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ディーゼルエンジン燃焼室水噴射システム装置
株式会社 ナ ブ コ
1.調査研究の目的
 舶用ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物NOx(通常12〜17g/kW・h排出されているといわれている)は大気汚染の原因のひとつとして、その低減が求められている。具体的には、すでにIMOで船舶からの大気汚染防止に関する規制が採択された。
 このIMOによるNOx低減目標の数値を達成し、経済的負担の大きい触媒式の脱硝装置を使用しないシステム装置が求められることは必至である。これを実現できるのが、エンジン燃焼室に水を直接投入・制御する水噴射システムである。
 本調査研究では、NOx規制が具現化している外航船用の低速ディーゼルエンジン、および将来的に外航船より規制が厳しくなることが予想される内航船用の中速ディーゼルエンジンを対象として、水噴射システム装置に適した機器の仕様調査、構造の検討、設計・試作・試験を実施し、触媒脱硝装置に比べて経済的負担が少ない舶用ディーゼルエンジンNOx低減の水噴射システム技術の確立を目的に実施した。
2.実施経過
2.1. 実施項目
本調査研究では以下の項目について実施した。
[1] エンジン燃焼室への水噴射サイクル、噴射量、噴射圧力などの要件の調査
[2] 水噴射用機器の設計、選定、試作
i) 水圧、油圧ユニット
ii) 注水シリンダ
iii) 油圧制御バルブ
iv) 供給側、噴射側逆止弁
[3] 水噴射用機器の試験
i) 水噴射時間
ii) 水噴射量の制御および精度
2.2. 実施期間
開始:平成12年4月1日
終了:平成13年2月15日
2.3. 実施場所
実施場所:株式会社ナブコ 西神工場
3.実施内容
3.1. エンジン燃焼室への水噴射サイクル、噴射量、噴射圧力などの要件の調査
 本システムの適応として考えられるディーゼルエンジンについて調査を行った。NOx低減のためにエンジンの燃焼室に直接水を噴射することを想定し、水噴射サイクル、噴射量、噴射圧力など必要な項目を調査した。対象は外航船用の低速2サイクルディーゼルエンジンである。以下にその内容を記すとともに、燃料および水噴射タイミングについて想定したものを図1に示す。
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図1.燃料および水噴射タイミングの想定
[1] エンジン回転数:Max.74rpm
[2] 水噴射時間:エンジン最大回転時にクランク軸角度20〜25°として、45〜56msec
[3] 水噴射率:エンジン最高負荷から25%負荷までを考慮し、燃料に対して、最高噴射率60%の可変とした。また、荒天時などの急激な噴射率の変化については考慮しない。
[4] 水噴射圧力:水噴射弁の弁開圧力は10〜14.7MPa、加えて筒内圧力12〜14.7MPaより、水噴射ユニット出口で29.4MPa
3.2. 水噴射用機器の設計、選定、試作
 水噴射システムの概要を図2、油圧および水圧回路を図3に示す。また水噴射機器の仕様を記し、それぞれの機器についての設計、選定、試作について述べる。
仕様
[1] 最大水噴射サイクル:0.81sec/回(1.23回/sec)
[2] 水噴射時間:Max.45msec
[3] 水噴射量:116〜48mL(可変)
[4] 水噴射圧力:Max.29.4MPa
[5] 注水シリンダ駆動方法:油圧駆動方式
[6] 水噴射量制御方法:制御ストッパーの位置決めを油圧制御で行う
[7] 噴射部シリンダボア×ストローク:φ90mm×Max18.2mm
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図2.水噴射システムの概要
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図3.水噴射システムの油圧および水圧回路
3.2.1. 水圧、油圧ユニット
[1] 水圧ユニット
 供給圧力:5MPa、供給流量:40L/minとした。
 水噴射圧力の最高値は29.4MPaであるが、これは注水シリンダによる増圧の結果発生するものであり、水圧ユニットからの供給は後述の供給側逆止弁の弁開圧力と必要サイクルによる流量により決定した。
[2] 油圧ユニット
 供給圧力:25MPa、供給流量:70L/minとした。
 水噴射時間は45msecと短時間であるが、この間に必要な流量は最大約300L/minである。しかしこの流量は瞬時なので(デューティー比で約6%)大容量ユニットを用いることは無駄である。よって、アキュムレータによる蓄圧を利用して瞬時流量を得ることとした。
3.2.2. 注水シリンダ
 作動原理は、駆動用油圧を供給することにより、注水ピストンが右方へ移動し、面積比9:16により増圧された水が噴射される。注水シリンダヘの水供給時に注水ピストンが左方に移動し、その終端となる制御ストッパーの位置により一回の作動による噴射量が決定される。制御ストッパーは油圧により位置制御されており、各回の水噴射量を制御可能としている。
 注水ピストンの水側の直径はφ90mmとし、ストロークを18.2mm(実際の可動ストロークは20mm)とすることで、最大噴射量116mLを確保している。
3.2.3. 油圧制御バルブ
 油圧制御バルブは大きく分けて注水ピストン駆動用と水噴射量制御用の二つを用いている。これらそれぞれをユニット化し、制御を行うこととした。以下にその詳細を述べる。
[1] 注水ピストン駆動用バルブユニット
 このユニットは水噴射時の瞬時流量約300L/minを制御するものである。そのため、バルブユニットの圧力損失による流量減や、タイミング遅延をなくすために、充分な容量が必要である。今回はロジック弁を用いパイロット型とする構成とした。パイロット弁は電気信号による直接の制御流量が少なくて済むために、各回の応答時間の精度を向上させている。
[2] 水噴射量制御用バルブユニット
 このユニットは、制御ストッパーの位置制御に用いるものである。求められる条件は、応答性に優れ、保持時のリークが極力少ないことである。
3.2.4.供給側、噴射側の逆止弁
[1] 供給側逆止弁
 水圧ユニットから注水シリンダへ水を供給する側に付属し、注水ピストンを介して油圧により増圧された噴射水を水圧ユニット側に逆流させないことが重要である。
[2] 噴射側逆止弁
 注水シリンダからエンジン燃焼室の水噴射弁の間に付属し、一旦噴射した高圧水を注水シリンダに逆流させないこと、および、弁開圧力を水圧ユニットの供給圧力より高くしておくことで、水噴射弁の故障によるエンジン燃焼室への不意な水投入を防止することが重要な機能である。








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