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◎発表をしなかった日記帳◎
勇崎………ちょっと発言させてもらいますけども、僕は本当に筑紫さんがおっしゃられた絵画のナイーブを強く感じます。それから、写す対象に対する愛着を、本人からお話をうかがっても、ひしひしと感じます。もう一つ感じたのは、写真の野生児といいますかね。僕たちは教育を受けちゃって、教育受けてしまったことの弊害みたいなものを引きずってきています。飛弾野さんは、分からないことがあったらカメラ屋のおやじのところに行って技術的な話を聞く。あとはこれを押したら写ってこういうふうにやったらプリントが出来た、これは面白いと。またプリントを人にあげたらものすごく喜んでくれたと。これはもっと面白いことだと。写真が持っている機械的な面白さと、それとのコミュニケーションで得るほんとの喜びだけで、自分の写真を続けてこられた。もうわくわくする気持ちの中だけで写真を撮られてきた。教育を受けていない素晴らしさっていいますか、そういう野生児のような感じを受けるのですね。でもそれなのに、スティービッツのような写真があったり、ラルティーグのような写真があったり、洪水の写真なんかは、ほんとに長野さんが撮られた写真かと思うほどのできばえです。それから長野さんが撮られた大分の新興住宅の写真と、当時の道路を愛護運動をしていく写真が、ほんとにすごく長野さんのまなざしに似ているのですね。なぜ学んでない人がそういうものを獲得できたんだろうと不思議に思います。それと今日いろいろアマチュア指導があって、コンテストに受かるにはどうしたらいいかとか、コンテストに受かることが目標になってしまった、そういう日本のアマチュアに対して、アマチュアの本来のスタイルを持ち続けている飛弾野さんの写真をみんなにもっと知ってほしいということです。
筑紫………飛弾野さん公募展には応募したことはないの?
勇崎………ないそうです。ところが、東川百景に、応募が少ないとかって聞くと、じゃあ何か出すかなとかいう感じですね。
山岸………びっくりしました。東川賞が発足して17年目に出てきたというのが素敵です。モダニズムの時代にはアマチュア写真がすごく盛んになりましたよね。そういう意味では飛弾野さんみたいに中央にはいないで、そういう渦からちょっと離れていたことが幸せだったかもしれません。
平木………そうですね。阿蘇の郵便局の局長もそうなのですけども、おそらくその地域ではモダンな暮しのトップランナーなのですね。つまり競い合う相手がいないのですね。ですから、競わなくてもいいし、みんなが素直に自分の存在を認めてくれて喜んでくれるというのはありますよね。ですから、コンテストも要らなければ、鍛錬も要らないのでしょうね。だからほんとに素直にストレートに対象に向かえる。
長野………写真というのは元々、教育とか何とかは必要ないんですよ。だって誰でも撮れるのが写真ですよね。私が若い頃スタッフだった岩波写真文庫でも、あの頃は、戦後間もない頃だから、外国へいらっしゃる方なんかあまりないわけです。だから、学者の方などが海外へいらっしゃる時にみんなカメラを渡して何か撮ってきて下さいと、お願いする。それで一冊作っちゃったりする。桑原武夫さんがロシアに行かれる時、カメラを渡して撮ってきてもらうとか。元々そういうものなんですよね。だからあまり、構図はこうあらねばならぬとか……、今どきそんな馬鹿なこと、言う人はいません。だから、飛弾野さんが何も習わないで撮れたというのは当たり前で、ちょうどカメラがハンディになって、何でも撮れる時代の写真ですよね。それ以前は三脚立てて、暗箱のカメラで覗く写真だったらこうはいかなかっただろうと思うんだけど。だからやっぱり、映像の世紀とうまく重なっているんですね。
岡部………発表をしなかったというのが、イコール日記なんだと思うのです。だから、すごく新鮮ですね。それが今の人たちが撮っている写真の撮り方、つまり日記的な面に近いところもある。これまでむしろ、いい写真を撮らねばならないというモダニズムの要請があったわけですが、彼の場合はモダニストだけども、写真に関しては、日記だからそういう意識を特別には持たないで、自分の写真を撮っていた人だと思うんです。それが現在の若い人たちが撮っている姿勢に、たとえばナン・ゴールディンなどの撮り方などとも割と、通じる部分があるのではないかと思います。もともと良い写真を撮ろうとは思わずに、自分がすでに社会事象を映す鏡のようになっていて、彼自身がメディアみたいなんです。だから写真カメラを持っていれば、自分が写真や映画メディアな感じで、そのへんの直截性が、新鮮というか、今風な感じがします。
長野………だから、最近は若い女子高校生が写真を撮っていますが、いっぱい飛弾野数右衛門の子孫が、生まれつつあるわけですね。








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