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財団法人日本ナショナルトラストからのメッセージ
(財)日本ナショナルトラストと国際交流・・・山岡 通太郎
 (財)日本ナショナルトラストでは、昨夏より約十ヵ月の期間米国ナショナルトラストの推せんを受けた、フルブライト奨学資金による調査研究員をお預かりしている。
 メアリー・ハムストンさん。彼女は御家族と共に来日し、財団の事業を中心に日本の農村景観の保全について研究を行っている。
 現在世界各地には三十数ヶ国約六十団体のトラストがそれぞれの地域の歴史的遺産や自然景観の保全と活用に努めているが、「保全と地域振興」「若い世代に対する普及啓蒙」等々共通する課題に対して相互の交流を進めつつある。
 当財団としても、三年に一度開催される世界トラスト大会(昨年六月には豪州アリス・スプリングスで開催)に出席するほか、米国その他で行われる国際会議・シンポジウム等にも可能な限り参加してきた。
 最近では米国・豪州など海外各トラスト視察団をお迎えして、白川郷合掌造文化館や奈良旧大乗院庭園の修復状況を視察して頂き、財団の事業についての理解を深めて頂いている。
 近年とくに留意すべきは、アジア・太平洋地域におけるナショナルトラスト活動の高まりである。
 本年は一月下句創立一年を迎えた韓国ナショナルトラストの記念大会にお招き頂いた機会に、当日の基調講演において当財団の活動概況について報告する予定である。(一月二十五日 ソウル)
 現在、豪州、ニュージーランド、フィジーなどの太平洋地域やバーミューダ、ジョージア州など米州地域の各トラストとは会員に限り相手方のプロパティについては、ゲストとして無料で入場できる相互協定を締結し、当財団メンバーからも御好評を頂いている。
 目下、米国ナショナルトラスト本部とも協定を結ぶべく交渉中である。
 海外におもむかれる会員各位は是非この特権を活用されるよう御紹介を兼ねておすすめする次第である。
〈(財)日本ナショナルトラスト理事長〉
【展示】ラッコとガラス玉 北太平洋の先住民交易
昨年九月から約三ヵ月間、大阪府吹田市の国立民族学博物館で[ラッコとガラス玉−北太平洋の先住民交易]展が開かれた。北海道、サハリン、アムール川沿いから北太平洋に暮らす先住民族と、ヨーロッパや中国・日本との交易によってもたらされた「もの」や関係する資料が九百点展示された。一八世紀にヨーロッパや中国では、毛皮の需要が高まり、特に高級毛皮とされるクロテンやラッコがもてはやされ、それらの捕獲に先住民族が使役された,
シベリア、サハリン、アリュウーシャン列島、千島列島、アラスカの地域は狩猟漁労民であるモンゴロイド諸民族が活躍する広大な地域であり、そこにまで及ぶ乱獲は、交易の凄まじさがどのくらいのものか想像だにできない。
労役や毛皮の代償には絹製品、鉄製品などの外来品であるが、そのうち目を引くのが、ガラス玉である。皮肉にも玉は、占代から魂が宿るものとして、束アジアの墳墓から出土する貴重な宝である。それはヒスイのように硬石から作られるものから比較的加工のしやすい軟玉までいろいろあるが、その代用品ともいうべきガラス玉では余りにも悲しい。いや、ここでは自ら作る事のできない近代的な珍品を受け入れる事こそが、文化の同化というべきなのかもしれない。
もう一つ注目する展示物のなかで、クロテンの頭蓋骨があった。大きな孔が穿って、脳をとり出した痕跡がある。大塚和義教授は「アイヌ民族の熊送りに似た儀礼が行われたようだ」とオホーツク文化の共通点を指摘していた。七世紀頃のものらしい。
今回の展示におけるこの頭蓋骨と近代の交易市場に流通するガラス玉は、クロテンを通して人間がどのように生きてきたかを見るのに、あまりにも対照的で衝撃的な展示物であった。








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