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□コラム 北山茂朝
 黒石の中町は、黒石藩政の時代より弘前から青森への交通の要所であり、造り酒屋や商店が軒を並べた町並みであった。中町のこみせは、商店の軒先を広くした形で、奥行きは130センチメートルから190センチメートルあり人が交差するのに必要な寸法が基準になっている。こみせの通行は、人が主であり馬車や荷車が通ることはなかったと思える。また母屋の軒の下に通しで作られたため、屋根の高さも212センチメートルから226センチメートルと低く作られている。冬は柱に戸が入る溝があり、板戸を落とし入れ雪を防ぎ多雪地域の不便さを克服し、夏は日差しを遮り、軒下にはせきがあり水が流れていた。
 中町に現存する江戸時代から明治にかけて作られたこみせは、盛家と高橋家、こみせ美術館と鳴海醸造店に中村酒造が主な部分である。いずれも商店であり、造り酒屋の2軒が盛家や高橋家と共に木造津築として町並みに、武家屋敷や寺院などと異なるおもむきを感じさせる。
板戸を入れたこみせ 鳴海醸造店は、1階の通りに面して店舗がある。外から見ると格子戸が外壁のように感じるが、店舗から見るとこみせは内部の空聞のように見える。2階に住居や職人の部屋が作られ、店舗の奥の醸造樽が置かれた場所は、酒樽が大きいため1階部分の階高が高くなっている。また小屋裏を使用するためと思われるが屋根も9mと高い、こみせの屋根が高い建物とバランスがとれている。庭がこみせに面してあり板塀がこみせと一体に作られている。冬期間だけ板戸がこみせの柱に入れられている。こみせの延長は、5件のうちで最も長く45.68mある。
中村酒蔵店 中村酒造店は、木造の2階造で表通りから店舗と「はなれ」(別棟の部屋)が別々に見られ、それぞれに特徴のある建物に作られている。1階の店舗間口が広く、ガラス戸を大きく入れている。屋根は切妻で9.2mの高さで5件のうちで一番高い、小屋組が5段に組まれ意匠的である。こみせの延長が30mあり、軒の高さは242cm、上部の欄間にガラス窓が入り内部に明かりを取り入れ、柱間にはガラス戸が冬だけ入れている。車の出入りのため320cmの高さのこみせが3.1mある。こみせの奥行きは196cmとかなり広く作られている。
盛家 盛家は、質店であったため母屋と倉が並んで見られる。他の5件は、倉が母屋の奥に造られ表通りからは見られない。母屋は、木造2階建てで軒高が約4mと低く屋根の勾配も雪国にしてはゆるやかな3寸勾配である。2階の窓の格子も意匠的に組まれて最も商店の趣を見せている。こみせの奥行きは168cmであり、通路としての幅は充分確保されている。軒の高さは225cmで屋根は2寸勾配と母屋より緩い勾配である。こみせの板塀の高さが360cmあり小屋根が作られている。こみせの延長は27.99mあり倉の部分の塀が忍び除けの串状になっている。
高橋家 高橋家は正面の部分のみが2階建ての木造で、中に入ると商店でその奥が土間があり、土間とともに座敷が続く。軒の高さが360cmと最も低く屋根の勾配も3寸勾配と緩い勾配であった。こみせの奥行きは148cmと狭い方ではあるが通行には支障がない寸法である。こみせの軒高は225cmで、屋根の勾配は1.7寸勾配で最も緩い勾配であった。冬期間は、柱間に板戸が1枚横に入れられるようになっている。延長は38. 82mあり、柱間は191cmが基準でひばの12cm角の柱を使用している。
こみせ美術館 こみせ美術館は、木造の2階造りであり土地が角地のため奥行きの長い建物である。屋根も高く勾配も急になっている。こみせの奥行きは狭い部分もあるが156 cmあり通行には支障がない。軒の高さは235cmあり、屋根は2寸勾配である。中町側の部分には22.63mのこみせがあるが、交差した通りには5m位しか無く人の交通が少ないのを感じさせている。
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参考写真 中町地区町並連続写真(東側)
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参考写真 中町地区町並連続写真(西側)








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