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まちのお医者さん最前線 11
川崎幸クリニック院長 杉山 孝博
すぎやま たかひろ
1947年愛知県生まれ、東京大学医学部卒業。川崎幸病院副院長を経て現職に。在宅の高齢者宅等を自転車で往診する銀輪先生として、また「ぼけの専門家」として地域医療に情熱を傾ける。
在宅緊急支援システムの必要性
 
 介護保険に移行してから2年近くが経過しようとしている。在宅サービスを充実させて、住み慣れた環境の中で安心して療養できるようにもっていくことが介護保険の大きな目的であるが、在宅サービスよりも施設サービスヘのニーズが多いという傾向が見られる。
 高齢者世帯の増加に伴う介護者の高齢化・孤立化、要介護者の状態の重症化、在宅サービスの量的・質的不十分さ、入所サービス自己負担の軽減など様々な要因をその背景としてあげることができよう。
 さらに、緊急対応の不十分さも在宅ケアを困難にしている理由としてあげられると思う。
 筆者が訪問診療している介護者から、「身内が危篤状態のため駆けつけなければならないのにショートステイがどこもいっぱいで利用できない。どうしたらよいか」という相談があった。ケアマネジャーが懸命に探したが見つからなかったという。このような経験をすると自宅での介護を続けるのが不安になるものである。
 精神的にも身体的にも負担の多い介護を担っている介護者が病気になったり、用事ができたりして急に介護ができなくなることが少なくない。筆者の経験でも介護者が病気になり死亡したケースが昨年1年間で5ケースあった。もちろん死亡に至らないで入院したケースもかなりあった。在宅ケアでは、患者本人のみでなく介護家族の健康状態の把握と、緊急援助が必要になることがしばしばである。24時間いつ起こるかもしれない事態に対処できるという安心感がなければやはり在宅ケアの継続は困難となろう。
 急に病気になったらどうしようと深刻に悩んでいる人は少ない。それは、救急医療体制ができていて何かあっても119番に電話すれば救急車が適切な病院に連れていってくれて診療を受けられるという安心感が背後にあるからである。もし救急医療体制が整備されてなくて、日本中の医療機関が午後5時になったら入り口のシャッターを下ろして、その後死にそうな人が来ても明日午前9時に来てくださいと言うようになったらパニック状態になることは明らかであろう。たとえ救急病院が診療をしていても救急車による緊急搬送システムがなければ、当直医の専門はなにか、空床があるかないかを毎日確認しないと安心できなくなるだろう。
 在宅ケアでは緊急への対応はほとんどできていない。逆に、介護が急に困難になっても119番と同じように、たとえば120番に電話すれば地域ケアセンターから車が来て緊急ショートステイが受けられるなら、在宅ケアの大きな不安は解消すると思われる。
 救急医療と同じように、在宅ケアにおいても在宅緊急支援システムを作っていかなければならない。








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