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まちのお医者さん最前線 12
川崎幸クリニック院長 杉山 孝博
すぎやま たかひろ
1947年愛知県生まれ、東京大学医学部卒業。川崎幸病院副院長を経て現職に。在宅の高齢者宅等を自転車で往診する銀輪先生として、また「ぼけの専門家」として地域医療に情熱を傾ける。
これからの医療のあり方を考える
 本連載の最後に今後10年間の医療の在り方を考えてみたい。十数年前から、医療における変化は確実に進行してきたが、キーワードをあげるならば、「サービスとしての医療の展開」「医療機関の機能分化と連携」「情報化とネットワーク化」「インフォームド・コンセント」「災害への対応」「在宅ケアの推進」「医療サービスの合理化と効率化」などであろう。
 「科学的な知識や技術に基づいて、健康や病気、障害など切実な悩みや要望を持つ人に対する、最も身近で直接的なサービスを提供するのが医療である」ので、医療機関も「サービス業」としての認識が求められる。サービス業の真髄は、サービスを受ける者の立場や都合がまず優先されることである。したがって、患者・家族の立場の理解や要望を受け止める姿勢が医療に必要となる。医療サービスの質の向上のみならず、快適な医療環境の整備・待ち時間の短縮・診察室のプライバシーへの配慮など、サービス業であれば当然と思われる気遣いが必要である。
 診療報酬の改定のたびに医療機関の機能分化の方向が明確になっている。高度機能病院、地域の急性期病院、診療所、慢性期を主とした療養型病床群など、それぞれの特徴を生かしながら連携することが今後の医療では特に重要になる。そのためには、医療情報のネットワークが必須となる。診療情報提供書などの文書による情報提供では内容が不十分で迅速性に応えられない。川崎幸クリニックが採用している電子カルテシステム(X線フィルム、紹介状・報告書などすべての診療情報が電子化されている)が将来有力な手段となると思われる。
 保健・福祉・医療の連携が以前から叫ばれているがまだまだ不十分である。障害者・高齢者問題はまさに、包括的な対応でなければ解決できないものである。ケアマネジャーなどが中核となってスムーズな連携が行われなければならない。
 糖尿病、高血圧症、脳卒中後遺症など慢性疾患では当事者の理解と努力が治療効果を決定づけるといっても言い過ぎではない。したがって、十分な情報の提供と、患者・家族により理解・同意、つまりインフォームド・コンセントが前提となる。カルテ開示の問題も含めて医療機関としては積極的に取り組むべきであると考えている。ところで、カルテ開示と言っても、手書きのカルテでは文字が読みづらく、メモ的に書かれている場合が少なくないのでそのまま開示されると誤解を招く可能性も少なくない。その点、電子カルテシステムでは患者も画面を見ながらカルテ記録が行われるので誤解が少ない。
 阪神・淡路大震災は、災害時医療体制の重要性を明らかにした。今後も起こり得る大災害に対して医療機関として普段から体制を整え、訓練を行う必要がある。限りある資源を有効に利用するために医療サービスの合理化と効率化も必須であろう。(了)








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