3.8 電子メール自動送信ソフトウェアの作成
3.8.1 ファイル圧縮機能の実装
機関部の報告書は送信される時、電子メールに添付されるが、報告書をそのまま添付すると送信バイト数が多くなり、電話料金が高くなる。これを回避するため、ファイル圧縮を行った。ここでは、日本国内で最も多く採用されているLZH形式を採用した。
3.8.2 メールアドレス設定機能の実装
本調査研究では、船社の船舶管理体制の変更に即座に対応できるようにプログラム構成を計画している。その一例がこの電子メールアドレス設定機能である。機関部報告書の送付先が、日本から、海外に変わった時、新たな船舶管理会社の電子メールアドレスを設定する。これにより、船舶管理会社が、日本国内はもちろん、海外のどの国に変わっても、即座に対応できる。
3.8.3 メール送信機能の実装
メール送信には、マイクロソフトのOUTLOOKを利用することにした。OUTLOOKのインターフェースを取得して、送信トレイ(送信ボックス)に機関レポートを添付したメールを格納し、インターネットを通じて送信することにした。
3.8.4 障害監視機能の実装
船陸通信システムにおいて予想しうる障害について検討した。
障害種類 |
メール、回線への影響 |
対策 |
備考 |
1.船陸通信システム自体の障害 |
1.パソコンハードウェアの異常 |
メール作成、送信不可 |
ハードウェア修理 |
機関データロガには影響無し |
2.パソコンOSの異常 |
メール作成、送信不可 |
OSの再インストール |
同上 |
3.船陸通信ソフトウェア異常 |
メール作成、送信不可 |
ソフトウェア修正 |
同上 |
4.船陸通信ソフトウェア異常 |
回線切断不可 |
電話回線の強制切断 |
同上 |
2.外部装置の障害 |
通信途中での切断 |
メール送信不可 |
次のデータ送信時同送 |
  |
回線接続不可 |
メール送信不可 |
次のデータ送信時同送 |
  |
機関データロガ異常 |
メール作成、送信不可 |
機関データロガ修理 |
  |
・船陸通信ソフトウェア異常:船陸通信システムのソフトウェア自体に何らかの問題があり、メール作成後、送信のためにインマルサット回線を接続し、その後不具合になるケースが考えられる。この状態になると、電話回線が接続されたままになる。インマルサットの料金は、約400円/分であり、もしも回線が長時間接続されたままになったとしたら、本船に対して請求される電話料金は、非常な高額になる。
・電話回線の強制切断:通信時間監視機能を付加し、明らかに通信時間が長すぎると判定できる場合は、強制的に回線を切断するようにした。
3.9 船陸データ通信機能の検証
1) 試験項目
試験装置を使って得られた機能試験の結果は、以下のとおり。
試験項目 |
結果 |
備考 |
機関データロガデータ受信機能 |
良 |
パリティ設定を有り(偶数または、奇数)にした場合、受信データに文字化けが発生。原因特定できず。 |
自動作表機能 |
ヌーンレポート |
良 |
  |
定時記録レポート |
良 |
リアルタイムレポート |
良 |
送信ファイル圧縮機能 |
良 |
  |
自動メール送信機能 |
良 |
  |
2) 計測項目
試験装置を使って得られた計測データは、以下のとおり。
計測項目 |
送信ファイル圧縮率 |
送信時間(送信バイト数) |
インマルサット使用料金 |
備考 |
圧縮前のファイルサイズ |
圧縮後のファイルサイズ |
圧縮率 |
ヌーンレポート |
78kbytes |
25kbytes |
32% |
43秒(41k) |
296円 |
  |
定時記録レポート |
193kbytes |
45kbytes |
23% |
1分8秒(67k) |
444円 |
  |
リアルタイムレポート |
81kbytes |
25kbytes |
31% |
43秒(41k) |
296円 |
  |
注:1. 送信時間は、伝送速度を9600bpsとして計算。ネゴシエーション時間は、含まず。
2. インマルサット使用料金は、日本籍船から日本あて、通常時間帯として、37円/6秒として計算。ただしネゴシエーションは、含まず。
4.調査研究の成果
約9ヶ月にわたって、船陸通信システムの実用化への調査研究を実施してきたが、初期の目的は、おおよそ達成できたと思われる。機関データのデータロガからの受信、エクセルを利用した機関報告書の作成、ファイル圧縮、電子メールの作成、電話回線の接続、メール送信、電話回線の切断と一連の作業が、全く無人で出来るようになった。また、メール受信側でも特別なソフトウェアを用意することなくメールの開封、ファイル解凍、機関報告書の表示が簡単に出来るようになった。
船陸通信システムの構想そのものは、それほど難しいものではなく、少しこの分野に心得のある者なら、比較的簡単にシステムを構想できるのではないかと思われる。しかしながら、それを実現し、細部にわたって実用に耐えるものを作ろうとすると、かなりのノウハウ(即ち、どれだけ、立ち往生をして、頭をぶつけながら問題を解決したか)が要求されるのが、現実である。その点から言っても今回の調査研究で得られたノウハウは、少ないものではない。
船陸通信システムは、船内ITの一翼を担うと思われるが、ゆくゆくは、船内LANシステムに統合され、その船内LANと陸上を結ぶ掛け橋になると期待される。
以上