3−4. 火炎の撮影と分析試験
(1).装置と方法
(1)−1 可視化定容燃焼器
本研究では、図3−4−1に示す定容燃焼器を使って自由噴霧火炎の観察を行った大きさは容器の上面に取り付けた燃料噴射ノズルから容器の底面まで約30cm、容器内の空気圧力は2.5MPa、空気温度は600℃である。そして側面に設けた上下の窓から、自由噴霧火炎の燃え切り長さや燃え切り時間を高速度ビデオ(毎秒18000コマ)で撮影した。
図3−4−1 可視化定容燃焼器
(1)−2 バンカー油噴射システム
従来の重質油可視化研究が着火を見ることに終始していたのに対して、本研究では機関の信頼性などに悪影響を与える後燃えの観察を重要視する。それも切れの悪い噴射によるのでなく、燃料性状によって引き起こされる後燃えを検出しなければならない。
定容燃焼器には、図3−4−2に示すような油圧駆動増圧ピストン式電子制御燃料噴射システムを装備し、100MPaの噴射圧力で30msの期間の噴射を行った。図に示すように、噴射は最後の1msで切れ良く終了する、また噴射圧力波形の再現性も十分確認された。
図3−4−2 電子制御燃料噴射系
(2).バンカー油火炎の可視化観察
始めにBFO−S、8FO−A、NYK−1と名付けたバンカー油をテストした。BFO−Sは問題のなかった燃料であるが、BFO−A、NYK−1はアメリカ西海岸の港で補油され、大型コンテナ船の低速機関にシリンダライナーの異常摩耗とスカッフィングを発生させたものである。
図3−4−3は、噴射ノズルから離れた下側の観察窓から撮影した結果である。この図では特にBFO−SとBFO−Aの火炎に明らかな違いが見られる。BFO−Sでは窓の上部から連続した噴霧火炎が見られるが、BFO−Aでは火炎は窓のほぼ中間の高さにのみ観察でき、噴射ノズルから約20cmも離れて存在していることが明らかである。この燃焼器内の空気圧力は2.5 MPaと低く、空気密度は高過給機関の1/4程度である。そのため燃料噴霧の速度が実機より高くなっており、BFO−A火炎は燃焼速度が遅いためそれに打ち勝って上がって行くことができないものと想像される。NYK−1の火炎もBFO−Aに近く、噴射ノズルから約15cmも離れて燃焼している。さらに噴射終了後を観察すると、BFO−Sに比べBFO−A、NYK−1は明らかに燃え切りが悪く、小さな火炎が長い時間消えずに存在している。
図3−4−3 スカッフィング燃料の燃焼特性
図3−4−4は低速2ストローク機関で後燃えが長い場合を想像したものである。この時ピストンが下がってシリンダライナーの摺動面が顔を出していれば、火炎によって表面温度が上昇し潤滑油膜が破壊されることも予想される。本研究では、さらに世界中から(問題のありな)11種類のサンプルを集め、トラブルを起こしそうな燃料を事前に発見することを目標として火炎の観察を行った。図3−4−5にサンプルNo.1〜11のテスト結果を示す。ここでは着火遅れを数字で表し、また噴射期間中の火炎の発生位置を上窓で確認している(噴射開始後20ms)。さらに後燃え時間とその時の火炎長さを、噴射終了(30ms)後の下窓の写真から判断する。
図3−4−4 実機における後燃えのイメージ
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図3−4−5 各サンプルの燃焼性の観察
ここでNo.8は実績上全く問題のなかった燃料である。後燃えは噴射終了後2−3msで終わっている。さらにNo.5, 6は上窓における火炎の位置が比較的高く、後燃えもNo.8同様に早く終わっていることから、スカッフィングを起こすほどの燃焼性の悪さはないものと思われる。No.3,7も後燃えの状況から見て同様である。これらの中には明らかにトラブルを起こした燃料も含まれるが、別の原因も疑ってみる必要がある。例えばNo.7ではポリプロピレンの混入が発見された。
No.1とNo.2であるが、これまでのサンプルに比べると1−2ms長く後燃えしている。またNo.4は今回のサンプル中最も難解な燃料で、写真を見ても分かるように火炎があまりに短く、大半の燃料が未燃で終わっている可能性もある、このような燃料の燃焼性の判定には、火炎写真と熱発生率・熱発生割合の同時評価が必要と思われる。
No.9は前述のBFO−A、NYK−1と同様、アメリカ西海岸の港で補油されスカッフィングを発生させたものである。図のようにこれまでのサンプルに比べて3msほど後燃えが長くなっている。
No.10は南米パラナグア油である。図から分かるようにBFO−Aに匹敵する燃焼性の悪さを示す。火炎発生位置が低いため上窓では火炎は観察できず、下窓の中間に火炎が浮いているように見える。また火炎の消滅は他の燃料に比べて4ms以上遅くなっている。
No.11は南アフリカ油である。これもNYK−1に匹敵するような燃焼性の悪さを示す。火炎発生位置がほとんど下窓の上端程度であり、後燃え時の火炎が長くまた微細な火炎は噴射終了後6msでも視認できる。さらに写真には出していないが、この燃料では火炎が消滅した後に火の粉状の発光(噴射終了後さらに40msまでも)が毎回見られた。
以上の結果から、 No.10,No.11を使用した場合は、BFO−A、NYK−1、No.9と同様に燃焼に起因するトラブルが危惧される。