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 中国の都市は、歴史も立地も規模も異なっていてそれぞれ個性的であるが、北京はその中でも際立って規範的、模範的な都市であった。初めからきわめて明確に特定の規範に沿って築造されていて、ディティールはともかく全体的な構成が比較的わかり易い。ここで云う「規範」とは、「周礼」、易、陰陽五行説などで、これらが目に見える形で表現されているのである(風水地理説も加えたいところだが、北京の場合、「規範」とは云い難いところがある)。これらは実は中国の都城設計の基本理念なのであるが、実際の造営に際しては必ずしも忠実に遵守されたわけではない。
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紫禁城の路図
 上海などはそういう意味でも北京の対極に位置している。多様な貌を持つこの都市の核になったのは、黄浦江沿いに造られた小さな県城であった。やがて列強の租界に呑み込まれてゆくこの県城の形態は円形に近く、都市は矩形という伝統的な都城観念からもかなり逸脱している。
 都城は矩形という「周礼」の思想は、天円地方という伝統的な宇宙観に由来するはずである。中国の都市は天上を意識しないわけではなかったけれども、大地の上に建造される都市は何よりも大地の嫡子でなければならなかったからである。








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