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今、心の教育を考える
ペンフレンドは70歳
町ぐるみで支える学校のボランティア活動・体験学習
山口県鹿野町立鹿野中学校
「ペンフレンドは70歳」より抜粋
 「Sさんは70歳。神戸で会社員をしている息子さんがおられるそうだが、「一人暮らしは淋しい」と書いてあった。息子さんは将来鹿野で川魚を育てる仕事がしたいといっておられるようで、今Sさんはこれを実現する準備をされている。手紙が届く毎に準備が進み、息子さんが帰ってこられる日を心から楽しみにしておられることがよく分かる。来年の春、私は高校生になって鹿野の外にも私の世界は広がっていくことだろう。しかし、私はSさんと出会ったことを大切にして、これからも文通を続けて行きたいと思っている。ちょっと不便な町だけれども、お互いに支え合う地域の中の交流がある鹿野町は素敵だと私は思っている」
 
 中国山地の山間の町、鹿野町。少子化の中で、子どもたちを大切に育てようという町全体の雰囲気は、学校教育への協力体制という形で現れている。実は鹿野町は、平成9年度から12年度まで地域として道徳教育の指定を受けた。保護者や地域の協力のもと、道徳教育を中心に据えて、鹿野中学校は生徒の心を育む研究を続けてきた。
 町には小学校、中学校、高校が一つずつあり、それぞれにボランティア活動が活発に行われている。中でも鹿野中学校では、道徳の読み物教材を読むだけに終わらせず、討論し、行動に結びつけている。手紙による心の交流「心温まる手紙」の活動もその一環。年に一度のこの活動は、一人暮らしのお年寄りに手紙を出そうという生徒会の親善委員会の企画によるもの。手紙の配達は高齢者のための配食サービスのボランティアの方々が担う。それ以外の分の郵送料は社会福祉協議会が負担する。これをきっかけに卒業後も文通を続けている生徒がいる。お年寄りにとっては生きがい、生徒にとっても年齢に関係なく心通わせる大切な友となっている。
赤ちゃんを抱っこする未来のパパ? かなりなついてくれた?
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特別養護老人ホームを訪問。 1対1でお年寄りの相手をする生徒たち
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 この活動を書いた作文「ペンフレンドは70歳」(冒頭ご紹介)が、同じ山口県内の防府福祉医療専門学校で募集する福祉作文コンクールで平成12年度の中学生の部最優秀作品に選ばれた。これは夏休みの課題として、様々な外部の賞の中から生徒自身が選んでそれぞれ応募している中の一つだ。親善委員たちもこの先輩の快挙を誇りにして活動に励んでいる。
 「老人ホームや病院にパート勤めをしている母親が多く、あのおじいちゃん、こんなことできるようになったんよとか、おばあちゃんがにこっと笑ってくれたんよとかうれしそうに話すんです。そういう会話が家庭で普通にある。生徒たちはそういう話を聞いて自然と心が育つんでしょうね」と話す尾野本洋文教頭。
 「赤ちゃんふれあい体験」では、町の母子健康センターの保健婦さんの指導のもと、妊婦疑似体験や妊婦さんのおなかに手を触れたり、赤ちゃんをだっこしたりといった体験をする。中学生に赤ちゃんを触れさせることができるのも若い母親の協力があってのこと。ふだん荒くれている男子もこの体験ではやさしい笑顔をのぞかせる。また、お年寄りから技術の伝承をするふるさと体験では、手も足も使って真剣に取り組む姿がある。できたときには一緒に喜び、また格別な笑顔を見せる。子どもたちを町の宝としてみんなで大事に育てようというやさしさあふれる鹿野町。
 「こういう体験やボランティア活動で笑顔が生まれ、学校が幸せになっていければいいと考えているんです」と語る臼杵裕世校長の言葉に研究だけに終わらせないという学校の気概を感じた。
取材・文 川尻 富士枝








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