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4 巣内の環境調節
 アシナガバチ、スズメバチ、マルハナバチは、冬越しするのは女王だけで、それも冬眠状態で過ごす。これに対してミツバチでは働き蜂まで全員が、冬眠することなく冬を乗り切る。そのためには燃料用の十分な貯蜜と、暖房能力が必須となる。
 暖房のために蜂が発熱する時には、羽ばたくことなく飛翔筋を緊張させる。ただ、巣内温度が下がったからといってすぐに発熱するわけではない。実験的に蜂の付いた巣板の温度を下げていくと、蜂はまず幼虫(図[13])のいる部分を被うように集まり、幼虫や仲間の呼吸熱を逃がさないよう断熱層を作る。それで足りない時にのみ、一部の蜂が発熱を始める。省エネに徹しているわけで、この“節約”の性質があってはじめて、外部資源に頼れない長い冬を、全員で越冬できるのである。
[5]古木のうろが、ニホンミツバチの本来の営巣場所で、この閉鎖空間が、冬を越すのに最も適している。巣門には、環境調節のための扇風蜂が見える
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[6]夏の盛りには、水分を吸い上げ、巣の中で“打ち水”をし、冷房を行なう
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[7]巣門で扇風をし、巣内の換気を行なっている
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 一方冷房時には、換気と、それで足りなければ巣内で水を蒸発させて気化熱を利用する。夏の暑い盛りには、近くの水辺に吸水に訪れている働き蜂をよく見かける。水は“打ち水”のように、巣房壁に広げられることもあるが、もっとよく見られるのは、口吻を半ば突き出してループ状にし、そこに吐き出した水か薄い蜜を膜状に張り、水分を蒸散させる方式である。この気化熱を奪うことによる冷房効果は、換気と組み合わされた場合きわめて効果的で、夏に直射日光が当たる空巣箱の中は摂氏五〇度以上になるのに、蜂が活動している巣箱の中は約三五度のままである。(図[5])
 木のうろ(図[5])などの閉鎖空間に営巣するミツバチにとって、出入口が小さい時など、換気に失敗すれば酸欠でコロニーごと死んでしまいかねない。ミツバチは酸素濃度には反応しないが、CO2濃度はモニターすることができ、巣内の炭酸ガス濃度に応じて扇風蜂の数を調節する(高橋、一九九二)。その際、セイヨウミツバチは“排気する形”で扇風するのに対し、ニホンミツバチは外の新鮮な空気を巣内に取り入れるようにする(図[7])。スズメバチなどの天敵が多い環境では、セイヨウミツバチのように巣門で尻を外に出していたり、巣内の匂いをまき散らしたのでは捕食の危険性を高めるだろう。これに対し外界を見ながら扇風していれば、視覚により外敵を発見することができる(生田・佐々木一九九六)。








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