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日本太鼓と学校教育−8
 間近に迫ってきている中学校における太鼓をはじめとする和楽器教育の実施については、各支部、各団体において積極的に取り組んでいることと思います。過日、実施しました「学校における日本太鼓指導実績」のアンケート調査の回答は予想以上の数(1月7日時点で約500通・この詳細は会報4月号に掲載予定)で大変喜んでおります。既に各地の学校等で太鼓の指導が幅広く行なわれていることを実感いたしました。
 今回のシリーズは視点を変えて、2団体から寄稿いただきました。一つは支部が学校教育の中でこの問題にどう取り組んでいるのか、そしてもう一つは太鼓指導を受けた生徒の率直な感想をそれぞれ紹介いたします。
よりよい太鼓の指導をめざして「ワークショップの実施」
(財)日本太鼓連盟岐阜県支部
 
 いよいよ本年度から、中学生一人ひとりが在学中に必ず和楽器を学習することになりました。
 岐阜県明宝村立明宝中学校では、2001年4月から音楽の授業で麿墨太鼓保存会の和田正人(2級公認指導員)が、日本太鼓連盟の教本を使って指導しています。和田指導員は日本太鼓の演奏技術のほか、あいさつなどの礼儀や太鼓に対する心などを大切にして指導しています。今、学校から日本太鼓の指導依頼が増加するなかで、中学生に何をどのように教えればよいのかと言うことが、地域指導者の悩みの一つなっています。
 岐阜県支部事務局には、会員から「学校へ日本太鼓を教えに行っているが、子供たちにどのように教えたらよいかわからない。教え方について講習会をして欲しい。」「保存会の曲を指導しているが、少ない時間のなかで最低限教えるべき基本について学びたい。指導者として技術も高めたい。」などの声が聞こえてきました。また、学校や教育委員会等から、学校での日本太鼓の学習についての問い合わせも増えています。
 そこで、服部事務局長を中心に役員と指導員が話し合い、地域指導者としての指導力や技術力を向上していくために、次のように「第1回日本太鼓ワークショップ」を開催しました。
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(明宝中学校での太鼓指導)
<ワークショップ実施内容>
●日時 2001年12月9日(日)9:30〜15:00
●会場 美並村立郡南中学校体育館
●参加者 66名
●講師
(1) 基調講座(2時間)
[1] (財)浅野太鼓文化研究所 浅野理事長
[2] 岐阜県支部 服部事務局長
(2) 実技指導(2時間)
和太鼓に関する知識実技研修(財団教本使用)
指導者 岐阜県支部所属の公認指導員
・全体指導 羽土 聡
・補助、特別指導 若山 雷門、和田 正人、高島 奈々、高島 笑美
 
 基調講座では、日本太鼓について造詣の深い浅野理事長から、太鼓の歴史・材質・製作・演奏などについて、講話をいただきました。また、服部事務局長からは、今回のワークショップの趣旨と今後の支部の在り方について説明がありました。
 実技指導は、基本的な内容を重視する観点から、財団の講習会で教材として用いられている教本を使用し、財団が行なう技術認定員の4級・5級講座の内容で4回研修を実施することになりました。また、今後は年に2回、5月と11月に実施していく予定です。研修会が重なるにつれ、1回目のグループ、2回目のグループと研修内容の異なるグループが増えていくので、講師と会場の割り振りも課題となります。
 県支部の桜井支部長をはじめ役員と公認指導員が手を取り合って、支部会員の指導力と技術の向上を図っていきます。また、子供たちに日本太鼓の演奏を通してわが国の伝統音楽に親しむことができるよう、ワークショップを充実していきたいと考えております。
体育大会での太鼓演奏を終えて
 全九州太鼓連合事務局長でおおむら太鼓連くじら太鼓の代表でもある田中俊己氏は、長崎県大村市立桜が原中学校の要請により、一人で1年生6クラスの240名に対して、2001年の6月から9月までの3ヶ月間、太鼓の演奏指導を行いました。このたび、田中氏より、教え子たちから指導の成果を発表した体育大会での演奏を終えての率直な感想文を送っていただきました。
 
一年五組 岡部 志保
 「太鼓なんて、古くさい。」
 私の、太鼓に対する第一印象だった。“何で、こんなめんどうな事をしなくちゃならないのか”と、不思議、いや不機嫌になっていた私が、そこにはいた。
 私は、しょうがなくと言うより、いやいやながら太鼓を叩いていたが、練習すればするほど、手にはマメが、心には楽しさが生まれてきていた。そして、もうすぐ体育大会。
 そのため、太鼓のテストが行なわれた。“めんどうくさい”とさえ思っていたはずなのに、本気で受ける私がいた。おしくも第1回では落ちてしまった。
 その時は、すっごく情けなくもあり、悔しくもあり、複雑な気持ちであった。ラストチャンスの第2回目のテストの時、思いっきり手を上げ、できる限りの事をした。その成果が出て《合格》。私はとってもうれしくて、泣きそうにさえなった。それから休み時間などの空いた時間を見つけては、机を太鼓の代わりにして練習を重ねた。そんな私は、やる気に満ち溢れていた。私は今まで、こんなに一つのことに“尽くした”という覚えが無く、何か変な感じだった。いよいよ体育大会当日。太鼓を大事に両手で抱え。走った。私は、声を出し、手を上げ、元気良く、今までの成果を出そうと、思いっきり叩いた。終わるまでドキドキしていた。
 終わって「ありがとうございました」と言うと保護者の方々から拍手が起こった。とてもうれしかった。その時、私の手には、汗がにじんでいた。それを見ていると、うれしさ、おどろき、悔しさ、それまでの、いろんな思いが押し寄せてきた。
 太鼓が≪私に何を教えてくれたのか≫は、これからわかることだと思う。太鼓をやれて本当に良かった。太鼓と出会えたことに、心から“ありがとう”と言いたい。
 
一年五組 栗原 孝佳
 最初に太鼓をやると聞いて「太鼓かぁ〜、早くやってみたい」と思った。僕は最初は、<ただ叩くだけだから簡単だろう>と甘く考えていた。しかし、やってみると、ただ叩くってだけのものじゃなかった。握り方や構え、振り方や音の強さと、様々な技術があって、覚えきれずにかなり困った。家に帰って習ったことを復習した。でも、その時、親や弟たちは、カタカタカタカタ…と、とても邪魔になったようだ。でも、そのお蔭もあってか、何とかみんなに追いついて、遅れを取り戻すことができた。
 そして、7月にオーデションが行われた。僕は、絶対に受かりたかったから、全力を出しきった。すると見事合格。これで体育大会の選抜組の可能性が出てきた。
 夏休みに入り、ド忘れしないように、たびたび練習してみた。それがクセになって、気がつくと机や床を叩いていた。よく考えるとクセになったということは、それが身についたということだと思う。これで<選抜組間違いなし>、そう思った。けれど、二学期になって、総合で練習したとき、自分よりレベルの高い他のクラスや自分のクラスの人がいて、僕の夏休みの自信は、一気に崩れ去った。
 太鼓実行委員長として、<少しはうまくならないと>というプレッシャーがのしかかってきた。そして最終オーデション。僕は精一杯の力をふりしぼった。しかし、ミスを連発し、二回受けた末、残念なことに落ちてしまった。結構ショックだったけど、<本番にミスすることなく頑張ろう>と思い、気持ちを切り替えた。
 そして本番の体育大会。「一年生全員による太鼓演奏です」とアナウンスがあった。本番は練習よりミスがあり、納得いく内容でなかった。でも、最後まで止めずに叩けたのでよかった。田中先生の言葉どおり、<将来、何かの役に立つことがあるといいなぁ>と思った。
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(田中氏の指導風景)








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