舶用燃料油の燃焼特性と低速ディーゼル機関の信頼性
(株)ディーゼルユナイテッド
1.まえがき 調査研究の背景と経緯
舶用燃料油の粗悪化に伴い、舶用低速ディーゼル機関に燃料に起因すると思える障害が増加している。これら障害を予測し防止するために、燃料を使用する前に燃料を分析し、適切な処置を取らなければならない。燃料の一般性状や、過大摩耗を引き起こすFCC触媒等の分析は、すでに世界の権威ある分析機関によって実施され、重大損傷を未然に防ぐ事に役立っている。
しかし最近特に問題となっている「燃焼性に起因するトラブル」は、定量的に燃焼性を評価しうる画一的な指標が無かったことから、事前の燃料分析等によって予防措置を講ずる事が出来ず、他の舶用機関にも断続的に同様なトラブルを拡大発生させている。
燃焼障害を未然に防止するには、燃料を使用する前に障害発生を予測する事が不可欠である。このために、「使用する燃料油の燃焼特性」と「機関のスカッフィングを始めとするトラブルとの関係」を明確にすることが望まれる。
H11年度の研究では、機関に損傷を起こした燃料の火炎を定容燃焼試験装置を用いて観察した結果、障害との相関を説明しうる特異な現象が存在する事が明らかになった。また示差熱分析法やFIAによる燃料の着火特性も、特異なものとなる事が判った。
本年度は、燃焼火炎を類別・整理し、「燃焼に起因し低速ディーゼル機関に発生する障害」を定量的に予測しうる手段を確立することを目的とした。このため実際に異常を発生させた燃料油を採取し、燃焼試験を行った。燃焼試験には、液滴燃焼法も新しく追加した。これらの調査研究の結果、予測手法として有効な手法が確立出来たので、以下に報告する。
図1は、この調査研究に参画された団体の役割分担を示す物である。また開発された燃料分析法は、将来CIMACを介しISOの正規な試験法として登録し、燃焼障害の分析法として活用したい。
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図1 燃料品質に関する調査研究:作業の流れ
2.燃料の採取と機関の損傷度合
本年度調査研究の成否は、機関に損傷を発生させた燃料を如何に採取するかにかかっていた。図2は、今回の調査研究に当って燃料の提供のネットワークを示す。
DNVPS、インタータンコや低速機関のライセンサー等の海外からの協力や、日本船主協会等多くの機関から燃料を提供して戴いた。
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図2 燃料サンプル採取フロー(H12年度)
表1−1に、集められたサンプルの燃料性状と機関の損傷状態を示す。損傷が報告された機関の中から、実機調査が実施された。その事例の幾つかを以下に紹介する。
Sample2:リングの折損とかライナ摺動面のスカフィング模様など燃料の燃焼性の悪さに加え、過大磨耗の要因としてFCC触媒、ナトリウムや多量の灰分に加え廃油の混入など、複合事象を呈した。この他、Sample1,10などは、FCC粒子の混入とか、ソフトスラッジが清浄機の機能を喪失させたのに過大磨耗を伴った事例である。
Sample7:ポリプロピレンの混入を特徴とし、試験装置の燃料噴射系の機能が失われた例である。
表1−1 サンプルの一般性状と損傷の内容
  |
Density |
Viscosity |
MCR |
Sulfur |
Vanadium |
Al+Si |
CCAI |
アスファルテン |
燃焼特性 |
過大摩耗の要因 |
サンプル トラブル多発域 |
980-991 |
300-360 |
6-12 |
1.1-1.5 |
25-80 |
12-40 |
840-850 |
>6.5 |
*異常度合 |
及び異常の状況 |
Sample 1 |
不詳 |
989 |
339 |
15.7 |
1.83 |
86 |
12 |
851 |
7.6 |
1 |
廃油とアブレシブ摩耗 |
Sample 2 |
機関入り口 |
984 |
261 |
14.6 |
3.43 |
70 |
47 |
849 |
7.5 |
1 |
FCC、海水及び廃油混入 |
Sample 3 |
3字フィルタ |
971 |
373 |
13.0 |
3.21 |
146 |
<2 |
833 |
7.2 |
0 |
燃料採取の時間ズレ |
Sample 4 |
FOタンク |
978 |
314 |
7.0 |
1.16 |
43 |
7 |
841 |
2.6 |
1.5 |
  |
Sample 5 |
清浄機前 |
952 |
507 |
8.1 |
0.77 |
20 |
26 |
817 |
4.8 |
1+α |
燃焼障害大、低S |
Sample 6 |
不詳 |
992 |
397 |
13.0 |
2.62 |
253 |
<3 |
853 |
9.5 |
0.5 |
比重板選定ミス?汚れ大 |
Sample 7 |
FOタンク |
972 |
171 |
11.0 |
2.50 |
202 |
9 |
842 |
6.9 |
0 |
ポリプロピレン混入 |
Sample 8 |
FOタンク |
949 |
107 |
8.0 |
2.88 |
64 |
6 |
825 |
3.4 |
0 |
リファレンスデータ |
Sample 9 |
FOタンク |
986 |
310 |
13.0 |
2.20 |
77 |
23 |
849 |
1.6 |
2 |
  |
Sample 10 |
不詳 |
990 |
399 |
15.0 |
1.20 |
87 |
20 |
850 |
7.3 |
2.5 |
清浄障害 |
Sample 11 |
不詳 |
986 |
146 |
18.0 |
3.20 |
73 |
13 |
857 |
10.3 |
2 |
燃焼障害、ダンベル油 |
Sample 12 |
不詳 |
989 |
419 |
11.0 |
1.50 |
92 |
<2 |
849 |
3.2 |
3 |
  |
NYK-1 |
  |
991 |
414 |
16.3 |
2.01 |
84 |
15 |
851 |
7.4 |
2 |
スカッフィング |
BFO-A |
  |
986 |
320 |
12.0 |
1.30 |
80 |
<20 |
849 |
4.6 |
3 |
  |
BFO-S |
  |
990 |
357 |
17.0 |
3.50 |
105 |
<20 |
852 |
9.5 |
0 |
リファレンスデータ |
  |
980 |
322 |
12.8 |
2.22 |
99 |
18 |
845 |
6.2 |
  |
表1−2 サンプル性状と障害の特徴
  |
密度 |
硫黄分 |
アスファルテン |
障害 |
サンプル |
1 |
高い |
少ない |
やや少ない |
スカッフィング |
BFO-A,S-12,9,4 |
2 |
高い |
平均以上 |
多い |
燃焼不良 |
NYK-1,S-11,10,2,1 |
3 |
低い |
少ない |
やや少ない |
スカッフィング |
S-5 |
燃焼障害を予測するという観点から、燃料性状値の密度、硫黄及びアスファルテンに注目すると表1−2のような特徴は認められるが、障害を起こした燃料の一般性状に規則性は無い。過大摩耗は多くの場合複合要因が重なって発生しており、その中から燃料の燃焼特性に起因していると推測されるケースについて、表1−1に「燃焼の異常度」を数値で示してある。異常度2以上の燃料は、機関の設計、オペレーション上の対策、あるいはシリンダ油の品質等では障害を避けることができない可能性が高く、使用を避けた方が賢明である。また、異常度2未満であっても、FCC触媒が混入するなど複合要因があると過大摩耗を引き起こすので、注意が必要である。
以下、燃焼性を評価する試験法に付いて紹介する。