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市民のための シリーズ・介護保険
要介護認定の仕組みの見直しは進んでいるか?
 さぁ、言おう!
 痴呆性高齢者の実態を反映した判定方法への見直しを
 
 介護保険は、どの要介護度に認定されるかで利用できるサービスの額が決まってしまう。適正な認定に基づくサービスの給付が原則だが、制度開始当初から問題になっているのが痴呆性高齢者の認定が低く出てしまうこと。これまでの現状を改めて振り返りながら、現在、水面下で進んでいる認定方法の見直しを追った。
初めに認定ありき
 介護保険で介護サービスを利用するためには、まず要介護認定を受けなければならない。要介護認定とは介護が必要な状態かどうか、また介護の手がどの程度必要か(要介護度)を判定するもので、審査の結果は自立、要支援、要介護1〜5のいずれかに認定される。
 要介護度によって在宅で受けられるサービスの額や施設に入った場合のサービスの額が異なり、合計の限度額も決められている。要介護度が重くなるほど限度額が増えるため、在宅サービスを十分に使いたい人にとっては、どのランクに認定されるかは大きな問題だ。もちろん限度額を超えてサービスを利用してもよいが、超過分は全額自己負担が必要なので、より高い限度額すなわち重い認定を期待する傾向がある。
 たとえば、要支援の限度額は6万1500円で、週2回のデイサービスが利用できる水準だ。これが要介護1になると限度額は16万5800円となり、訪問介護やデイサービスなど毎日何らかのサービスがさらに多く利用できる。認定が1ランク違うだけで、大きな差が出るのが実際だ。(次頁表「要介護度の目安」利用できるサービスの目安と利用限度額参照)
 この要介護認定について、利用者やその家族からの不満が後を絶たない。とりわけ多いのが痴呆の高齢者を在宅で介護する家族からの不満で、「認定が軽いため、十分なサービスが受けられない」という切実な声があちこちから聞こえてくる。
 千葉市のある主婦Aさん(53歳)は「痴呆症の義母を24時間介護しています。どこでも失禁しますが訪問調査の時に頑張ってしまうので認定は要介護2。これではサービスがとても足りません」と悲鳴を上げる。
複雑な認定の仕組み
 なぜ痴呆の高齢者の認定が低く出てしまうのか。それはそもそもの認定の仕組み上の問題で、実はこの問題は介護保険の開始当初から指摘されてきたのはご存じの人も多いだろう。いざ認定作業が始まってみると、在宅の痴呆性高齢者の多くが低いランクで認定されてしまい、その結果、介護保険以前には利用できていた在宅サービスが利用できなくなるというケースが続出したのだ。「これではとても在宅では看きれない」という主婦Aさんの例もこれだ。
 問題となったのは、専門家ばかりでなく現場の担当者も指摘する「1次判定ソフト」の欠陥である。1次判定ソフトとは、認定の判断材料となる認定調査票のデータをコンピュータに入力して要介護度を出すソフトだが、まず1次判定を含む認定システム全体について説明しておこう。
〈要介護度の目安〉
〜利用できるサービスの目安と利用限度額〜
  利用できるサービスの目安 1ヶ月の限度額
自立 介護保険のサービスは受けられないが、市町村独自のサービスを受けられる場合がある。 (給付なし)
要支援 要介護状態とは認められないが日常生活上の支援を要する状態。訪問介護やデイサービス、デイケアなど介護保険のサービスを利用し始めることができる最軽水準。ただし施設サービスを選ぶことはできない。 61,500円
要介護1 歩行、立位保持、立ち上がり等に不安定さが見られ、生活の一部に部分的介護が必要な状態。毎日何らかのサービスが利用できる水準。 165,800円
要介護2 歩行、立位・座位保持、立ち上がりなど自力ではできない場合が多く、排尿・排便後の後始末の間接・直接的な介助、入浴に関連する一部介助または全介助を必要とする場合が増加する。週2〜3回のデイサービス・デイケアとホームヘルプを3〜5回程度組み合わせて利用できる水準。 194,800円
要介護3 排泄、入浴、整容、衣服の着脱などに全介助が必要になることから、夜間または早朝の巡回訪問介護を含め、1日2回のサービスが利用できる水準。痴呆についてはかなりの問題行動が見られることから、ショートステイなども含めたサ一ビスの組み合わせ方に個人差が大きくなってくる。 267,500円
要介護4 日常生活を遂行する能力がかなり低下し、排泄、入浴、整容、衣服の着脱などの全般について全面的な介助が必要になることから、夜間または早朝の巡回訪問介護を含め、1日2〜3回のサービスが利用できる水準。痴呆については問題行動がいっそう増えることから、モデルケアプランとして週5回のデイケアやデイサービスを含め、毎日サービスが利用できる水準。 306,000円
要介護5 過酷な介護を要する状態。日常生活を遂行する能力が著しく低下し、生活全般にわたって全面的な介助が必要になることから、早朝と夜間の巡回訪問介護を含め、1日3〜4回のサービスが利用できる水準。 358,300円
 
 介護保険を申請すると、市町村の職員や、市町村から委託を受けた介護支援事業者等が訪問調査に訪れ、認定調査票に基づいて聞き取り調査をする。調査は日常の生活についてなどを調べる73項目と特別な医療についての12項目の計85項目からなる調査と、調査員が個別に介護上の問題等を項目別に記す特記事項からなる。
 これと同時に市町村は申請者の主治医に意見書を作成してもらう。意見書は申請者の疾病、特別な医療行為、心身の状態、介護に関して主治医の意見を記すものだ。
 訪問調査が終ると、認定調査票の基本調査のデータはコンピュータに入カされ、介護の必要度を測るモノサシとなる介護にかかる時間の推定を行う。この時間の多寡によって、自立、要支援、要介護1〜5の7ランクのいずれかに判定される。これが1次判定である。
 次に行われるのが介護認定審査会による審査だ。審査会は保健・医療・福祉の専門家5人程度で構成される合議体で、ここで[1]1次判定の結果、[2]認定調査票の特記事項、[3]主治医の意見書を参考にして最終的に判定する。これが2次判定で、ここで確定した要介護度を市町村は申請者に通知する。
1次判定ソフトの問題
 それでは、1次判定ソフトでなぜ痴呆の要介護度が低く出てしまうのか。
 前述したように、1次判定では調査データをもとにコンピュータで介護にかかる時間を推計する。そのために、7つの群に分けられた中間評価項目の得点算出を経て5つの分野に分類された介護の要素ごとに「要介護認定基準時間」を求める。5分野は次頁表の通りだが、1次判定ソフトの問題は特にこのうちの問題行動関連介助にかかわる要介護認定基準時間が少なく出てしまうこと。
 具体的にいうと、認定調査票で痴呆の問題行動についてチェツクする項目は19あるが、この領域の項目がいくら「問題行動あり」でも要介護認定基準時間はあまり変わらない。つまり、痴呆の問題行動は介護にかかる時間にほとんど反映されていない、
 この点について、埼玉県のある自治体担当者は「実際にコンピュータに問題行動の部分を入力してみるとわかりますよ。もっと不思議なのは、痴呆が進んで問題行動が増えているのに、逆に介護にかかる時間が少なく出てしまうことがある。だから、この部分で申請者が不利にならないよう調整したり、特記事項に問題行動を詳細に記して2次判定でランクアッブするよう考慮しています」と証言する。
 1次判定ソフトのもう一つの問題は、介護度を決めるモノサシとなる要介護認定基準時間そのものが、「施設介護サービス」のデータをもとにはじき出されたものであること。特別養護老人ホームや老人保健施設等に入所している3400人を対象に、その心身の状況と提供された介護サービス時間について、48時間にわたって調査して得られたデータに基づいており、在宅での介護の状況はまったく反映されていないのだ。
要介護認定の調査における5つの分野
(介護の必要度の判断分野)
  内容
直接生活介助 洗顔、更衣、入浴、排泄、食事、寝返り、起居、移動など身体に直接触れて行う介助
間接生活介助 衣服等の洗濯、掃除等の家事援助など身体に直接触れないで行う介助
問題行動関連介助 俳徊したり、便をいじる不潔行為などに対する後始末など
機能訓練関連行為 寝返り、起き上がり、歩行等の身体機能の訓練やその補助
医療関連行為 呼吸管理やじょくそうの処理等の診療の補助など
水面下で進む見直し
 各自治体でもこうした1次判定のずれを2次判定で調整するなど独自の対応がなされてきたが、国も介護保険が実際にスタートした一昨年、8月から、厚生労働省が要介護認定調査検討会を設けて、認定方法の見直しに着手している。調査検討会は保健、医療、福祉、数理統計学の学識経験者12人からなり、この検討会の重点課題は、[1]痴呆性高齢者を適正に認定するためのプログラムの見直し、[2]在宅介護の実態を反映した判定データの見直し、の2点である。
 これまで8回の話し合いを重ね、介護実態をより正確に把握するために、2001年2〜3月に高齢者介護実態調査の施設調査を、5〜6月に在宅調査を実施した。施設調査は1分刻みで、また在宅調査は10分ごとに介護の内容を細かくチェックし、その結果を解析して判定に利用することを検討している、
 実態調査の中で併せて実施した高齢者状態票には、認定調査票の85項目に加えて、これまでの検討会で必要性が指摘されてきた「食事の用意」「電話の利用」「移乗」「車イスの操作」「日常の意思決定」など「日常の行為に関する19の項目」が設けられた。
 また、2001年9月には、この19項目からピックアップした9項目を追加した認定調査を全国の市町村で試行し、調査項目の追加が判定にどのように影響するかを精査し始めている。厚生労働省では「今年度中に調査の分析を終える予定で、その結果をどのように判定方法に生かしていくか、来年度からは調査検討会で具体的なプログラムの改定に入りたい」(老人保健課介護認定係)としている。
東京都では独自の手引きを作成
 実態に合わない認定にたとえば千葉県我孫子市では、「痴呆の認定は要介護3を基準とする」という独自の審査基準を設け、現在もこれに基づいた認定を行っている。また、山口県玖珂郡医師会では独自に設けた認定審査会委員会で、国の認定基準を補整するマニュアルを作成した。痴呆に伴う問題行動については介護の手間として介護時間に換算できるようにして介護にかかる時間を底上げするもので、この結果、痴呆の高齢者の要介護度は一様に高くなった。
 そもそも国が認定の仕組みをつくった狙いは、全国共通のモノサシで審査と認定を受けてもらい、公正かつ公平な保険給付を行うことにあった。このため、介護保険がスタートした当初は国が設けた基準以外の方法で認定作業を行うことを認めず、我孫子市に対しても厳しい態度で臨んでいた。しかし現在は、見直し作業の進展とともに厚生労働省の対応も変化し、1次判定を否定するのではなく補正するものであれば、市町村のさまざまな試みを認めるようになっている。
 ただ、ここで問題になるのが、痴呆性高齢者の適正な認定をめざして取り組む市町村とそうでない市町村との間に生じる格差である。補正作業に取り組む市町村の利用者が結果的により多くのサービスを受けられるという状況も十分考えられる。
 昨年11月、東京都は痴呆性高齢者の認定を適正に導くための「認定調査の手引き」を作成し、都内・都下の介護保険担当課に配布した。手引きは痴呆症を正しく理解するための解説、調査の留意点、特記事項の書き方などきわめて具体的で、まずは調査の段階で痴呆を見逃すことのないよう配慮した内容だ。手続きは要介護認定の仕組みの見直しという課題そのものを解決するものではないが、それが新聞報道されると各地から問い合せが相次ぎ、痴呆の認定に苦慮している市町村が多いことをうかがわせた。
 厚生労働省の新しいプログラムによる認定作業が始まるのは来年、2003年4月の予定。同省は「また認定方法を見直すということのないように時間をかけて検討する」(介護認定係)という考えだが、それまでの1年余りの間にも市町村間で判定方法によってサービス格差が生じていく。「在宅の暮らし」を支えるという介護保険本来の目的に合致させるためにも、サービスを必要とする痴呆性高齢者が増えている今、早急に改定案に基づくモデル事業を実施するなど、新しいプログラムの大枠を示すことが求められている。
要介護認定調査検討会のメンバーで日本社会事業大学教授・社会事業研究所の村川浩一さんの話
 要介護認定は介護保険が始まる前年の10月から行われています。丸2年が経過して明らかになった問題の一つは、1次判定のプログラム周辺の見直しです。寝たきりではない痴呆性高齢者へは必要な身体介護や見守りが求められますが、どんな具体的ケアがこれに対応できるのか、また見守り等をうまくプログラムに反映できるのかが検討課題になろうかと思います。
 見直しはあくまでプログラムの部分的な改良という枠組みの中で、認定調査票に何項目かを追加して、痴呆性高齢者の日常の行動や行為を的確に把握する内容へと変わるでしょう。
 認定をめぐるもう一つの問題は、2次判定の進め方です。1次判定の結果に基づいていかに適正な判定をするか、数ある申請をいかに効率よく審査していくかという課題です。
 2次判定では「状態像の例」から介護の手間が同程度または類似の例を選び、その該当する要介護度を最終判定としますが、「状態像の例」は要支援から要介護5まで要介護度別にそれぞれ10パターンしか用意されておらず、痴呆性高齢者を表す状態像の例は少ないのが現状です。今後、痴呆に配慮した状態像が新たに開発・提示されるのかどうか、このあたりも痴呆の認定を公平に適正に行うために必要な議論になると思います。
さわやか福祉財団の活動はJリーグにも支えられています
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 去る12月10日(月)夜、横浜アリーナにて「2001Jリーグアウォーズ」が盛大に開催されました。全国5000人のサポーターが参加し、ベストイレブンはじめ年間の各賞が発表された式典会場壇上にて、川淵三郎チェアマンからさわやか福祉財団の堀田力理事長に温かいこ支援の意を頂戴しました。Jリーグさんからは当財団活動開始直後から理念に共感いただき毎年多額のご寄付をお寄せいただいています。
 関係者の皆様の温かいご支援に心より御礼申しあげます。
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(C)Jリーグフォト








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