舶用エンジンの取扱説明書・電子化
株式会社 新潟鐵工所
1 調査研究の目的
船舶管理における世界の動向は、乗組員の多国籍化や船舶を運航する側に対するISMコード(国際安全管理コード)の強制化等に見られるように、従来からの本船管理に加えて陸主導の船陸一体管理の重要性がますます増大している。船社・船舶管理会社ではSMS(Safety Management System)を構築して、まさに船舶管理業務の改革に着手したところであり、そこでは“高度情報化”が大きなキーワードとなっている。船社側の枠組みの中には当然にエンジンメーカも含まれることになり、高度情報化への対応要望が今後強まることは想像に難くない。既に数年前から膨大な量におよぶエンジン取扱説明書の電子化が要請されているが、未だ取組には至らず、エンジンメーカにとっては差し迫った課題となっている。エンジンメーカとして取扱説明書の電子化に積極的に取り組むためには、電子化された取扱説明書(取扱説明ツール)の有償化が必要条件となる。しかし、この際に問題となるのが、有償に相応しい付加価値を生み出す1)優れた検索機能、2)トラブル・シューティング機能などの機能をどこまで実現するかのリファレンス(判断材料)が無いことであり、これは限られたコストの中で開発を行う限りは、重要な点となる。本調査研究は、このような状況に対して標準的モデルの試作を目的とするものである。
2 実施経過
2.1 実施項目
(1) 現状の製品取扱説明書体系の調査・分析
(2) 取扱説明ツールの文書構造および機能設計
(3) 取扱説明ツールの文書構造および設計内容の開発
(4) 取扱説明ツールの機能試験
(5) とりまとめ及び報告書の作成
2.2 実施期間
開始: 平成12年6月22日
終了: 平成13年1月12日
2.3 実施場所
株式会社 新潟鐵工所 原動機カンパニーIT部
株式会社 三菱総合研究所 ビジネスソリューション事業本部
3 実施内容
3.1 取扱説明ツールの作成方針
(1) インターネットによる利用
インターネットによる配信を前提とした、検索性と閲覧性が実現できることを目指した。したがって、取扱説明ツール全体はXML言語を用いて作成し、個々のコンテンツとしてPDFファイル等を用いている。
図面:PDF形式
静止画像:JPEG形式
動画:MPEG形式
また、インターネットによる利用と同時に、CD−ROMでの配布・利用も可能である。
(2) 利便性の向上
ア) 簡易なユーザインタフェースの追求
「異常時の原因と対策」機能では、様々な設問に対してYES/NOの回答でチャートを辿りながら、対処方法に至る“チャート形式”を採った。
イ) 事例情報の活用
例えば、保守点検を怠った結果発生した障害事例を掲載するなど、事例情報を組み合わせて、ユーザヘの利用訴求を狙った構成と目指した。
ウ) 部品発注・工事発注機能の付加
単なる取扱説明書の電子化に終始するのではなく、e−businessへの取り組みとして、本マニュアルの利用から連続した購入・依頼フォームを呼び出す仕組みを取り入れた。
(3) 閲覧性の向上
ア) カード形式の採用
ブラウザに表示できる情報量と管理する情報単位を、カード形式で整理した。
保守点検要領…点検項目単位(カード化)
異常時の原因と対策…異常現象単位(カード化)
パーツリスト…Figure単位
イ) ビジュアル性の追求
静止画像、動画像、CAD図面(PDF化)等を多用することにより、できるだけ視認性の高いビジュアルな内容となることを意図した。
3.2 保守点検要領の概要
(1) 検索方法
船上の機関士が通常に意識する“保守点検”の捉え方に沿って、以下の2通りの検索方法を用意した。
・系統(点検区分)、点検箇所による点検カードの検索(表1参照)
・運転時間による点検カードの検索(表2参照)
表1 点検区分、点検箇所の一管
他の系統として、「本体系統」、「過給機系統」を設けた。
表2 交換作業スケジュールの一覧
1) |
  |
4,000時間 |
2) |
  |
8,000時間 |
3) |
  |
12,000時間 |
4) |
  |
16,000時間 |
5) |
  |
20,000時間 |
6) |
  |
24,000時間 |
7) |
  |
28,000時間 |
8) |
  |
32,000時間 |
9) |
  |
36,000時間 |
10) |
  |
40,000時間 |
(2) 検索結果
検索結果として表示される「点検内容」は図1のようにカード化されており、その内容には以下の項目が含まれる。
1) 点検内容
2) 他の図書への参照
3) 事例カード(図2)への参照
各写真は「事例カード」内の写真(内容)とそれぞれが1対1で対応している。
図1 点検カードの例 図2 事例カードの例
3.3 異常時の原因と対策の概要
(1) 検索方法
異常現象は体系ごとに分類し、ユーザは該当する体系から検索する。
(2) 検索結果
「異常時の原因と対策」は、異常状態・異常原因・対策を一望できるツリーとして閲覧する。
また、対策には参照されるパーツリスト、参照資料をリンクさせる一方、メンテナンスサービスヘの誘導の仕組みを組込んだ。