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◆特集◆ 新しいふれあい社会を考える
老親と離れて暮らす子の思い、胸の内
(取材・文/城石 眞紀子)
 昨今、老親と子が離れて暮らすことが珍しくなくなり、一人暮らしや夫婦だけの高齢者世帯が増えている。同居家族が介護の苦労を語る一方で、離れて暮らす両親の老いを案じる子どもの思いもまたせつない。そこで本誌では、2号にわたって核家族時代の高齢になっての暮らしを特集する。まず今号では、子の立場から。トークアンケートに寄せられた皆さんの思いを共有しながら、自らの老後や遠距離介護の上手なやり方についても改めて考えてみたい。
 厚生労働省の「平成12年国民生活基礎調査」によれば、1980年から200 0年にかけて、65歳以上の高齢者の中で子どもと同居している割合は69%から約49%に減少。今やその数は半分を割った。一方、増えているのは老夫婦のみの世帯や一人暮らし。2000年の時点では老夫婦世帯は約33%、一人暮らし(うち8割は女性)は約14%となっている。
 
問 現在、あなたの親はどのように暮らしていますか?
 (内側は親が健在の人の内訳)
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 こうした実情を反映してか、10月号で募集した「老親と離れて暮らす」のトークアンケートには、全国から自身の体験に基づいたさまざまな思いが、計65通、その他電話が数件寄せられた。トークアンケート結果での男女比は男39名女26名。女性のほうが多いことを予想していたのだが、「さぁ、言おう」ならではの男性からの多くの声は関心深い。年代別では60代が30名と半数近くを占め、次いで50代が19名(40代7名、70代7名、80代1名不明1名)と、まさに今、親の介護を担っている世代からの投稿が目立った。
 アンケートの結果を見ると、親が健在の人のうち80%以上が離れて暮らしており、そのうち、親が一人暮らしまたは老夫婦で二人暮らしていると答えた人の割合は40%だった。
 
問 親と別居している人へ
 親への思いに近いものをお選びください。
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問 現在ではなく、過去に親と遠く離れて暮らしていた経験がある方へ
 親への思いに近いものをお選びください。
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親と離れて暮らす親に抱く思いとは
 では実際に親と離れて暮らしている人は、親に対してどんな思いを抱いているのだろうか。回答では、「いずれはぜひ一緒に暮らしたい」という意見がもっとも多かったものの、「親の自立意識を尊敬している」「同居は無理なので申し訳ない」「離れているほうがお互いに気楽でいい」が僅差で続いた。一方過去に別々に暮らしていた立場からは、「一緒に暮らしたかった」という後悔は少なく、「自立した親の生き方に教えられた」という声が一番高かった。
 まずは具体的な声から紹介しよう(投稿は一部抜粋、編集しています)。
 
 親は一人暮らしをしている。こちらに来てもよいように、少し広めのマンションに移った。でもやはり、近くに知人のいる自宅を親は選んでいる。兄が同じ都市に住んでいるとはいえ、この先どうなるか心配。このまま今の自分の生活を続けていてよいのか…。皆さん、たぶん思いは同じなのでしょうね。
 (神奈川県 50歳女)

 新しい家を購入する際、すでに80歳を超していた父母と十分相談したつもりでした。当時2人は故郷を離れるのはイヤで、老人ホームに入る際も、知った人がいる田舎がよいということでした。それから数年。「お前らは親の面倒もみない。そんなふうに育てたつもりはない」と言います。今さら二世帯住宅ともいかず、切ない毎日です。
 (東京都 59歳男)

 母は今年で91歳。弟夫婦のアパートの近くに民間のアパートを借り、6年余り、一人暮らしをしている。1年ほど前から老人性痴呆のため支援が必要となり、現在要介護1。週4回ホームヘルパーの訪問をお願いしているが、私も週1回、電車を乗り継いで約1時間半かけて母を訪ね、買い物や掃除、食事の用意などをしている。近所付き合いもないので、これから病状が進めばどうなるのか。やはり私の生活をある程度犠牲にして、同居での介護をせざるを得ないかもしれない。
 (福岡県 66歳男)

 母は明治43年生まれの91歳。現在は要介護度2で老人保健施設に入所している。この6月までは故郷で一人元気で、多分私が定年退職し、家に帰ってくることを夢見て、老骨にムチを打ちながら家と土地の手入れをしてきた。長男である私は年に3〜4回は帰省し、元気づけ、さまざま援助をしてきた。姉も弟もいるが、残念ながら長男の私がいるのをいいことに無関心。冷淡であり、私一人の肩にずっしり責任がのしかかっている。私としてはできるだけ世話をするつもりだが、一人で担わなければならない今の世相がうらめしい。
 (東京都 58歳男)

 
 それぞれの事情で離れて暮らしてはいても、親の身を案じる思いはみな同じ。特に親が弱ってきて、介護が現実のものとなってくると、離れて暮らす親を放ってはおけないという気持ちが強くなるようだ。しかし、「一緒に暮らせば幸せ」というほど、事は簡単でもないようだ。
 
 両親は東京で暮らすのはイヤだと言っていた。一度も離れたことのない田舎には豊かな緑と子どもの頃からの知り合いがいっぱいいたからだ。しかし2人とも入院という状態になって、ようやく私どもと東京で暮らすことを承知した。東京へ来てからの2人は入退院を繰り返していたが、どこへ行っても知り合いはいない。田舎言葉も障壁になったようだ。足腰の不自由な2人はほとんど外出もしなかった。私は東京へ連れてきたことが良かったのかどうか、ときどき悩んだ。もう両親が亡くなってから15年の歳月が流れている。
 (東京都 73歳男)

 「孫は来て良し帰って良し」というが、「親も来て良し帰って良し」であろう。子育ては先が見える。介護は先が見えない。子育ては育てる人が若い。介護は老々介護である。核家族化した今は家族介護は無理。社会介護すべきである。わが家は同居によって共倒れを経験。両親のぼけも進んだ。現在は施設で平穏に過ごしている。子は絶えざる接触で、心の支えになればよいと思う。
 (兵庫県 68歳男)

 57歳で寡婦となった母は、その後一人でしっかりと自分の生き方で生活していたが、70歳、80歳と年を重ねるうちに健康の不安が出てきた。この「不安」は老母自身が思うとともに、子どもの私も感じることだった。そして83歳で体カの限界を自覚して同居を選択。それから4年になる。加齢により、交際していた友人が一人欠け、二人欠けしていくこと。またそばに子どもや孫がいても、話し相手になってもらえない状況は非常に寂しいことだろう。格子のない独房生活にならぬよう、年老いてもミュニケーションのある生活をしたいものである。
 (千葉県 67歳男)

離れて暮らす親に何が出来るか
問 「老親と離れて暮らす」ということにどんなイメージを持っていますか?
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 現実問題として、仕事や子供の教育等の問題で、同居したくてもできないという人も多い。アンケートの結果では、半数近くの人が離れて暮らすことを良くも悪くも「時代の流れ」と受け止めている。平素、どんなつながりを持っているのだろうか?
 
 両親は新潟県にいるが、2人とも元気で社会貢献に忙しい毎日を過ごしている。その心を通い合わせているのが毎週土曜日の電話である。「風邪はひいていないかい?」「今週は孫が遊びに来たよ」など生活を感じさせる話題だが、こんなことで親子の交流が続いている。長生きの薬かもしれない。
 (神奈川県 55歳男)

 実母は高齢で要介護認定でヘルパーさんに助けていただきながら、今だに一人暮らしをしている。教会に行って人との交流を楽しみ、俳句の会では俳句をつくったり、ほんのわずかなお弟子さんにお茶を教え、結構自立を楽しんでいます。急用のあるときは、すぐ私の所へ電話がかかってくるので、私は早速に瀬戸大橋を渡って母のところへ駆けつけます。またホームドクターにもお願いし、体調の良くないときは1週間から10日入院させてもらい、元気になったらまた生活を楽しんでいる様子です。「瀬戸大橋」が私たち親子のスープの冷めない距離です。
 (岡山県 64歳女)

 大分で一人暮らしをしている母から、頻繁に電話がかってくるようになったのは1年ほど前のこと。「動悸がする」「神経痛が苦しい」と体調の不良を訴える。帰省して病院に連れて行っても、どこも悪いところはないという。どうやら、精神的不安からくる老年期のうつ病のようだった。まずは、介護保険の申請をしてヘルパーを頼んだ。自分ではそういうことは思いつかないのである。また、私自身も毎月1回、東京と大分を往復。「側にいてくれると、安心してぐっすり眠れる」と母。「いざというときは、いつでも飛んでくるから大丈夫」と私。その安心感が母には何よりの薬になったようで、近頃はだいぶ落ち着いてきた。今後に備えて、今は福祉情報なども集めている。また、常に母の状況を把握しておきたいので、そのための手立ても思案中である。
 (東京都 52歳女)

 大阪在住の母は現在88歳。8年前に父に先立たれてから一人で暮らしていたが、ある日足が痛くて歩けないということで入院をした。以来6年、今日まで老人病院での生活が続いている。5人兄妹のうち私以外は大阪在住のため、毎日交代で見舞いに行っていたが、ベッドでの生活は刺激が少ないのか、徐々にぼけが進んできた。1年ほど前に定年して以来私も毎月帰省、病院へと足を運ぶようになり、自分にできることは何かを考えた。以前パソコンに孫の写真を取り込んで見せたところ、とても喜んだことにヒントを得て、思い出の写真をパソコンに取り込み、「若い頃、かあさんは美人だったよね」などと言いながら、記憶を呼び戻そうと努めている。施設に入れば、介護の面では家族の出番はなくなる。しかし精神的なサポートは家族にしかできない。少しでも刺激を与えてぼけの進行を遅らせ、また元気づけたいと思っている。
 (千葉県 63歳男)

遠距離介護を上手にするには
 投稿では、多くの人が「精神的サポート」を心がけていることがうかがわれるが、一方で、やはり日常生活への不安も垣間見られる。親と子が別々の土地で暮らし続けるのであれば、いずれは避けられないのが遠距離介護。しかし遠距離介護には、体カ的にも時間的にも、そして経済的にも大きな負担が伴う。特に子ども世代が現役で仕事を持っている場合は思うように出向くこともできない辛さがある。
 介護休業法が1999年に施行されたのは一つのより所だが、職場の理解度はまだまだ低く、不景気の中で大手を振って休めるほど協カ的なところは少ないだろう。また仮に休みを取得できても対象者1人につき3か月ではあまりに短く、いつ終わるともわからない介護には武器とはならない。核家族化が進んで来た今、やはり家族がすべてを面倒見るのはもはや不可能という頭の切り替えが必要だ。身体に関しては公的介護保険制度を、それを補完する手段として民間介護保険の検討を、そして日常の生活支援は地域での助け合いを、離れて暮らす子どもはそれらの手配と心のサポートを、という分担・連携の仕組みを、離れて暮らす子どもの立場だからこそ積極的に考えていくべきだろう。
 離れて暮らす親のケアを考える会「パオッコ」は、自らも「親と離れて暮らす子」である太田差惠子さんが代表として数年前から活動。急増する「遠距離介護者」への支援と情報交換などを行っている。遠距離介護のポイントは言われてみれば当然、ということが実は多い。あとはそれを実行していくかどうかが大きな課題といわれる。読者の皆さんへの改めての確認として、太田さんにまとめてもらった。
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親が元気なうちから準備
 こまめに電話を…遠距離介護を成功させるためには、大きく分けて3つのポイントがあります。1つは親が元気なうちからしておく準備です。もっとも大切なのは、電話などでこまめに連絡を取り、ご無沙汰しないこと。話すことがなければ、“変わったことはない?”だけでもいいんです。こうして日頃からコミュニケーションを密に図っていないと、生活に不自由が生じたり急病などの異変があっても察知できません。また親としても子から音沙汰がないと言いたいことが言いにくくなってしまうわけです。
 頼れる近隣の人を一人見つける…高齢になると倒れる可能性はいつでもあります。特に一人暮らしの場合、何度電話しても出ないというケースでは不安が募るだけ。ですから、いざというときに頼れる近隣の人を見つけておくことも必要。帰省の際に菓子折りでも持って頼みに行き、電話番号も聞いておくと安心です。
 親が住む地域の制度やボランティア情報を平素から取得…親の暮らす地域ではどのような福祉サービスがあるのかもチェックしておくべきです。公的介護保険の対象となるサービス自体は全国共通ですが、提供される内容や質の違い、そしてそれぞれの自治体が独自に行うサービスもありますし、地域によってはボランティア活動を行う市民グループもあります。行政の窓口だけではなく、地域で介護をしている人、インターネットなどを活用して、なるべく多くの情報を収集しておくと、いざというときにあわてなくてすみます。
夫婦、兄弟姉妹、家族間での話し合いを忘れずに
 2つめは本格的な通いがスタートした時点で、親や兄弟姉妹、配偶者も交えて、遠距離介護の進め方をきちんと話し合うことです。とりわけ夫婦間の理解は欠かせないもので、うまくいっているケースでは必ずといっていいほど、夫婦間で親の介護について深い話し合いが行われています。また金銭的負担をどのように分担するかについては、話しにくい話題ではあるものの、欠かせないポイントです。
問題を先送りしない行動カ
 3つめは、気づいたことがあったら即アクションを起こす行動力です。悩んでいても何も解決しない。火の始末が心配なら火災警報器を取り付けるとか、家庭内の事故が心配なら、段差の解消や手すりの取り付けなどを行うなど、心配の種を一つずつつぶしていくのです。そして言うまでもなく、自分の手の届かないところは福祉サービスで補うこと。一人で介護を頑張っていると、身体的にも経済的にも早い段階で行き詰まることが多く、結局介護を長く続けることができなくなります。ですから1日でも長く親の介護をしてあげようと思ったら、福祉のサービスを積極的に利用することを考えましょう。
心の距離を近くに保つ
 最後に、こうした準備と工夫に加えて、忘れてはならないのは、親子で心の交流をしっかり保つことです。親にとって耐えがたいのは“離れて暮らすこと”ではなく、周囲から“子に見捨てられた年寄り”と見られること。“離れて暮らしているけれど、うちの子はこんなに気づかってくれている”。そう言えれば親の不安は和らぎます。ですから、“何かのときには助ける”という姿勢を示して、心の距離を近く保つことを心がけてほしいと思います。
 
 さて、最後にもう一つのアンケート結果を示そう。
 
問 あなた自身は高齢になってからの暮らし方をどう考えますか?
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 結果は、前頁グラフの通り同居は望まないとの回答が70%を超えた。社会構造の変化とともに子ども世代の意識は相当のスピードで変化している。しかし同居せずに、最後まで望む場所で本当に暮らそうと思えば、やはり日々の暮らしをサポートするシステムづくりが不可欠だ。数十年後、自分たちがこうした回答の思いを実現できるように、そして子ども世代が同じ辛さを味わうことのないようにぜひしていきたいものだ。
「さぁ、言おう」99年10月号で紹介した「見守り電気ポット」が遂に商品化へ
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見た目には、ふつうの電気ポットと変わらないiポット
離れて暮らす親の安全や安心を見守るサーピスも
 
 老親と離れて暮らす子にとって、親が元気で暮らしているかは常に気になるところだろう。年を取ると、急に具合が悪くなることも少なくない。一人暮らしであれば、電話のところまで行けずにその場でうずくまってしまうことも十分あり得る。そんないざというときに役立つのが「緊急通報システム」だ。部屋のどこかにスイッチを設けたり、あるいはペンダント型などの通報ボタンを身に着けたりして、緊急事態が発生したときにはそのボタンを押すと、自動的に119番に通報が入り救急車が出動、同時に指定した連絡先に連絡が行くといったシステムだ。自治体によってそれぞれにサービスが実施されているので、自分の地域、あるいは親が住む地域のシステムをまず確認してみよう。
みまもりほっとラインサービスのしくみ
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 問い合わせは、みまもりほっとライン専用フリーダイヤル0120−950−555へ。(関連ホームページhttp://www.mimamori.net)
 
 また最近では、緊急を通報するのではなく、日常を見守ることを目的とした安否確認システムも登場している。本誌99年10月号で家電メーカーの象印マホービン等の協力を得て、身近な家電製品を便って「遠隔安否確認システム」に取り組む福祉ネットワーク池袋本町の取り組みを紹介したところ、その後も読者から多くの問い合わせが寄せられてきた。あれから2年、同社では昨年3月に、当時のシステムを改良して、電気ポットとITを組み合わせ、離れて暮らす家族の生活状況をさりげなく確認できる「みまもりほっとライン」をスタートさせた。これは無線通信機を内蔵した電気ポット「iポット」をお年寄りが使うと、その利用状況がインターネットを通じて離れて暮らす家族に届くというサービスで、携帯電話やパソコンの電子メールで最新の情報を1日2回確認できるほか、専用のホームページで過去1週間のiポットの使用状況や頻度をグラフ化したものを見ることもできるという。日常生活のお茶を入れる行為などを利用するため、「見張られている」といった生活に違和感を感じさせることなく、日々の安心感を提供できるユニークなもの。また設置工事なども不要なのが何よりもうれしい。「高齢者にとっては、iポットの給湯ボタンを押すたびに“私は元気ですよ”というメッセージを送っている実感があり、また家族にとっては、グラフに表れるちょっとした変化から“今日は朝起きられなかったの?”“昨日はどこかに行ってたの?”と自然に声をかけるきっかけにもなります。利用者の皆様からは、“このデータを見て、確実に話す機会が増え喜んでいる”“生活の様子が何となく想像できて便利”“長期の出張や旅行に出かけているときも安否確認できるので安心”といった声が寄せられています」(同社・広報)
 なお、サービス料金は契約料(初回のみ)が1万5000円。月額利用料はiポット貸し出し代も含めて3000円(契約料、月額利用料とも税別)。
 こうしたサービスを上手に組み合わせながら、互いの心の距離を短く保っていたいものだ。








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