76に報告させる。
(e) NAVでは、“Guideline for Coastal-States providing places of refuge to ships in distress”(船舶が遭難状態にある場合における避難水域提供に関する沿岸国のためのガイドライン)、“Guideline for evaluation of risks on case by case basis” (事例別危険評価に関するガイドライン)の検討を行い、可能であれば “Guideline for actions for masters of ships in distress”(船舶が遭難状態にある場合における当該船舶船長の取るべき行動に関するガイドライン)についても検討を行う。なお、第3のガイドラインは、遭難状態にある船舶船長、近隣船舶船長、サルベージ実行者及び沿岸国の行動を含むものとする。
(f) MEPCにおいては、OPRC-WGで検討が行われるので、その結果はMSCにフィードバックを要請する。
(g) 法律委員会には、保険、ボンド、関連国際法、沿岸国権限、責任、避難水域における管轄権等の指摘された問題点につき検討されるようインプットする。
 
[3] [2]の議長取りまとめは異論なく了承され、最後に事務局長は、速やかに検討がなされたことにつき謝辞を述べるとともに、個人的意見と前置きしつつ、沿岸国主権との問題は技術的、政治的に困難な問題を含んでいると認識しているところ、かかるガイドラインは強制的なものではなくボランタリーベースで進めて行くことが適切な方法であるとの見解を述べた。
 
(3) COMSAR5からの報告(議題9関連)
[1]  国際NAVTEX業務のCOMSAR回章(MSC74/9)
 国際NAVTEX業務に係るCOMSAR/Circ.28の発行について、特段の意見なく承認され、またこのIHOに提出される小委員会の決定がノートされた。
 
[2]  AVTEXと国際セイフティマニュアル(MSC74/9)
 NAVTEXと国際セイフティマニュアルのIMOインターネット上での利用について、特段の意見なく合意された。
 
[3]  NAVARIAのコーディネイターリスト(MSC74/9)
 NAVARIAのコーディネイターリストに係るCOMSAR/Circ.24の発行について、特段の意見なく小委員会の行動が支持された。
 
[4]  IMO/IHO/WHOマニュアルの改正(MSC74/9)
 MSI(海上安全情報)に関するIMO/IHO/WHO合同マニュアルの改正について、特段の意見なく承認され、事務局に対して改正した同マニュアルを、IMOの刊行物として発行することが指示された。
 
[5]  DSC遭難警報への応答手順(MSC74/9)
 DSC遭難警報への応答手順に係るCOMSAR/Circ.25の発行について、特段の意見なく小委員会の対応が支持された。
 
[6]  SOLAS条約第IV章の改正(MSC74/9、MSC74/9/5)
 VHF16chの聴取義務期日の延長について、現状においては、小型船をはじめとする多数の非GMDSS船の安全を確保するため、なお聴取義務を必要とする意見が仏、米その他から出され、大勢を占めたが、SOLAS条約IV/12.3の改正案とMSC69での決定事項(MSC.77(69))の不一致を指摘し、その調整を提案する蘭及びデンマークの提案(MSC74/9/5)については、加、ノルウェー、バハマ、我が国等が現改正案を支持し、他方、米国、シンガポール、ギリシャ、フィンランド、韓国等は更に十分な検討が必要である旨発言したところ、結果として次回COMSAR6において、船橋間通信の問題と合わせて本件改正問題を検討し、次回MSC75に報告することとされた。
 
[7]  モービルサテライトシステム(MSC74/9)
 GMDSSモービルサテライトシステムのためのナンバリング計画等を含む同運用及びサービスに係るCOMSAR/Circ.26の発行について、特段の意見なく小委員会の対応が支持された。
 
[8]  レーダーの周波数低減(MSC74/9)
 船舶の航海用レーダーに広く使用されている周波数帯の低減の可能性に関する小委員会の検討について、ノートされるとともに、NAV小委員会に対して本件を協力して再検討するよう指示された。更に、メンバー国に対し、本調査の結果を持ち帰り、ITU関連会議における検討と対応に資するよう指示された。
 
[9]  WRC(世界無線通信会議)-2000(MSC74/9)
 WRO-2000の結果について、分析し、評価するために、ITU問題に関するコレスポンデンスグループを設置することについて、特段の意見なくノートされた。
 
[10] 決議A.810(19)の改正(MSC74/9)
 決議A.886(21)に従って、提案されたMSC決議A.810(19)(406MHz衛星EPIRBの性能基準)の改正案について、特段の意見なく採択された。
 
[11] 誤警報の防止(MSC74/9)
 誤警報防止のための管理、報告システム開発を目的としたコレスポンデンスグループが設立され、次回COMSAR6において報告されることについて、特段の意見なくノートされた。また、議題21の作業計画において、COMSAR小委員会の誤警報の防止に関する作業項目の完了年次を、2002年まで延長することが決定された。
 
[12] MRO(大量救助運用)(MSC74/9)
 航空と海上の捜索救助(SAR)の調和を検討するICAO/IMO合同ワーキンググループが、MROに関して検討していることが大型旅客船の安全性のワーキンググループに対して情報提供された。
 
[13] IAMSARマニュアル第3巻の搭載義務化(MSC74/9)
 IAMSARマニュアル第3巻の搭載を義務づけるSOLAS条約第V章21規則の改正案について、特段の意見なく承認され、次回MSC75での採択のため、SOLAS条約第VIII条項に従って回章に付されることが要求された。
 なお、ISAF(International Sailing Federation)は、特にIMO/ICAO合同ワーキンググループで検討される非条約船の使用のために適当なIAMSARマニュアル第3巻の開発、特に使用言語、価格に配慮が必要であることを提案し、ノートされた。
 また、事務局からは、同マニュアルの価格について、第3巻は20ポンドであり、第1巻18ポンド、第2巻45ポンドを予定しているとの紹介があった。
 
[14] IAMSARマニュアルの改正(MSC74/9)
 IAMSARマニュアルの改正の提案を採択し、関連するMSCサーキュラー等を承認することについて、特段の意見なくそれぞれ採択、承認された。これにより本改正は、2001年7月1日をもって発行することとなった。
 
[15] SAR.2及びSAR.3サーキュラーの更新(MSC74/9)
 SAR.2及びSAR.3サーキュラーのデータを統合し、その新たに統合されたSAR.2及びSAR.3サーキュラーのためのデータ様式として、COMSAR/Circ.27を発行することについて、特段の意見なく小委員会の対応が支持された。
 
[16] SOLAS規則と客船のSAR協力計画(MSC74/9、MSC74/9/2)
 SOLAS規則と客船のSAR協力計画のガイドライン改定に係る英国提案(MSC74/9/2)について、次の点で合意した。
(イ) ガイドライン案を索引と索引のための必要な交信情報に関する項目を含んだものに修正する。
(ロ) メンバー国に対して、提案した追加項目で示すよう索引登録を行うとともに、それらの更新を確実に行うことを求める。
(ハ) ユーザーに対して、特定の船舶のSARデータプロバイダーに関する詳細情報をインターネットにより入手する。
 小委員会の報告に対し、委員会はキプロス、スペイン、ICCL、英国の意見を取り入れて、MSC/Circ.864を修正したMSCサーキュラーを採択することで合意した。
 また、キプロスの提案に基づき、次の事項を緊急の案件として作成指示した。
(ニ) SDPs(SARデータプロバイダー)が、SAR協力計画を常時迅速確実に行えるよう、船主及びMRCCs(海難救助調整本部)のために保有する情報の最低要件
(ホ) 運航者及びMRCCsのため、SDPsが保有する情報をどのようにして更新するかのガイドライン
 
[17] Ro-Ro旅客船の医療品(MSC74/9)
 ILO及びWHOと調整してある一定のRo-Ro旅客船のために医療品リストを作成することを事務局に対して指示する小委員会の対応について、特段の意見なく支持された。
 また、これに関連し、医師を含む関係者からなるコレスポンデンスグループを設立することについて、特段の意見なくノートされた。
 
[18] 2000年フローレンス会議の結果(MSC74/9、MSC74/9/1、MSC74/9/4)
 2000年フローレンス会議の5決議に関する小委員会の報告が行われた。
 アフリカのモロッコからソマリアにかけて5つのMRCCsを配置し、アフリカ沿岸の水域をカバーするとする決議1に関連して、スペインが自国のSAR活動の状況について報告し、アフリカ北西岸における2国間のSARに関する取決めの促進等を提案(MSC74/9/1)し、ノートされた。
 SAR基金の設立に係る決議2については、小委員会の報告がノートされたが、委員会においても、現時点でこの検討を完了するのは時期尚早であるとの合意に達した。
 決議3(SARとGMDSSに関する技術的な協力)と決議4(大西洋とインド洋に係るアフリカ水域でのGMDSSの実施)については、特段の意見なくノートされた。
 決議5(全世界的SAR計画完成のためのタシット方式導入)に関して、事務局がIMO法律部門の意見としてタシット方式及び他方式の採用にかかる見解の提出(MSC74/9/4)がなされ、これにより議論が行われた。ギリシャは、このようなタシット方式の導入はSAR条約の実施上の法原則に基づかないものであるとタシット方式導入に反対し、これを中国、キプロス、フィリピン、トルコがこれを支持した。以後この問題を巡って議論が進行しなくなったため、適切な全世界的SARサービス提供の運用面に焦点をおいて検討がなされた。前記各国の他、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、フィンランド等討論に参加した代表の多くが、タシット方式は法律上に現実的ではないとの見方を支持し、また事務局提案の第3の意見である、全世界的なSARサービス提供のための運用上暫定的な国際海上SAR計画の確立を目指して、総会決議案を作成するという考えを支持した。これによりドラフティンググループが設置、総会決議案が起草され、同決議案が承認された。
 
[19] 避難水域の検討(MSC74/9)
 避難水域の問題については、議題2(他のIMO機関の決定)において検討することとされた。
 
[20] SMCPs(標準海事通信用語)の改正(MSC74/9)
 SMCPsの改正については、議題23(その他の議題)において検討することとされた。
 
[21]氷海航行船舶の無線通信設備(MSC74/9)
 北極の氷海を航行する船舶に求められるSOLAS条約第IV章の無線通信設備に関し、DE44の報告を踏まえた小委員会の意見として、現行に基準で十分とする報告が行われ、特段の意見なくノートされた。なお、これにより本項目については以後の作業計画から削除されることとなった。
 
[22] ICAO/IMO合同ワーキンググループ(MSC74/9)
 2001年8月にカナダのモントリオールで開催が予定されている航空と海上のSAR協力体制に関する第8回ICAO/IMO合同ワーキンググループを招集することについて、特段の意見なく承認された。
 
[23] 海上におけるVHF帯の適切な使用(MSC74/9/3)
 オランダの提案に対し、特段の意見なく、本件はNAV及びSTWの両小委員会と協力し、次回COMSAR6において検討されることとなった。
 
(4) 海賊及び武装強盗(議題17関連)
[1] 海賊事件発生状況の報告
(イ)事務局からMSC74/17及びMSC74/17/Add.1に基づき海賊事件の発生状況につきとした以下の説明があった。
(a)2000年1月から12月の間に発生した海賊及び船舶に対する武装強盗件数は471件(72人死亡、129名負傷、2隻ハイジャック、3隻行方不明、1隻破壊)。1999年の同期間に比べ162件52%の増加を示している。
(b) IMOが海賊統計を取り始めた1984年から本年(2001年)5月末までに発生した海賊及び船舶に対する武装強盗の累計数は2,309件に上っている。
(c) 域別にみると、地中海では4件から2件、西アフリカでは36件から33件に減少しているものの、マラッカ海峡では37件から122件、南シナ海では136件から140件、インド洋では51件から109件、東アフリカでは16件から29件、南アメリカとカリブ海では29件から41件と増加している。
(d) ほとんどの事件が船舶の錨泊中又は停泊中に領海内で発生している。
(e)多くの報告において、ナイフや銃を持った5〜10人のグループに襲撃されている。
(f) 国内法及び国際法に従って沿岸国がとった行動に関する情報として、インド及びコロンビアから報告がなされている。
(ロ)事務局の説明を踏まえ議長は次のコメントを行った。
(a)昨年の海賊事件の劇的な増加、武装集団による襲撃態様は非常に憂慮すべきものである。特に多くの船員が殺傷されている現実について、各国の政府機関、海運界は海賊事件撲滅に高い関心をもって望むべきである。
(b)インドネシア籍船「INABKUWA」のハイジャック事件に関し、同船の発見に貢献したフィリピンに対して謝意を表したい。
(ハ)特記すべき各国のコメント
(a)インド
(i)インド洋では51件から109件に急増したが、検証した結果、その全部が乗組員の殺傷も伴わない「こそ泥」であった。従って、インド洋における海賊事件は「武装強盗(Armed robbery)」ではなく、「非武装こそ泥(Un-armed petty theft)」である。
(ii)インド当局は、付近を航行する船舶に警告を発するとともに、港湾における巡視警戒の増強、対応の迅速化に努めている。
(iii)ごく僅かな例ではあるが、被害を受けた船舶が当局へ遅滞なく報告したことから当局の捜査により犯人を逮捕、盗品が返却されている。また、乗組員の不正による虚偽報告である例も明らかにされている。
(iv)上記の「非武装こそ泥(Un-armed petty theft)」について、IMOによる海賊統計に含めることの是非についての検討を要請したい。
(b)インドネシア
(i)インドネシア政府は、海賊及び海上強盗事件が、乗組員の生命、海洋環境、沿岸国による海上治安維持に脅威となっていることを憂慮している。これらの犯罪を防止し駆逐するための基本的な法制度は構築されているものの、沿岸国と関係国の協力という観点において、未だ努力がなされていない。インドネシア内の危険海域は既に特定されており、地域間協力に基づく効果的な対策が急務となっている。
(ii)1997年、ASEANは海賊対策を含むアクションプランを決議し、情報の交換、治安機関間の協力等を推進するための体制を構築することとされた。マラッカ海峡でハイジャックされたインドネシア籍船「INABUKWA」がフィリピンで発見され海賊が逮捕されたのは、インドネシアとフィリピンの緊密な協力関係が功を奏したものである。
(iii)インドネシアは、近隣国との協力による情報交換体制、協力体制の構築を要請したい。地域間協力、国際的協力体制の構築は、海賊事犯の防止と撲滅に多大な貢献を果たすものと考えられる。
 
[2] 海賊対策評価ミッションの報告
(イ)事務局メトロポーリス海上安全部長からMSC74/17/1に基づき、前回会合MSC73で報告されたように、1998年から開始されたIMO海賊対策事業は、2000年3月、インドのムンバイ地域セミナーでその第1フェーズを完了したこと、海賊等が依然として多発し、航行安全、海洋環境の脅威となっていることに鑑み、IMOは予算を勘案しつつ第2フェーズを進めるとしたこと、並びに先ず海賊対策評価対策ミッションをインドネシアのジャカルタ及びシンガポールに派遣し、地域セミナーに参加した各国の対応状況、IMOガイドラインの履行状況、海賊の発生状況等の確認を行ったことを説明するとともに、本ミッションへの財政支援をした日本、ギリシャ、オランダ、ノルウェー、英国、ITFに感謝を述べた。
 第2フェーズの事業としては、今後、中南米及び西中央アフリカへ評価ミッションを派遣する予定である。
(ロ)委員会は、評価ミッションの同報告をノートするとともに、以下の事項につき合意した。
(a)海賊の実態をより正確に把握することが必要であるため、事件の報告には「海賊」と「武装強盗」であることの区別、「既遂」「未遂」の区別を明確にすることが必要であるということに合意したこと(事務局に対して今後の統計作成上踏まえることが指示された。)。
(b)旗国に対して、合意した様式により事件を報告すること、及び沿岸国に対して領海内で発生した事件への対応について報告することを要請すること。
(c)海運界に対して、事件を沿岸国、旗国へ報告することを要請すること。
(d)沿岸国に対して、海賊及び武装強盗を扱う国内法の整備を要請すること。
(ハ)特記すべきコメントは次の通り。
(a) ブラジルは、海賊の正確な定義をする必要があり、また未だ海賊の実態が正確に把握されていない段階での決議は有効活用されず、IMOが決議した他の事項の信頼性さえ失わせるところ、現時点において「海賊捜査コード」を決議する時期ではないと強調した。
(b) 韓国は、海賊情報交換、沿岸警備活動の地域間協力に賛成するとともに、有効な対応のため海賊対策を所掌する政府当局を明確にすべきであると述べた。
(c) シンガポールは、正確な海賊統計が必要であるので、IMO及びIMBによる海賊の再定義の検討を求めるとともに、日本の海賊対策への協力に謝辞を述べた。
(d) フィリピンは、CMI(Committee of Maritime International)が海賊対策法のモデルを作成していることに触れ、国内法未整備国に対する指針としてIMOの地域間会合等において検討することが望ましいと指摘するとともに、インドネシア籍船「INABKUWA」の発見について、適切な情報提供をしたIMBに対して謝辞を述べた。
(e) インドネシアは、正確な海賊統計が必要であること、現在使用されている海賊の再定義が必要であることを指摘するとともに、情報交換には、必要な施設等の基盤整備が必要であることを強調し、人材養成、技術協力の支援を要請した。
(f) ICC(IMB)は、海賊統計については既に多くのカテゴリーに分類して発表しており、海賊未遂事件を統計から削除すべきという意見もあるが、当該事件を含める事は付近航行船舶の警戒強化による海賊襲撃防止対策として有効な手段の一つであること、並びに海賊の再定義による海賊事件数の潜在化は避けるべきであることを指摘した。
 
[3] ICS、ISFからの提案(MSC74/17/2)
 ICSからMSC74/17/2につき説明が行われた後、ブラジルは「海賊による危険な港湾、海域の特定」につき強い不快感を示し、海賊事件情報の信用性、通報先に問題があり危険港の特定が正確でないこと、さらに自国に通じない他の組織が危険港として指摘することの不適切性を強調した。
 さらに、ケニア、メキシコは、実際に海賊が多発している海域についての誤認識があるとして、危険港の指摘には正確な統計情報を根拠にすべきと主張した。
 英国は「海賊捜査コード」の内容は前回MSC73で既に決定されていることを踏まえ、原案での総会決議を優先すべきとの意見を述べ、ドイツ、インド、ICS、バルベダス、キプロスがこれを支持した。
 議長は、「海賊捜査コード」は前回MSC73で決定されたものではあるが、先日行われたシンガポール、インドネシアへのIMO海賊対策評価ミッションの結果等を踏まえ、「責任を有する政府に対して、海賊及び武装強盗についての船舶に対する特別なアドバイスをIMOへ報告することを要請する」旨の一部追加する案を示し、これをフランス、ポーランド、リベリア、ギリシャ、フィリピン、シンガポールが支持したところ、前回会合で合意したものに前述の議長の修正提案を含めたコード案が採択され、第22回総会(本年11月開催)において決議されることとなった。
 
[4] 国連(UNICPOLOS)関連
 事務局より、2001年5月7日から11日にかけて、ニューヨークにおいて開催された「UNICPOLOS」会合につき紹介が行われたところ、概要は次のとおり。
(イ) 国連総会は、各国に対して海賊及び武装強盗の防止、撲滅を図るため、適切な国際機関等と協力することを求める。
(ロ) IMOは、STCW条約の下、乗組員に対する海賊及び武装強盗に対する警戒訓練について検討すべきである。
(ハ) 船舶登録の適正化が、海賊事件等に関与している船舶の発見に有効であることを踏まえ、IMOはその実行手段を検討すべきである。
(ニ) 国連総会は、各国に対してローマ条約の批准、武装強盗を訴追するための適切な法体制の整備を求める。
(ホ) 効果的な海賊対策を実行するためには、地域間の協力が必要不可欠である。IMO他各国が地域間協力のイニシアティブを取ることが望ましい。
(ヘ) 船舶所有者、乗組員は海賊事件を適切な当局及び旗国を通じてIMOへ通報することが推奨される。
(ト) IMOは「海賊捜査コード」を可及的速やかにファイナライズすべきである。
(チ) 海賊及び武装強盗事件が多く発生している沿岸国は、適切な緊急対応計画を策定すべきである。
 
[5] 幽霊船関係(IMO識別番号表示提案)
 香港からMSC74/17/3の提案説明がなされ、エジプト、ポーランド、フランス、スペイン、パナマ、韓国、チリ、米国、デンマーク、スペイン、ICSがこれを支持した。
 しかしながら、米国は技術的問題について検討する必要があると指摘し、スペイン、韓国からも同意見であるとこれを支持したところ、議長取りまとめを受けて、次回FSI10で検討し、その結果を次回MSC75で検討することとなった。
 
(5)作業計画(議題21関連)
[1] COMSAR小委員会関連
 COMSAR小委員会の作業計画及びCOMSAR6の議題案については、「海上無線設備及び技術の開発」、「船橋間無線通信」、「避難海域」、「大型旅客船の安全性」、「漁船安全コードの見直し」、「ばら積み貨物船関連」及び「NAVTEX装置の性能試験の見直し」が新規に追加され、その他特段の議論なく合意された。
 
[2] NAV小委員会関連
 NAV小委員会の作業計画及びNAV47の議題案については、「大型旅客船の安全性」、「避難海域」、「漁船安全コードの見直し」、「レーダー反射器の性能基準の見直し」、「係船装置」、「救命いかだの事故防止方法」及び「ばら積み貨物船関連」が新規に追加され、その他特段の議論なく合意された。
 
(6) その他議題(議題23関連)
[1] IMO標準海事通信用語集(MSC74/23/3)
 船内外における通信の際使用される標準用語に関する総会決議改正案は合意され、第22回総会における採択にむけ提出されることとなった。
 
[2] 海路による移民の輸送又はその取引に関する不安全行為(MSC74/23/4, MSC74/23/8)
(イ) MSC74/23(事務局提出文書)、 MSC74/23/4(スペイン)及びMSC74/23/8(仏、伊、英及びギリシャ)につき説明が行われ、MSC74/23については特段の意見なくノートされるとともに、MSC74/23/4の西による事案報告につき謝辞が述べられた。
(ロ) MSC/Circ.896の改正にかかるMSC74/23/8については、チュニジアが現状規定で問題ないところ改正の必要はないとの意見を述べたが、我が国はじめ米国、カナダ、スペイン、イタリア、ブラジル、ポルトガル、ポーランド、バヌアツが同提案を支持したところ、米より提案されたエディトリアル修正を踏まえた改正案が承認された。なお、改訂MSC/Circ.896については、MSC75において検討される予定である。
(ハ) また、議長はメンバー国に対し、
(a)不法移民に関する議定書の早期批准
(b)当該不安全行為を防止するための関連文書の提案
(c)MSC/Circ.896に基づくIMOへの事案報告の促進
を強く呼びかけた。なお、(iii)については、スペインはMSC74/23/4に触れ、国旗、船名標示、登録番号等識別するための材料の無い小型船が不法移民の輸送の用に多数供されている現状を訴えつつ、IMOへの報告様式では複雑過ぎて必ずしもスペインの現状をカバーできないところ、同様式の簡易化を図る必要があると強調したが、これに対し議長は、同様式はMSC73で了承されたものであり、暫くの間は同様式を使用し、問題点等につき更なる報告を提案するよう要請した。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION