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◎鶴橋のドゥ・マゴでの仕事◎
 私が「鶴橋のドゥ・マゴ」でどんなことをやっているのか、鶴橋でやっている仕事をちょっと見せます。解説させていただきますと、私の作品というのは、セルフポートレートといいまして、自分自身の肖像という意味です。昔、画家は自画像を書きました。そういうものに少し似ていますが、私の場合は、自分自身の写真を撮るんですが、扮装して写真を撮る。扮装して何をするかといいますと、よく知られた絵の中の登場人物になりすます。一見絵のように見えるけれども、写真です、どのように自分自身が違和感なく絵に紛れ込むことができるのか、そのようなセルフポートレート作品です。では、ここでスライドを見てください。(スライド上映開始)
 これをぱっと見て、ああ、やっぱり絵やないか、と思われるかもしれませんが、目のところを見ていただいたら分るかと思うんですが、目が生々しいでしょ? これはどういうことをやっているかといいますと、帽子とか服などは全部、実は粘土で作っているんです。粘上で作ったものを着たり被ったりして非常に馬鹿なことをしているのです。顔はどうなのかといいますと、色を塗っています。メイクというよりは顔をキャンバスに見立ててやってるわけですね。ドーランという舞台用絵の具を筆にのせて塗っているわけです。まるで顔がキャンバスであるかのように顔にのせて作品に仕上げているわけです。そういうわけで絵になることを目指しているようなものです。色んな仕事や作品や手法がありますが、どういうふうに作り上げるのか、少し見ていただきたいなと思います。
 これはですね私の作品ではなくて、私が作品にしようと思いついたベラスケスのです。もう何百年も前の人が書いた絵です。この絵を作品にするには大変難しいです。なぜかというと、ここに描かれている王女様ですが、これは三歳ぐらいの子供です。私がこういう服を作って着ても大人のプロポーションになってしまいます。子供のプロポーションにしないといけない、ちょっと難しいわけなんです。そこが芸術ですね、そこを見ていただきたいです。
 これはですね、手伝ってもらいながらやっているメイクの最中です。ちょっと奥に注目して下さい。さっき元絵を見てもらいましたが、胴体の部分に非常に近いんです。これはどういうものかというと、お人形の前半分だけあるようなもの、これをですね粘土とか針金とか布とかそんなものを使いながら大体二ヵ月かげて作ったんです。顔ですが、今真っ黒になってますが、あそこに穴が空いてるんです。私がその穴から顔を出すのです。すると、プロポーションも計算していて、人形のところを小さくしていると、顔が大きくて体が小さい子供のプロポーションになってしまうというわけです。
 これはさっきのあれを真側面から映したものなんです。で、本当はお人形さんというのは前だけ立体に円になっているものなんですけれども、バックは黒い板なんですね。このバックの板の中に穴が開いてまして、ここから前に顔を突き出しまして自分の体はここにあるわけで、大きいですけれども、前から見たらちっちゃい体に見えるわけです。前からやってて髪の毛とか乱れてほとんど動けない状態なので、スタッフがやってるんですけれども。で、撮影が始まりました。
 こんなふうになります。図[1](歓声)大女のようなとても可愛い(笑)王女様ができあがりました。(笑)どこが芸術なんや、って話になるわけです。(笑)馬鹿みたいなことをやっているな、という感じですけれども。大体、最初は先ほども守と破ということがございますけれども、破というものは、ははっとこう皆笑うんですよ。(笑)これはもうピカソもそうでした。ピカソだって最初はわけわからん芸術みたいなことをやってどこを見ているのか分らないような顔を描いて、何だこれは、馬鹿じゃないかとみんな.言ったんです。ですから、芸術と人は言いますができてくるものはなかなか馬鹿馬鹿しいものだという不思議なものです。バリエーションを見ていただきたいので、次、行って下さい。
[1]美術史の娘/王女A(1990年 写真)
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 これは今奈良でやっています、展覧会がありまずけれども、マネの「笛を吹く少年」図[2]に私自身がなってみたものです。何でなんねん、という話ですけれども、これはまあ深いんですね。で、次に行って下さい。
[2]肖像/少年1(1989年 写真)
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 これはミレーの「晩鐘」という絵がありまして、それをテーマにいろんなアレンジを加えるとこういう作品になる、というものです。こういうものになってくると、ひとつの作品の中に登場人物が何人か入ってきますよね。これは一回の撮影ではできません。沢山の人間が登場する場合、複数の自分自身が登場する、これは両方とも私がやるんです。私自身が複数登場するものは、コンピューターを使います。ですから最初に見たものは非常にハンドメイドな感じですが、そのハンドメイドなものもやるけれどもこういうコンピューター合成なものもあります。もちろん、登場人物が着ている服はハンドメイドです。ハンドメイドとコンピューターグラフィックスの間でその両方の技術を使いながら、いろいろなことを考えているんです。
 これは九人の顔、正確に言うと、八人と一個の死体、これは九人の顔を全て演じ分けて、コンピューター合成に図[3]よって作品にしたものです。
[3]肖像/九つの顔(1990年 写真)
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 これはですね、ヒマワリです。図[4]だんだん偉そうなことを言っていますが、人間以外の何にでもなれます。それからもセザンヌのリンゴになってみたり鳥になってみたりいろいろしたんです。
[4]唄うひまわり(1998年 写真)
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 これは今までで一番沢山の人を登場させた作品です。全て自分自身が演じているわけです。ですけれども、その後、女優家ということを説明しましたが、昔のことを考えるときには絵というものはなかなかいいんですね。時代を象徴する肖像というものにはどんなものがあるだろうかと考えたわけです。例えば、イタリアのルネッサンスの頃の時代を象徴する肖像画って一体なんだろうと考えた時に、たとえばモナリザとかが出て来るわけです。つまりそのモナリザという絵はその時代が分ってくるような肖像画といえるものなのではないか、と思うわけです。時代を象徴するものっていうのは絵の中にあったんですね。では、二〇世紀はどうだろう。こんな風に考えました。そうすると、もう絵の中にはないんじゃないか。例えば二〇世紀という時代を象徴する肖像としては、マリリン・モンローがその一人じゃないかと思うわけです。マリリン・モンローのポートレートに関わっていって、その時代の空気といったものを感じ取ることができれば、そこから二〇世紀とはなんなんだろうか、ということの理解を助けるのではないかと思ったわけです。だから二〇世紀の時代のポートレートというと結局、映画女優だという事を考えました。
 これはオードリーヘプバーンなんです。図[5]ものすごいプロポーションがよくしてあるんですね。ちょっとタネあかしをしますね。台に乗っているんです。(笑)ロングのドレスを着るときは、台に乗って撮るとね、プロポーション良く見えますから。(笑)
[5]セルフポートレイト・女優/ヘプバーンとしての私・1(1996年 写真)
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 これはサクラの満開の下で「風と共に去りぬ」のビビアン・リーもやってみました。
 これはブリジット・バルドー、図[6]ですけれども後ろが通天閣なんです。通天閣っていうのはですね上半分がエッフェル塔、下が凱旋門なんです。それをミックスさせたものが最初のコンセプトですから、まさにここはパリなんです。(笑)スタッフに今度はブリジット・バルドーをやると言ったんです。そしたら、いよいよパリロケですか、と言われました。違う、通天閣でやるのだとね。(笑)パリに行ってブリジット・バルドーのロケをやるというのは、日本に居る私たちにとっては遠い花の都パリで撮影したものというありがたさがありますが、パリの人にパリの一角で撮影したものを見せて、こんな当たり前の物を見せて何が面白いんですかと言われそうです。世界の人も同じです。ところがですね、通天閣なんてパリの人知りませんよ。エッフェル塔よりは知名度がないということですよね。けれど鉄塔というのに違いはないんです。大変面白いコンセプトを持っていて、うちの近所のすぐ目の前にあるんですから、つかわない手はないでしょ。これを展覧会で見せたわけです。すると、これは何だという話になって、彼らにとっては非常に珍しくて面白いんです。
[6]セルフポートレイト・女優/バルドーとしての私・1(1996年 写真)
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 これがライザ・ミネリの「キャバレー」という映画があったんですけれども、それをテーマにしたものですね。
[7]セルフポートレイト・女優/イワシタシマとしての私・1(1996年 写真)
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 これは、日本をやろうかということで岩下志麻図[7]さんを選んだんですが、私は服とか着物とかはほとんど趣味でやっているようなところがあって、借り物って一切無いんです。だから全部コレクションといいますか、服を見ててこれ欲しいなと思っても奇抜なものってなかなか買えないでしょ。大体失敗しますよね。やっぱりこれええな、って思って買ったものでもやっぱり派手なのは買ったっきりタンスの奥に仕舞われてしまって一度も袖を通したことがない、ってことありますよね。でも、私は芸術家ですから! 芸術家ですから自由ですよね。自由だけが取り柄みたいなところはありますから、なにやってもいいんですよね。私は着物が欲しいなと思ったら、派手な着物を買います。普通は着物が欲しいなと思ってもなかなか買えないじゃないですか、どこに着ていくんや、言われますから。でも、芸術家だから、そういうとみんなも納得するし、自分も理由を正当化できる、そういうところはあります。芸術のため、それからあとはコレクションとして楽しんでます。まあ、こういう仕事をしています。
・・・・・(芸術家)
 「第[2]特集=大阪からのまなざし(芸能と芸術)」は、二〇〇一年十一月二十六日、大阪市立大学都市問題資料センター主催によって開かれた「大阪からの発信−芸能・芸術と都市文化」のシンポジュームの講演録に加筆訂正をし収録しました。








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