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介護相談員って何?
市民の視点でサービスの質向上に役立つ
利用者と事業者の「橋渡し」
さぁ、言おう!
介護保険をより良くしていくには市民参加が不可欠!
 「介護相談員」は市民自身が介護サービスの質向上に参加する先駆的な仕組み。それだけに介護相談員は明日の地域福祉の行方を左右、市民の視点から介護保険を生かすスーパーボランティアである。
 
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13年度は合わせて1191人が介護相談員養成研修事業(新人研修)を受講した
「介護相談員」は利用者のアドバイザー・代弁者
 介護相談員の仕事とは施設・在宅での介護サービスの利用者の「疑問や不満の解消を図るとともに派遣を受けた事業所における介護サービスの質的な向上を図る」(介護相談員派遣事業等実施要綱)こと。また「苦情に至る事態を未然に防止すること及び利用者の日常的な不平不満または疑問に対応して改善の途を探る」(同)ことである。告発型のオンブズマンではなく問題提起・提案解決型の“お助けマン“派遣事業。国の要綱に従って市区町村事業として施設等に派遣。研修負担金等は国が2分の1補助する。
 
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介護相談員は何よりもお年寄りたちの話し相手。わかりやすい大きな仮名文字の名札を付ける大牟田市の「あんしん介護相談員」(真ん中)
 いちはやくこの仕組みを地域福祉システムの中に取り入れた自治体の一つが福岡県の大牟田市。ここでは「あんしん介護相談員」と呼んでいる。その一人、石橋礼子さんを訪ねてみた。主な仕事は市内の介護療養型医療施設(療養型病床群)など2か所の施設を1か月に2回訪問すること。自宅からバイクに乗って15分。朝10時に施設に着くと、お年寄りがすぐわかるように、氏名を大きな仮名で記した写真付きの名札兼身分証明書を首からぶら下げてデイサービス・ルームに顔を出し、お年寄りたちに挨拶したり声を掛けたりしながら話を聞き相談を受ける。
 「とりあえず何でも話を聞いてあげるとお年寄りはスッキリするようです」と石橋さん。ひとわたり話を聞いたら居室を訪ねて回る。お相手するお年寄りの数は午後4時に引き揚げるまでに入居者60人、通所利用者40人の計100人。こうした定期訪問のほかに毎月1回の誕生日会、七夕、夏祭り、大牟田の風物詩「大蛇山」など施設が催すイベントや郷土行事に参加して施設の一員になることが最大の仕事だ。施設利用者の大半が痴呆性老人だけに気骨が折れるだろう。お年寄りと打ち解けるまでは「週2回も通って顔を覚えてもらいました」(石橋さん)。
 
大牟田市の介護相談員の相談内容
(2000年10月〜2001年3月、介護相談員11人の24施設相談実績)
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 施設職員でも家族でもないよそ者の闖入に最初は戸惑っていたお年寄りも、足しげく通えば次第に警戒を解き重い口を開く。たとえば「シャワー浴ではなく一般浴をしたい」という苦情を漏らすお年寄りには「自分で、そう言ってみたら?」とアドバイスしたところ要望が実現。「本人は「自分で言ってみてよかった」と涙を流して喜びました」(大牟田市介護保険課)。また施設の医者でなく以前にかかっていた家庭医にじょくそうの治療を望んでいるものの施設に気兼ねして遠慮していた入居者の悩みをそれとなく施設側に伝えたら「本人の希望通りになりました」と石橋さん。意思表示が困難で苦情や不満を言い出せない痴呆性老人も「何度でも同じ話に付き合っていれば時々本音を漏らしてくれます」(同)。
 施設側も「要望の内容が医療なのか介護なのかわかるようになった」(ある施設)と評価し、市も「仕事に追われてお年寄りの声に耳を傾ける余裕のない介護職員に代わって声を聴いてもらえるため施設スタッフの負担軽減になる」(介護保険課)という。
 大牟田市の「あんしん介護相談員」は石橋さんのほかに10人。市内11中学校区に1人の割合で配置され、グループホームを除く市内24か所の入居介護施設すべてに派遣され毎月連絡会を開いている。大牟田市介護サービス評価委員会と連携。市内介護サービスの質向上システムの一翼を担う。相談員はすべて公募。応募した30人から選抜されて研修を受け2000年10月から活動している。年齢は28歳から66歳。石橋さんのような主婦3人、資格は問わなかったがケアマネジャー、看護婦など介護の有資格者が4人、ボランティア活動従事者や「主夫」もいる。
「介護問題に関心とやる気を持ち、老人とのコミュニケーションができる人を選んだ」(市の話)。支給される手当は1人1か月2万円である。
さわやか福祉財団など市民団体が研修を実施市民の視点をいかに守るか
 このように「介護サービスの利用者と事業者の間の橋渡し役」(国の要綱)となる介護相談員を養成・派遣するかしないかは市区町村の判断。また介護相談員の受け入れは施設の自由である。だが、この事業に対する姿勢は市町村と事業者がどれだけ介護サービスの質の向上に真剣に取り組んでいるのかを知る目安となる。2000年度からスタート。広域連合、一部事務組合も含めて2000〜2001年度合わせて366自治体が相談員養成・研修事業を実施、併せて2140人が受講した。
 大牟田市など自前でやる先駆的な一部自治体を除いて実際の研修事業は、2001年度はさわやか福祉財団が国から受託して、福祉自治体ユニットとともに実施。また相談員のネットワークづくりの一環として昨年1月「介護相談・地域づくり連絡会」を立ち上げた。
 研修を終えた相談員の派遣事業のやり方は、[1]自治体直接型[2]運営委員会型[3]NPO委託型という3つのタイプがある。[1]タイプは大牟田市、[2]タイプは長崎県佐世保市があり、[3]タイプは静岡県富士市、神奈川県鎌倉市や埼玉県越谷市がある。このNPO委託型こそ市民が担う地域福祉ネットワークの拠点となるタイプ。市民の目線で介護サービスの質向上に貢献し、市民による市民のためのネットワーカーを全国に広げる可能性を秘めているからだ。
 
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越谷NPOセンターの介護相談員と代表の村田恵子さん(右から2人目)
 
 埼玉県では14市町村が介護相談員派遣等事業を実施しているが、そのうち越谷市は、県内で「介護保険サポーター」活動に取り組んできた越谷NPOセンターに事業を委託した。
 2001年8月に市と介護相談員派遣等事業の委託契約を結び、同センターが10月から6人の女性相談員を市内3か所の特別養護老人ホームに派遣している。NPOへの委託は富士市に次いで全国で2番目だ。
 
介護相談員の相談記録表の記入項目
 越谷NPOセンターの場合
1 相談日(年月日)、施設名、記入者
2 相談者・氏名、性別、年代、
相談回数(○回目)
3 相談者種別(本人、その他)、
痴呆の有無(有り、やや有り、無し)
4 本人の状態、要介護度、身体状況
5 相談内容
6 相談者への対応、施設への対応
7 感想、反省、備考等
 
 「相談員の派遣は施設側から見ると市の事業だが、私たちは市民としてやっています。行政の「監視」ではなく「市民との話し合い」で、不都合を改善していくというもの。そこにNPOがやる意義があるのです」と越谷NPOセンターの村田恵子代表は強調する。
 ただ全国的に見ると市民の視点による「橋渡し」は始まったばかり。この事業を実施している自治体は3200を超える全国の市町村のおよそ1割だ。また、相談員に施設の門戸を開くすべての事業者がこの制度の意義を認識しているとは言い難い。ある相談員は「私たち自身が警戒され、監視されているような雰囲気の施設もある。早くも訪問受け入れ回数を減らしたいという所もある」と打ち明ける。こうした誤解は制度普及に伴って解けていくだろうが、もっと大切なことは「市民の視点」か「専門職の目」か、あるいは「行政の代理人か」という問題だ。
 相談員に選ばれた人にはケアマネジャー、看護婦、介護福祉士、ヘルパーなど福祉関係の有資格者が多く、普通の一般市民はまだ少ない。自治体が民生委員を指名する市町村も多いようだ。
 従来福祉に通じている“専門家“の耳や目を借りて利用者の声を聞き、サービスを見守ることにも意味はあるだろうが、ここはやはり旧来のしがらみなどにまったく捕らわれないごく普通の一般市民の登場こそますます求められるところだろう。
東京で事例検討会入所者の86%が「相談員は必要」
 こうした中、今年1月24日、東京に300人もの介護相談員が日本中から集まった。介護相談・地域づくり連絡会が主催する介護相談事例検討会である。すでに介護相談員派遣等事業を実施している地域の介護相談員、相談員を受け入れている施設、そして派遣している自治体の担当者が一堂に会して活動事例報告を行い、コーディネーター役の菅原弘子地域ケア政策ネットワーク事務局長と堀田力さわやか福祉財団理事長が会場を埋めた相談員の生の声を引き出しながら、活発な質疑応答と実践に基づく情報交換を行った。
 幕開けを飾ったのは堤修三厚生労働省老健局長の講演。「皆さんの日常的な活動が介護サービスの質を確保するさまざまな手段の“行間“を埋める」と、その役割を示し「相談活動の延長線上で地域づくりの担い手になってほしい」と期待をかけ、介護相談員こそ「スーパーボランティア」だと激励した。
 相談員の一人、静岡県磐田市の岡田眞理子さんは施設サービスだけでなくいち早く在宅サービスの相談も実施していると報告した。磐田市では5人の相談員が18の事業所を訪問しているが、そこには5つの訪問介護事業所と一つの訪問看護ステーションが含まれているという。事業者と密接に連携しながら在宅訪問を実施する活動をフローチャートを示して説明した。
 
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バランス感覚ある地域の消息通として福祉のまちづくりに参加を
堤修三厚生労働省老健局長の話
 全国3200余すべての市町村で介護相談員事業の実施を義務付けるべきだという意見を聞くが、この事業は市町村が本来の役割としてやるべきことであり、国はある程度の軌道に乗るまで補助をしていく。また相談員受け入れを施設の自由に任せず義務にすべきだという意見もあるが、受け入れは信頼関係があってこそできるもの。「あそこは相談員を受け入れている」という情報も施設選択の判断材料になる。事業者、行政、利用者・その家族の三者のバランスを取るという相談員の立場は確かに難しい面がある。だが、それをしてこそ最終的なメリットを利用者本人が受けることができる。世界に類を見ない画期的な制度であり、介護相談員は地域で一番バランスの取れた福祉の消息通として、ぜひ福祉のまちづくりの担い手になっていただきたい。
スーパーボランティアのネットワーカーとして期侍される役割
 注目されたのは佐世保市の老人保健施設サクラ副施設長・土井直子さんが発表したアンケート結果。相談員を受け入れたことによる入所者の反応である。68.9%が「介護相談員と話したい」と答え、76.5%が「話を十分聞いてもらえた」という。また43.2%が「自分の意見を伝えたり、要望を出せたりした」と回答し、86.3%が「介護相談員は必要」だと思っていることがわかった。大牟田市の白川病院は相談員を受け入れた結果「多くの職員が家族や利用者の考えや意見が以前より耳に入るようになった。また、第三者に違った目で見られているということで、気構えや緊張感が得られ良い結果になった」(細谷公医事課長)と報告した。
 
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1月24日に行われた事例検討会から。各地の活動実績が報告された
 
 静岡県藤枝市では、介護相談員が同市介護福祉サービス苦情救済委員(略称オンブズパーソン)と連携。オンブズパーソンの弁護士と大学教授が相談員の相談相手になったり悩みを聞いたりするバックアップ体制も整えている。市民運動の歴史が長い京都市の場合、市は相談員事業を「自発的な市民参加型の活動」と位置づけ、訪問日や活動時間は相談員に任せている。「市民感覚を優先。将来は全く第三者的にやったほうがいい」(川市修司介護保険課長)。
 人は誰でも望む地域で最後まで心豊かに過ごしたい。そのためには、介護保険だけでなく、日々の暮らしの中で様々なサービス、心のサポートがうまく地域内で連携して提供されることが不可欠だ。利用者本位でそうした橋渡し役、ネットワーカーとなれるのは市民しかいないだろう。“スーパーボランティア“としての介護相談員にはそのための大きな期待がかかる。
 介護保険は市町村の知恵比べ。介護相談員の位置づけも地域らしさがうかがえる。そして市民参加はまさに自治体の手腕如何だ。いかに真の意味で市民の力を活用できるか、高齢社会を支え抜く仕組みづくりの最大の課題である。








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