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一人暮らしの「自助努力」とまわりの支援
 佐敷町には一人暮らしの高齢の人たちが数多くいる。「ただ、連帯感の強い土地柄ですから、近くには親戚や友達がいるし、子どもは遠くに住むといっても島の中なら2時間あれば駆け付けられる距離なんです」と高江洲さんは、一人ひとりのケースを思い出すように言う。まずはとにかく町の自慢の元気な高齢者の皆さんの話を聞こうと町内を回ってみる。「県民性なのか、ここらへんの人の特徴なのか、取材に行くと言うと遠慮したり固辞したりするから、ともかくみんなのいそうなところに行ってみましょう」と、突撃取材となった。
「はまじんちょうの里」にて
 「手芸教室や陶芸の日は多いですが、今日はこんな感じ。曜日や顔ぶれによって臨機応変にその日の時間割で過ごしています」。まず誘われて訪ねたところは、佐敷町初のケア付き宅老所「はまじんちょうの里」。開設者である代表の玉城千代子さんは、住み慣れた地域で一人ひとりの体調や環境に合わせたケアができるのでいい、とやさしい笑顔を絶やさない。27年前、玉城さんが大阪から嫁いで来たとき、親切にしてくれた人たちへの恩返しの気持ちもあるという。沖縄は、地縁血縁の濃い土地柄であっても不思議と排他性はないのが特徴だという。ツーリング中に立ち寄って気に入り住み着いてしまった、という若い人たちも受け入れるおおらかさがある。
 玉城さんは「みな明るいのですが、もちろんそれぞれいろいろな事情を抱えています。血が濃いだけに人間関係も複雑だったり経済的な問題もある。町もお年寄りを孤独にしないように頑張っていますが、どうしてもそこから漏れてしまうケースもあり、このようなささやかな場所も必要なのだと思っています」とその思いを語る。この日集まって手仕事をしていた人たちは異口同音に、外出先があってよかった、みんなが集まれる所があってよかった、と話す。お互いに情報を交換し合い、たとえば月曜日は野菜集荷所は休み、○曜日はどこそこで何時からどんな集会がある、老人センターでは今度何があるということを承知している。お仕着せではなく、出向くところを高齢者自らが選べる自由がある。それが気分的な余裕につながっているのかもしれない。とにかく皆さん、お元気だ。
 
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地域のお年寄りたちのいこいの場、「はまじんちょうの里」。
お茶の時間もみんなでにぎやかに
 
トモさん(86歳)
 「この家には学校帰りによく寄ったので懐かしい。潮が引くと学校から真っ直ぐ海を歩いて近道。週に3回はここに来て、リサイクルのものづくりをしたり、体操して体を動かしたり、友達とおしゃべりしたり。水曜日は教会の聖書の勉強会、日曜日は礼拝、1回は別の老人会に行くので、毎日出かけている」
 
ウシさん(85歳)
 「名古屋の紡績会社の社宅に長く住んでいたが、佐敷に帰ってきた。宅老所に来てみたら社宅で顔を合わせたことのある人がいたのでびっくり。楽しいので曜日を決めて来ている」
 
タキさん(91歳)
 「町主催の老人クラブの集まりにもよく行くけど、ここはゆっくりご飯をいただいて食後ちょっと横になったりもできるし、気ままにできるのでいい。保健婦さんの来るときは血圧を測ってもらえるし、体操も楽しい」
 
 また別の地区公民館では老人クラブのクラブ活動の一つ、スポーツ部会を見学した。朝10時から3時までゴルフ、ボウリング、ゲートボール、三角ボードなどという充実した時間割。腕自慢の人たちの集まりは、高江洲さんによると「体育会系のクラブ」のようだった。「介護保険の認定外のお年寄りがたくさんいて、農作業したり家事をしたり現役で生活している。その人たちの努力と、それを支える人たちに報いたいという気があります。長生きはいいな、と思えるようでないと」という声が弾む。
 
カジマヤーのお祝いを済ませたヒデさん(99歳)
 毎日、メガネをかけずに新聞に目を通す。90歳のとき洗濯物を取り込もうとして転んでから杖をつくようになったが、朝の散歩は欠かさない。門扉の開閉、郵便物の取り込み、庭の門灯の点灯など、家を出たり入ったりする。200メートル離れたところに95歳の妹が住んでいるのでほぼ毎日訪ねる。この辺では97歳で「カジマヤー」というお祝いをする。2年前は華やかな黄色の着物で車に乗り町内をパレードした。
 
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カジマヤーの晴れ着姿のヒデさん、97歳の時。右は4歳下の妹さん

ゲートボールはいつも優勝候補の千代さん(91歳)
 伝統的な沖縄の家の構造は平屋でぐるりと縁側があり、風通しよくできている。風も通るが人も通り、濡れ縁に腰掛けて話をするようになっていて特に玄関がない、という。千代さんの家の周囲はきれいに草抜きされた芝生で囲まれ、台所から畑に出られるようになっていた。ここで、きゅうり、にんじん、きゃべつ、かぼちゃなどを栽培する。夜は9時ごろ眠くなってしまうので寝る、でも朝は早く起きて散歩する。「朝の空気は上等です」と静かに話す。
 ゲートボール大会で金メダル3個、銀、銅が1個ずつなのは「始めてばかりのころ金が取れなかった」から、という。同年配の競争相手がいるので、結構本気でプレーする。週3回の練習だが大会が近づくと毎日になる。この日も3時から特別練習がある、と出かけるところだった。とにかくお元気である。
 
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高江州課長さんと千代さん
お節介と無関心との中間…
 もう一人の一人暮らし、キクエさん(93歳)の家を訪ねてみると、50代の男性が軽トラックから下りてきて「ひざが痛いというんでちょっと入院した。すぐに帰ってくる。退屈しているから見舞いに行くと喜ぶよ」と言う。高江洲さんに「あれはどなたですか?」と聞くと、「さあ、わかりません。親戚の人か近所の人か、この辺ではあまり気にしないんですよ」との返事。なるほどおおらかだと感心した。ここでは、高齢だからとちやほやされることもなければ、忘れ去られることもない。
 お節介は止めてと思うか、無関心でいられて寂しいと思うか、自立はするけれど孤立せず、という態度を貫くのは難しい。が、ここではそのバランスがほどよく自然に保たれている。








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