舶用大型ボイラ用バーナの高性能化
ボルカノ株式会社
1.調査研究の目的
環境改善、特に地球温暖化防止の観点と、船価のダウンに伴うコストダウン要求から、ボイラの高負荷(短炎)化と省エネルギーのための高効率化、さらに同目的のためのワイドレンジ化(燃焼調節範囲を広くする技術)などが同時に求められている。
しかし、短炎化(燃焼火炎寸法を小さくしてボイラの高負荷燃焼を可能にする技術の一つ)やワイドレンジ化と低NOx、低ばいじん、低O2燃焼などとは、互いにトレードオフの関係にある。
このため、平成11年度の調査研究で、小型ボイラ用バーナについて調査を行い、これらのトレードオフの関係について研究し、解明を行った。
一方、小型ボイラ用バーナとは構造及び付属機器の異なる舶用の大型ボイラ用バーナにおいても、現状のボイラの大きさが、機関室、上甲板上の配置において常にネックとなっているため、小型軽量化及び高性能化が求められている。
本調査研究では、特に海外メーカとの競争から厳しい状況にある舶用大型ボイラ用バーナについて、主に「大型補助ボイラ用バーナ」(以下「Aバーナ」という。)および「LNG船大型主ボイラ用ガス油混焼バーナ」(以下「Bバーナ」という。)を対象に、短炎化、ワイドレンジ化と低O2、低NOx、低ばいじん等のトレードオフの関係を調査、解明し、高性能な舶用大型ボイラ用バーナを開発する資料を得ることを目的とした。
2.実施経過
2.1 実施項目
本調査研究は、現存する国内外の舶用大型ボイラ用バーナの構造、性能、技術等を調査し、それらの手法を参考に二種の異なる新設計のバーナを試作し、その有効性を確認し設計の妥当性を確認した。
(1)舶用大型ボイラ用バーナの性能把握に関する調査・解析
舶用の「Aバーナ」および「Bバーナ」について、他メーカで使用されているバーナの構造・性能等を調査した。さらに、燃焼に関する学術文献、書籍、パテントなどを調査した。
(2)舶用大型ボイラ用バーナの設計および試作
前項の調査、解析結果をふまえて、上記2種類のバーナを設計・試作した。
(3)舶用大型ボイラ用バーナの燃焼テスト・解析
上記2種類のバーナの燃焼テストを実施し、短炎化、ワイドレンジ化および低O2燃焼について、その結果の実用性を確認した。
2.2 実施期間
[1] 開始 平成12年4月1日
[2] 終了 平成13年1月25日
2.3 実施場所
ボルカノ株式会社 本社および三田工場
3.実施内容
3.1 舶用大型ボイラ用バーナの性能把握に関する調査・解析
(1)「Aバーナ」について
表1に、舶用大型補助ボイラ用バーナ「Aバーナ」における弊社バーナ(A1、A2、A3)と他社バーナ(A4、A5)の構造および性能を比較した結果を示す。「Aバーナ」開発における第一の目的であるTDR*1に関しては、A2とA4が15:1と他のバーナに比較して優れている。
A2は燃焼空気経路を二重スロートとし、負荷に対して一次側(内側)と二次側(外側)をダンパにて別々に調節していること、および噴霧蒸気圧力を差圧制御方式にすることによってTDR15:1を達成している。
一方、A4は、噴霧蒸気圧力を一定圧制御方式とし、燃焼空気経路は、二重スロート・二重スワラとしており、負荷低時における火炎の安定性および燃焼性を確保することによりTDR15:1を達成している。
これに対して、A1は噴霧蒸気圧力が一定圧制御方式、燃焼空気経路が単スロート・単スワラと制御面および構造面で非常にシンプルであるものの、現状では、TDR10:1、MCR*2燃焼時の空気比m=1.15(A2はm=1.1)であり、A2、A4に比較して、バーナ性能が劣っている。
従って、本開発の目標としては、制御面および構造面で非常にシンプルなA1型を採用しながら、低空気比燃焼(MCR燃焼時の過剰空気比m=1.1)とTDR15:1を達成することが目標となる(本開発品A3)。
注) *1:燃焼量調整範囲 *2:ボイラの最大連続負荷
(2)「Bバーナ」について
表2に、舶用大型主ボイラ用ガス油混焼バーナ「Bバーナ」における弊社バーナ(B1)と他社バーナの構造および性能を比較した結果を示す。B5(リング型ガスバーナを採用)を除き、バーナの基本形はマルチスパット型を採用している。
B1〜B4のうち根本的に異なっているのがガスの噴出方向である。空気の流れ方向に対して、平行タイプ(B1)と分散タイプ(B2、B3、B4)に分けられる。B2とB4はガスの噴出を内側、外側、周方向と分散させているが、B4は外周側のみに分散させている。このうち、B2は、燃焼用空気経路が二重スロート・二重スワラと少し複雑であるものの、低空気比燃焼(MCR燃焼時の過剰空気比m=1.1)、高TDR(15:1)と高性能を達成している。一方、B1(弊社バーナ)はB2と同じ性能を確保しているが、噴霧蒸気圧力を差圧制御方式としていること、B2よりも油・ガス混焼時に火炎が長いと推測されること、などの点で劣っている。
従って、本開発の目標としては、「Aバーナ」の開発目的と同様に、制御面および構造面でシンプルとしながら、低空気比燃焼(MCR燃焼時の過剰空気比m=1.1)とTDR15:1を達成しつつ、さらに、油・ガス混焼時に火炎を短くすることとした。
3.2 舶用大型ボイラ用バーナの設計および試作
以下に、本テスト機の基本設計を示す。
(1)舶用大型補助ボイラ用バーナ「Aバーナ」
[1] 試作機の仕様
バーナタイプ |
:SFVF−II−400(図1) |
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燃焼方式 |
:重油専焼 |
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使用燃料 |
:C重油 |
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通風方式 |
:強圧通風 |
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噴霧用媒体 |
:6kgf/cm2飽和蒸気 |
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燃焼量範囲 |
:143〜2150kg/h |
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MCR燃焼量 |
:1941kg/h |
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燃焼油圧範囲 |
:1.8〜23kgf/cm2 |
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点火装置 |
:パイロットバーナ方式 |
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[2] 要求性能(目標)
TDR |
:15:1 |
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空気比 |
:負荷15% m=1.3(O2=5%) |
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:負荷MCR(100%)m=1.1(O2=2%) |
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火炎サイズ |
:長さ×径=3.5m×2・0m以下 |
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ばいじん |
:バカラックスートナンバ3以下 |
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調査結果(3.1(1))に基づき、「Aバーナ」試験には、次の事項を採用することとした。
A. レジスタは、二重スロート方式や二次スワラ方式にすれば、コストアップや制御が複雑になる等の問題があるため、従来のレジスタ(ベンチュリー型シングルスロート、A1バーナ)を採用し、アトマイザ及び保炎器のみの変更で性能を確保する為の試験を実施する。
B. アトマイザ(図2)は、従来と同じく蒸気を噴霧媒体とする二流体噴霧を採用し、噴霧蒸気圧力を全ロードにおいて一定とすることによって制御システムの簡素化を計る。
C. 保炎器は、構造的には従来の軸流スワラタイプとするが、スワラヘのカーボン付着防止及び低燃焼時のスワラ中心部への燃焼空気供給補助のためにホッパ付(図3)とする。
(2)舶用大型主ボイラ用ガス油混焼バーナ「Bバーナ」
[1] 試作機の仕様
バーナタイプ |
:SFFG−II−430(図4) |
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燃焼方式 |
:重油専焼、ガス専焼、油ガス混焼 |
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使用燃料 |
:C重油、13A |
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通風方式 |
:強圧通風 |
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噴霧用媒体 |
:6kgf/cm2飽和蒸気 |
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MCR燃焼量 |
:1639kg/h |
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燃焼油圧範囲 |
:1.8〜23kgf/cm2 |
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点火装置 |
:イグナイタ方式 |
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[2] 要求性能(目標)
TDR |
:15:1 |
|
過剰空気比 |
:負荷MCR(100%)m=1.1(O2=2%) |
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火炎サイズ |
:長さ×径=3.7m×1.95m以下 |
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ばいじん |
:バカラックスートナンバ3以下 |
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調査結果(3.1(2))に基づき、「Bバーナ」試験には次の事項を採用することとした。
A. レジスタは、二重スロート方式や二次スワラ方式にすれば、コストUPや制御が複雑になる等の問題があるため、シングルスロートで、基本的には従来のレジスタ(シングルスロート、B1)を採用する。
B. アトマイザ部(図2)は、基本的には従来と同じく蒸気を噴霧媒体とする二流体噴霧を採用することとし、その制御の方法として、噴霧蒸気圧力を全ロードで一定とし、制御システムの簡素化を計る。
C. 保炎器部は、構造的には従来の軸流スワラタイプとして、スワラヘのカーボン付着防止及び低燃焼時のスワラ中心部への燃焼空気供給補助のためにホッパ付(図3)とする。
D. ガスノズルは、ガスの噴出方向、噴出本数等を考慮して設計・試作する。
3.3 舶用大型ボイラ用バーナの燃焼テスト・解析
(1)試験炉:
水平焚水冷式角形炉(幅1.8m×高さ1.8m×長さ3.5m)
最大燃焼量 約1000×104kcal/h
(2)燃焼空気供給装置:
ターボファン(300Nm3/min、400mmAq)
(3)使用燃料:
C重油、13A
(4)試験方法:
「Aバーナ」:
改良したアトマイザとスワラを数種類、設計・試作し、燃焼試験を行った。負荷として、7%(1/15)、15%、40%、60%の4点を選択し、データを採取した。この結果をもとに、所期の性能を達成できるよう、アトマイザ、スワラの設計を見直しながら、最適設計および組み合わせを模索した。
「Bバーナ」:
試作したガスノズルとスワラをBlバーナに取り付け燃焼試験を行った。アトマイザは従来と同じB1バーナ標準品を使用した。燃焼条件として、油専焼、ガス専焼、油・ガス混焼を行い、油・ガス混焼は、油/ガス比を変え比較を行った。